ENDLESS MYTH第2話-15

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 埃のの煙が沈静化したホテルのロビーだった瓦礫の山の中から、命を拾ったように這い出てきたのは、ジェフ・アーガーであった。
 爆風が起こった瞬間、偶然にも床が崩れ、丁度、彼1人が隠れられるシェルターを形成、上に瓦礫が落下することもなく、身を護ることに成功していた。
 1人、遅れてホテル外へ駆け足で出た時、一緒に行動を共にする者たちがステーションの、天井と呼ぶにはあまりに高い上空を見上げていたので、つられ見上げて見ると、光の人型が複数、メシアを囲み腕を伸ばしているところだった。
 と、メシアは不意に力が抜けたように、彼の肉体だけ重力が変化したかのように、落下した。
 これを目撃したジェフは、担いでいたアサルトライフルを放り投げ、気づくと身体が勝手に走り出し、落下してくるメシアの直下へ滑り込むよう入り込むと、両腕を広げた。
 成人男性が数十メートル上空から落下するのである。地上と同様の重力設定となっているステーション内。ジェフが受け止めて2人とも無事であるはずはなく、誰が考えても無謀な行為だった。
 けれども命を落とそうとしている人物を目の前にして、ジェフは黙ってはいられなかった。
 みるみるメシアの背中は大きく、ジェフへ接近してくる。
 と、次の瞬間、ジェフは不可思議な現象を目撃した。メシアの肉体が微量の輝きを放ったとみるなり、落下速度が急速に低下、ジェフの腕の中に入る頃には、まるで落ちる鳥の羽のように、フワリ、フワリと捕まえるのに何ら苦労しない速度となっていた。
 光が沈静化すると、メシアの肉体はジェフの腕の中にしっかりと収まった。
 自分は今、何をみたんだ? ここ数時間、不可思議な事ばかりがおこり、ジェフ・アーガーの頭は混乱した。
 そしてメシアという人物がなんなのか、気を失っている彼の顔をのぞき込むのであった。

 デーモンの動きは活発になる。
 醜い半透明のぶったいは、次第にその色を黒く染め、形も歪んでいく。やがて形は完全に崩壊するとまるで黒煙のように空中へ拡散、拡大していった。
「本来の姿となりましたね」
 アストラルソウル、汎用性霊体には本来、固有の形は存在しない。そもそも物質ではないのだから。生命体となる場合は、その固有振動数を低く保ち、物体化する。つまりアストラルソウルは生物には計測できない振動を行っているその振動数を低下させることで、物質として素粒子、あるいは超紐理論などで提唱される物質の最小単位を発生させる。そうして物理世界へ誕生することを可能とする。
 けれども本来は形がなく、可視するのも不可能である。デーモンとはアストラルソウルから墜ちた存在であるから、本来はこうして現実世界に在ることはできないのだが、無理矢理に自然界の摂理を変化させ、自らを存在させているからこそ、黒煙のように人間の肉感に反映されていた。
 KEJYAの娘は再び白い巫女姿の懐から札を1枚抜き取ると、またしても宙へそれを放り投げた。
 すると今度は札から炎が噴出するなりみるみる巨大化すると、瞬く間にそれが実体化した。まるで炎がそのまま固まったかのように尖った鱗を数多備えた龍が彼女を中心にとぐろをまいていたのである。
「お前の柔らかい肌を食いちぎり、陵辱を楽しむぞ」
 言葉というよりテレパシーに近い、彼女にしか聞こえない声でデーモンは叫ぶと、黒煙は彼女めがけて突進を開始した。
 意思を持った気体とは不気味である。立ち上ることしかないものが、意思を持ち、自在に移動するのだから。
 迫る黒煙の渦を前に、凜然と胸を張る彼女は、人差し指と中指を顔の前で立てるなり、瞬時に指先を黒煙へと、切っ先を向けるように突きつけた。
 それを合図に龍は牙を剥きだし、黒煙へと迫ったのである。
 龍と黒煙は2匹の蛇が絡み合うかの如く、中空でもんどり打ち、龍の鱗がきしみ、ひび割れる鈍い音が小さい街に、幾度も響き渡った。

「龍なんて、嘘だろ!」
 地上でこの様子を眺めていた一行の中で、イラート・ガハノフが興奮気味に叫んだ。それは台風を前にした少年の興奮に似ていた。
「龍に見えているだけですよ」
 冷静に状況を分析したのは、マックス・ディンガー神父である。
「龍に見えるのは、彼女の意思が具現化したものに過ぎません。あそこで行われているのは、エネルギー体同士の衝突です。勝敗は両者の精神力で決まるのです。彼女の精神力が強いのか、デーモンの邪念が強固なのか。どちらかが怯んだ瞬間、勝敗は瞬間的に決定するはずです」
 と、彼の言葉を実現するかのように、あっけなく勝敗は眼前で決定した。
 龍は黒煙から抜け出すなりその細長い肉体から光を照射する。
 これを浴びた黒煙は、炎に焼かれるかの如く苦しむように、消えていくのであった。
 彼女に言葉はなく、またデーモンにも言葉はない。
 ただ勝敗を決した彼女の周囲に再びとぐろを巻いた龍は、役目を終えたことを自ら認識して、ゆっくりと透明になりやがて姿を消したのだった。
「デーモンはどうなったの?」
 マキナが神父の横で小さく呟く。
「消えたのです。アストラルソウルから墜ちたデーモンとは、生命の元とも言える、因果律を行き来するもの。消えてしまえば、転生も誕生もありません。本当の意味の死なのです」
 一行の前で行われたのは、人智を越えた出来事。物理空間の外側の話なのだ。

ENDLESS MYTH第2話ー16へ続く

ENDLESS MYTH第2話-15

ENDLESS MYTH第2話-15

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-31

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