焔の剣Ⅱ
「焔の剣」の続き。
炎の奇術師
燃やす。燃やす。オレがやれることは、これだけだ。
燃えろ。燃えろ。だったら、この火のように、激しく生きようと思った。
その信念が、オレの小さな火を焔に変えた。
焼き尽くせ。焼き尽くせ。この焔が尽きるまで。
ボクが、この焔になれるまで。
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街を出て、ずっと北に進んだところにある洞窟にオレ、エルネスト・ベネジェートとミラベル・ラフォンはやってきた。
今回の依頼は、洞窟に住んでいるドラゴンが人を襲うので、それを退治しろというものだった。
「ね、エル。私が足でまといだと思ったら、すぐに言ってね。」
オレと一緒に、洞窟の近くの岩陰に隠れているミラは、そんなことを言ってきた。
「大丈夫だって。ミラは強い。オレが保証するさ。」
「でも、さすがにアレ見たら自信なくなっちゃうな・・・。」
そう言ってミラは洞窟に目線を移す。オレも、その目線を追う。
そこには、今回の討伐対象であるドラゴンが鎮座している。あっちはあっちで何かに気付いたのか、周囲を警戒しているようだ。
大きさは25メートルというところ。かなり大きいサイズだ。
「とにかく、ミラは遠くから魔法で攻撃してくれ。得意だろ?氷魔法。」
「分かった。でもエル、無理だと思ったらすぐに逃げるんだよ?エルが強いのは知ってるけど、死んじゃったら元も子もないからね。」
ミラは、すでにオレが単身突っ込んで行くことを分かっているのか、身を案じてくれるだけで、止めはしなかった。
「大丈夫。ミラは自分だけ心配してればいいんだよ。」
そう言ってオレは隠れるのをやめて、ドラゴンへと向かっていく。
「相手も味方も全部利用するのが・・・オレの戦い方だから。」
最後にそう呟いて、オレはミラから離れていった。
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オレは、腰に携えた愛剣を抜く。使い慣れた片手剣は、すぐに手に馴染む。
ドラゴンの方も、先ほどから感じていた何かが形となって現れたため、完全に敵意をこちらに向けている。
ミラのほうも、いつでも魔法を使えるように準備をしている。
「おいトカゲ、残念だったな。もう少しおとなしくしておけば、オレは来なかったかもしれないのに。」
ドラゴンは人の言葉を理解できない。それは分かっているが、昂ってきた気持ちを抑えられず、つい口が動いてしまう。
「゛炎の奇術師 ゛お前みたいなやつを狩りまくってたらいつの間についてた通り名だ。」
ドラゴンは、今にでもこちらを噛み殺しにきそうだ。しかし、それはこちらも同じこと。オレも、こいつを早く焼き殺したい。
「それじゃ、せいぜいオレを楽しませろよっ!!」
「ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
ドラゴンの、大きな咆哮が辺りに響きわたる。その中で、剣を片手に、心底楽しそうに笑いながら、ドラゴンへと突っ込んで行った。
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私は、いつでもエルを援護できるように準備しておく。しかし、私の出番はほぼ無いに等しいだろう。おそらく、今回も。
エルは、私たちの冒険ギルドのナンバー1の座に君臨している。しかし、生憎彼はその程度の器ではない。
この国では、どの冒険者が1番優れているかを決める大会がある。トーナメント方式で、冒険者同士を戦わせるのだ。
しかし、この大会は真剣勝負なので、死者が出てしまうこともあるのだ。幼馴染である私たちがその大会を見たのは、
私が12歳、エルが10歳のときだ。名勝負もあれば、ドロドロした血塗れの勝負もあった。
私はそれを見て、1番になれたらいいが、痛いのは嫌だなと思った。しかし、それを見たエルは
「いいなぁ~・・・。」
そう、呟いた。私は、エルも男の子だなと思い、もっと大きくなってからねと、エルに言った。
しかし、その翌年の大会で、エルは勝手に出場していた。大きい大人に囲まれて、1人、小さな子供が。
私はそれに気づいて、急いで大会を見に行った。その頃には、大会は決勝にまで進んでいた。
しかし、そこでは、観客全員がありえないモノを見ているような顔をしていた。
どうしたのだろうと、闘技場を見てみると、常識ではありえない光景が広がっていた。
まだ11歳の男の子が大の大人の剣を、魔法を、拳を、蹴りを、当たり前のようにかわし、逆に魔法と剣を的確に当てていく。
プライドを傷つけられ、激昂した男の猛攻に少年は何度か被弾する。
しかし、同じ年代の子ならとうにパニックになっている程出血しようが、腕を折られようが、
少年は最後まで、飢えた肉食獣が獲物を見つけたような笑顔を見せ続け、その男を負けにまで追い込んだ。
その日、最年少のナンバー1冒険者が現れたことは、あっと言う間に国全体に知れ渡ることとなった。
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「ーーーーーーーー!!!!!!」
辺りは、灼熱の地獄になっていた。
原因は、1つはドラゴンが大量の炎を吐いてくること。もう1つは、オレが剣の他に、火の魔法を使っていることだ。
オレは魔法については、他の人と違って炎を出すことしかできない。万能タイプではなく、一点特化タイプなのだ。
