焔の剣Ⅲ
ギルドリーダー
5月某日、温かかった日差しが、少しずつ暑くなっていく、今日この頃。
ボクは、今週も1週間を乗り切った。周りからの嫌がらせにも耐え、土、日曜日の休日がやってきたのだ。
そして今は、その日曜日だ。今日は、姉の華から本でも借りてこようと、姉が住んでいるマンションにやって来た。やって来たのだが。
「改めてありがとね、シユ君。泊らせてもらって。」
「どういたしまして・・・って、なんか周りから聞かれたら誤解されそうな会話だな。」
姉は、何故か家に入らず、ドアの前で親しげに会話してた。しかも、男と。
ボクは、初対面の人と会うのは苦手なタイプである。片方が知り合いであろうと、楽しそうな空気に割って入るなんて論外だ。
なので、ボクは曲がり角に隠れて会話が終わるのを待とうとした。しかし
「あ!!シユ君、来たよ!!」
何故か、あの2人は、ボクが来るのを待っていたようだ。
「・・・どうも。」
仕方がないので、姉の彼氏っぽい人に軽く挨拶をして、理由を聞いてみる。
「なに、この状況。」
「いや~、鍵を無くしちゃって。」
と、言うことらしい。どうやら、目当てはボクの合鍵のようだ。
「・・・じゃあ、合鍵あげるよ。ボクのはまた作ってもらえばいいし。」
「ごめんね、和也。」
そう言って、姉はボクから合鍵を貰い、家の鍵を開ける。それと同時に、彼氏っぽい人がこちらに話し掛けてきた。
「なあ、ちょっといいか?」
「なんですか?」
できるだけ当たり障りのないように、言葉を返す。
「君、秋風の弟なんだろ?ならさ、姉ちゃんに教えてやってよ。男って危険なんだぞって。」
そう言われて、なんとなく事情を察した。おそらく、天然で自由奔放な姉のことだ。相手のことを気にせず、グイグイ近づいてくるのだろう。
「まあ、機会があれば。」
そんなやり取りをしていると、
「中入らないの?2人とも。」
姉が、家に入るよう呼びかけてきた。こちらも、早めに目的を済ますとしよう。
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「ヒッ!!ゆゆ、ゆるして!!!!」
「まだだ。」
そう言ってオレは、相手を殴り続ける。相手は顔面は腫れや傷で形が変わっているが、こちらの拳も、相手の固い頭蓋を殴り続けた代償と
して折れた骨が皮膚を貫通して剥き出しになっているので、こちらの怪我もひどいのだが。まあ、殴る度に骨が顔面に突き刺さるので、むしろ好都合だ。
何故オレがこんなことをしているかというと、理由は1時間前に遡る。
午前中のうちに簡単な依頼を終わらせ、午後はギルドでまったりしていると、
「おい、大丈夫か!?」
ボニファーツが慌ただしく入り口に走っていく。こちらも気になってそちらに振り向くと、ボロボロになった男が立っていた。
その男は、ウチの冒険者ギルドのメンバーで、名前はペーター・ギースベルト(オレはペータと呼んでいる)という。
「どうしたんだ、ペータ?」
オレもペーターの方に行き、事情を尋ねる。おそらく、討伐関連や犯罪者関連の依頼にでも行ったのだろうと思っていた。しかし
「ほ、他のギルドの奴が、俺と同じ依頼やってて、それで、邪魔だからって・・・。」
それを聞いた途端、全身の体温がヒヤっと下がった気がした。この感覚は、知っている。
怒りを通り越したときに湧いてくる感情。
つまりは、殺意だ。
「ペータ、相手はどこのギルドの奴だった?顔の特徴も教えてくれ。」
出てきた声は、人間の感情が欠落した機械のような声だった。ペーターやボニファーツも少し怖がってしまうくらいの。
相手の所属しているギルドや顔の特徴を聞き出して、そのギルドの近くで待ち伏せする。
そして、顔の特徴と一致している奴を見つけると、今日の日程を聞き、ペーターの行っていた依頼と同じ依頼に行ったと言った奴を
なんの躊躇いもなく、全力で殴り付けた。
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「ペータ、こいつか?」
とりあえずオレが満足のいくまで殴り続け、そのあとはそいつをギルドまで運び、ペーターの確認をとる。
