アレルギー

すみません、と声を掛けられ振り向くと、僕の顔を見たその少女は急に暗い顔になり、目の前でゲロゲロと吐き出した。
大丈夫か、と尋ねると少女は「大丈夫です。私、じじいアレルギーなんです」と言って、少し離れたところにある木の陰に隠れた。
昨日、二十歳の誕生日を迎えた僕は、声を大にして木陰に向かって話しかけた。
「こんな山奥に一人でどうした?」
「毒キノコを探してるんです」
物騒な世の中になったものだ。
「食べてみたいのです」
ある意味、物騒な世の中になったものだ。

あるよ、と声をかけると少女は「本当ですか」と言って、木陰から出てきて笑顔で僕の元へ走り出し、途中でゲロゲロと吐き出した。
一瞬、自分が二十歳であることを疑った後、すぐに打ち消した。
大丈夫か、と尋ねると少女は「大丈夫です。それよりどこにありますか」と言って、ふらふらしながら、少し離れたところにある木の陰に隠れた。
「ついておいで」と木陰に叫ぶ。
蚊の鳴くような声で返事が聞こえたので、僕は目的の場所へ歩き始めた。
途中、後ろを振り向くと、僕から10メートル位離れた所に立っている。
また少し山道を歩いて、再び後ろを振り向くと、僕から10メートル位離れた所に立っている。
永遠に終わらない「だるまさんがころんだ」を小一時間やった後、目的地に着いた。

後ろを振り向くと相変わらず僕から一定の距離を置いて立っている。
少女に向かって大声で伝える。
「この木の下にあるのが毒キノコだ」
「ありがとうございます」
少女は僕が離れるのを待っているようだ。
僕がその場を離れていくにしたがって、少女が毒キノコに近づいていく。
ためしに毒キノコの方へ戻りかけてみると、それに合わせて少女が後退しようとするので、少し悲しくなる。

毒キノコを手に「ありがとうございました」と言うと少女は去っていった。
少女が見えなくなった後、ようやく体のかゆみがおさまった。

アレルギー

アレルギー

すみません、と声を掛けられ振り向くと、僕の顔を見たその少女は急に暗い顔になり、目の前でゲロゲロと吐き出した。大丈夫か、と尋ねると少女は「大丈夫です。私、じじいアレルギーなんです」と言って、少し離れたところにある木の陰に隠れた。

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-31

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