焔の剣Ⅳ
友達
オレ、エルネスト・ベネジェートは冒険者ギルドのリーダーだ。
それに加え、11歳のときから3年間、国内ナンバー1の冒険者の座を誰にも譲ってない。
こんな功績を残しているせいで、オレは当然、国中に名前を知られている。当然、国のお偉いさんにも。
「・・・して、ベネジェート君。次の大会の日取りなんだが・・・」
今オレは、大好きな冒険にも行かず、堅い表情をした男と個室で話をしている。
そう、オレは今、大嫌いな「仕事」をしている。仮にもギルドリーダーなので、色々としなければならないことはあるが、嫌なものは嫌である。
今は、オレも毎年参加している、国内最強の冒険者を決める大会の日程を決める話をしているが、これですでに5件目だ。
この話の前は、ギルドの経費についてやら、国への納税金についてやら、その他のお金の話など、お金の話ばっかりだったのだ。
「・・・では、今回はこれにて。今後も国のために尽力してくれ。」
男が席を立つ。どうやら、話はこれで終わったようだ。男が部屋から出ると同時に、ハァ~と大きな溜息が出た。
ミラやボニファーツは、依頼をしに行っている。他のメンバーも、各自で忙しいようだ。
「・・・・今日はもう、適当に時間潰そう。」
そう言って、席を立つ。今日は、街をぶらぶら歩くことにした。
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オレ達のギルドがある、この国の名前は「グリーノ王国」。
国の規模は大きい方で、あっちの世界でいうアメリカや中国のようなものだ。
国名にもある通り、国王がいる。ここでは何事も「国のため、王のため。」である。なので、オレは正直、苦手意識を持っている。
日本の民主主義が恋しいなーと呟いて歩いていると、なんだか妙な奴を見つけた。
明るいブロンドの髪に、整った顔立ち。背はオレと同じくらいで、性別は、見た感じ男。
これだけなら良いのだが、妙なのは、そいつの行動である。
周りのどこにでもある物に目を輝かせ、たまに「うおー」とか「へー」とか言っている。
それだけでなく、服装も何やらおかしい。派手というか、なんというか。
オレの目線に気がついたのか、その少年と目が合った。
少年の碧い目が、こちらに向けられる。そして、何故か楽しそうにこちらに走ってきた。
「ねえ、そこの。」
なんだか、初対面のクセして偉そうな少年だった。本気で何なんだろう、と思っていると
「ちょっと、そこでメシ食おうぜ!金は、全部僕が持つからさ。」
などと、いきなり予想もしなかった申し出を言ってきた。
「え?なんでオレが・・・」
「いいから!!」
どうやら、こちらに拒否権はないらしい。オレは謎の少年の勢いに流され、レストランに入ってしまった。
どうでもいいが、この店は物凄くおいしい代わりに、物凄く値段が高いことで有名なレストランなのだが、この少年は分かっているのだろうか?
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「おい、オマエ、名前は?」
少年は、オレを席に連れていくなり名前を尋ねてきた。かなり上から目線で。
「・・・・人の名前を尋ねるときは、まず自分から名乗れ。」
できるだけムスッとした感じで言ったつもりだが、内心は
(ぃやったぁーー!!言えたーー!!ヤッベ、テンション上がってきた。)
である。このセリフ、実は言ってみたかっただけなのだ。
「あ、そうか。今は僕を知らないのか。」
少年は、少しおかしな返答をしてきた。まるで、いつもならオレは知っているかのような。
「僕はレオ。レオ・ヘンドリック・グリーノだ。」
・・・なるほど。名前を聞いて、今までのこの少年の立ち振る舞いに納得がいった。
服が周りよりも派手だったので、貴族か王族か?とは思っていたが、そんなものではなかった。
グリーノ。この国の名前と同じ名字を冠しているということから、考えられることは1つ。
こいつ、この国の王子だ。「レオ」といえば、確か4男だったような。
「ほら、僕は名乗ったぞ。今度こそオマエの番だ。」
少年、レオは今度こそオレの名前を聞こうとしている。
王子なんだから、言葉遣いとかどうしようかと迷ったが、あちらはお忍びの様だし、このままの口調を貫くことにした。
「オレは、エルネスト・ベネジェートだ。周りからはエルって呼ばれてる。」
オレが名乗ると、レオは目を丸くしてポカンとしていた。どうしたんだろうと思っていると
「・・・オマエが、あのエルネストか!!」
どうやら、レオはオレのことを知っているらしい。まあ、国内で最年少かつ最強の冒険者なのだから、知っていてもおかしくはない。
「オマエからエルネストのギルドの場所を聞こうと思っていたのだが、オマエがエルネストならば話は早い。1つ、聞きたいことがある。」
レオは、オレに用があってこんな街まで来たらしい。王子自ら何なのだろうと思っていると
「単刀直入に聞こう・・・・・オマエ、殺し合いは好きか?」
などと、すごい質問をしてきた。
「・・・どうゆうことだ?」
「僕は昔から、殺し合いが大好きなんだ。見るのも、やるのも。オマエも同じか?と、聞いてるんだ。」
・・・・・なんだよ、こいつ。
「・・・正直に答えていいのか?」
「そうして貰わないと困る。」
・・・・・こいつ。
「じゃあ言うぞ。オレは殺し合いが・・・」
・・・・・結構、
「大っっっッ好きだっっっっっっッ!!!!!!!」
話し合いそうじゃん!!!
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「やっぱさ、あの殺るか殺られるかの空気がたまんないと思うんだよな、オレは!!」
「分かる分かる!!あとさ、喧嘩で相手をぶん殴ったときの人肉の感触って最高じゃない?!」
「あのグチャってなる感じだろ?最っ高だよなアレ!!」
物騒な会話が続く。温室育ちの坊っちゃんかと思ったら、全然違った。
レオは、オレと同じ人種だ。命の奪い合いの中で快感を得る、狂った人間。
オレもレオも、そういう人種なのだ。
「あー、こんなに楽しい会話、何年ぶりだろ?」
レオは、心底楽しそうに呟いている。同じ趣味の相手が見つかって、嬉しいのだろう。
「レオは、何回殺しあったんだ?」
「どうかなー?喧嘩の域なら何度もあるけど、殺し合いはまだ4,5回かな?」
「そっか。どうやって喧嘩相手を探すんだ?」
「あぁ、高い服着て歩くと、そこらのバカがすぐ喰いついてくるから。正当防衛ってことで、そいつらを喧嘩相手にしてるんだ。」
「なるほどな。」
しかも、レオは決して理不尽な暴行、殺人はしないらしい。必ず、殺るときは相手から手を出させる。
社会的な道徳心は大抵身に付いているのに、殺し合いにのみ、それを欠落させる。
まさしく、オレと同じだ。こいつとは、今まで人には言えなかったも話せるようだ。それだけで、かなり違う。
「おっと、もうこんな時間だ。」
時計を見ると、いつの間にか午後4時30分になっていた。
「また、ギルド来いよ!!レオ。」
「ああ、エル。」
オレとレオは、いつの間に仲が良くなっていた。自分と同じ趣味の友達がいるだけで、これからもがんばれそうだ。
レオは、ここのクソ高い代金もシレっと払っていた。さすがは王子。
「じゃあ、またな!!エル!!!」
そう言って、レオは帰っていく。
今日、新しい友達ができた。
焔の剣Ⅳ
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ありがとうございました。