今回の件に関しては、腹を立てているのはオレだけではないらしい。ボニファーツや、普段はおとなしいミラまで厳しい表情を
その男に向けている。
男の怪我は、ミラに治してもらい、喋れる状態に戻してもらった。そのとき、オレの拳をみて、
「なんで、こんなになるまで殴り続けたの!!?」
と、すっっっごく怒られた。そりゃ、拳の骨と肉がグッチャグチャになっていたら、そう言うだろう。なので今回は、素直に謝ることにした。
「さて、とりあえずウチのペーター君に謝ってくれない?一言と言わず、いくらでも。」
オレを見た男は、完全に怯えていた。まだ14歳のオレだが、威圧感くらいは出せるようになったらしい。
「す、すいません・・・。」
「そんなんで許されると思ってんのかカスがぁっっ!!!」
その形だけの謝罪に、おもわず男を蹴り飛ばしてしまった。おそらく、ペーターなら今の言葉でも相手を許すだろう。元々、根が優しい少年
なのだ。
しかし、それではまた同じことが起きてしまう。謝るということは、相手に屈服するということだ。少なくとも、オレはそう思っている。
ペーター自身のためにも、ここで相手に心からの謝罪をさせてやるのがいいだろう。それで、この件を終わらせることができる。
「えっと・・・エルネ、別にそこまでする必要は・・・。」
「いや、ここでアイツに本気で謝らせて、この件をチャラにしよう。そしたら、お互い気持良く過ごせる。」
お前もそれがいいだろ?と、言ってやると、ペーターも納得してくれたようだ。
「あ・・・すっすいません!!自分、周りのことが見えてませんでした!!!本当にすいませんでしたっ!!!!」
今度は、腹から声を出すような大きな声で、心の声をそのまま口に出したような、感情の籠った声が聞こえてきた。
それを聞いて、周りの空気が弛緩する。ミラもボニファーツも、これで納得のようだ。そして、肝心のペーターも
「ウン、分かったよ。」
そう言って、男を許した。終わりはあっけなかったが、とりあえず、この暴行事件は無事解決したのだった。
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「エル、怒るのはいいけど、少しやりすぎだったよ。」
男が帰ると、ミラがそんなことを言ってきた。
「そうか、確かにそうかもな・・・。」
思い返してみれば、あの蹴りはいらなかった。勢いでやってしまったが。
そういえば今日、和也のときにも何か言われた気がする。男って危険だとかなんとか。
確かに、今日のオレは危険だった。あのまま、あの男が態度を変えなかったら、殺していたかもしれない。
オレも和也も、感情のコントロールをもっと上手くできるようにならなきゃな、と1人で反省していると
「エルネ!」
そう言って、ペーターがこっちに向かって走ってきた。
「今日はありがとう。おかげで、スッキリしたよ。」
「ああ、言ったろ?お互い気持良く過ごせるって。」
色々と反省点はあるが、やはりお礼を言われるのは素直に嬉しい。
「これからも頼りにするぜ、リーダー。」
なんて、さらに嬉しいことを言ってくれた。隣にいるミラも、微笑んでこのやり取りを聞いてくれていた。
「・・・お前、ホントに良い奴だな、ペータ!!」
「へ?へ!?」
驚いているペーターを余所に、がっしりと腕でホールドする。
リーダーをやっていて、こんなことを言われると、ホント、リーダー冥利に尽きる。
そうだ、オレは、こいつらのリーダーなのだ。これからも頼れるリーダーでありたいし、もっと頼られるようにもなりたい。
それには、先ほどの反省を踏まえて、もっと成長しなければならない。
オレはまだまだ子供だが、周りにはこんなに良い仲間がいてくれるのだ。
きっと、まだまだ成長できるし、もっと楽しめるだろう。
そんなことを思っていたら、なんだか気恥づかしくなってきたので
「よし!オレ、今日徹夜でSSランクの依頼行ってくる!!」
「「「やめろ(なさい)!!!!」」」
ミラとボニファーツとペーターに止められてしまった。残念。
まあ、結局こっそり行ったのだが。そして、あまりにボロボロになって帰ってきたので、またミラに怒られてしまった。
焔の剣Ⅲ
あけましておめでとうございます。
今日から2016年ですね!!がんばりましょう!!