「よっと!!」
地面に爆風を起こし、相手の腹を斬り付ける。ドラゴンという生き物は、背中は鱗でびっしりだが、腹部は守りが手薄なのだ。
しかし、ちっぽけな人間の持つ剣程度では、致命傷は絶対に与えられない。他の冒険者なら、重量の大きい武器で鱗を割り、大がかりな
魔法で攻撃するのが常套手段だ。だが、オレはその方法は使わない。
その方法が出来ないわけではない。むしろ、大がかりな魔法は結構使っている。
ただ、そんな面倒なことをしなくても勝てるだけである。
オレは、ドラゴンの腹に剣を刺し、体を固定させる。そのまま、傷に手を思い切り突っ込む。そして
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
その傷口に、全力で火の弾丸を撃ち込んだ。
体内に直接、高速で1000℃を超える弾丸を撃ち込まれたれたドラゴンは、激しく暴れだす。
炎は肉を溶かし、血液を蒸発させながら、相手の骨や内臓に直接ダメージを与える。その痛みは、想像を絶するだろう。
たまらずドラゴンは、後ろに飛び退く。しかし、そこにも地獄が待っている。
「いらっしゃ~い♪」
オレは、戦いのなかで、ミラに合図を送った。
ドラゴンが洞窟の入って逃げないように、氷の壁で入り口を塞ぐこと。そのついでに
それを大きなトゲでいっぱいにすること。
ミラのアシストは最高だ。そのおかげで、洞窟の入り口は氷の針地獄となっている。
そして、そこは今まさに獲物が頭から突っ込んできた場所だ。
そしてドラゴンは、トゲを頭に受け、なすすべなく即死した。
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「あ~、終わった。」
そう言って、岩陰に隠れているミラの方へ向かう。お互いの功績を称えるために。しかし
「あれ?ミラ、どうした?」
何故か、頭を抱えてその場にうずくまっている。怪我があると大変なので、呼びかけてみる。
「お~い、ミラ。大丈夫か?」
「こっちのセリフだよ!!!」
急にこちらに向かって怒ってくる。何故だろう?明らかにオレの方が元気なのに。
「エル!!言ったよね、無理しないでって。なのに、どうしてそんな当たり前のように大怪我してくるの!!?」
・・・大怪我?なんのことだろうか。全く見当がつかない。
「左腕!!ドラゴンに引っ掻かれたでしょ!!!」
あ。ホントだ。見てみると、左腕から大量の血が流れている。人体の構造的に、そろそろヤバい位の。
「ヤベ、塞がなきゃ。」
そう言って、自分の魔法を自分の腕に躊躇なく使った。
「だから、なんでそんな危険なことするの!!?私が治癒魔法使えるの知ってるでしょ!!!」
余計に怒られた。確かに痛いが、傷を焼いて塞ぐのは、オレが1人のときはよくあることなのだが。
すると、ミラが急に抱きついてきた。
「ちょ!?急にどした!!?」
「怖かったんだよ・・・。」
ポツリと呟いた。いきなりの行動にオレはびっくりしたが、その言葉を聞いて、すぐに冷静になる。
「ごめん・・・。また心配かけた。」
「ホントに怖かったんだよ。エルが死んじゃうかもしれないって・・・。」
オレは、根っからの戦闘狂だ。自分の命と相手の命をかけて殺し合う時間は、オレにとって至福の時間だ。
しかし、それに夢中になり過ぎて、周りに心配を掛けることも多々ある。それに関しては、今目の前にいるミラが一番の被害者だろう。
これは、数少ないオレの短所だ。そして、同じく数少ない、エルネスト・ベネジェートに出来ず、秋風和也にできることだ。
和也のときは、いじめのことを誰にも話さない。心配を掛けたくないから。エルネストのときは、その気遣いが出来ないでいた。
早めに直さなきゃな、と反省することにした。そして、そろそろ目の前の相棒を元気にしてやるとしよう。
「それはそうと、ミラ。お前くっつきすぎだ。」
「ふぇ?」
間抜けな声を出したと思うと、ミラは、顔を真っ赤にして、物凄い速さで離れて行った。
「えっとね!!い、今のは・・・その・・・勢いというか・・・なんというか・・・」
ミラは、こういう話にめっぽう弱いのだ。この反応が楽しいから、オレもついイジメたくなるのだ。
「いや~。柔らかかったな~。もっと抱きしめたかったな~。」
「も、もっと!!?」
ほら、反応した。何事も、自分の思い通りに物事が進むのは気持良いものだ。
「ていうか普通に胸も当たってたし。誘ってるようにしか思えないんだけど。」
「へ!?あ、当たってた!!?っていうかエル!!まだ14歳なんだから、あんまりそういうこと言わない!!」
そのまだ14歳に手玉に取られる16歳ってなんなんだって話になるけどな。
「まあ、とにかく依頼完了の報告に行こう。ここからギルド協会まで近いだろ?」
「あ・・・そうだね。あんまり死体は見たくないし。」
ミラにとっては、頭を貫かれて死んだドラゴンの死体というのは、いささかショッキングな光景なのだろう。すぐにオレの提案に乗ってくれた。
左腕に治癒魔法をかけてもらい、協会に向かう。さて、今日の冒険は、これで完了のようだ。
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「・・・・・・・・。」
エルネストが眠りにつき、今度はボクが目を覚ます。
エルネストは、今日も仲間とともに、楽しく一日を過ごした。
ボクが、この2人の自分がいることが他の人にはないと気付いたのは、7歳のときだ。
それまでは、これはみんなの言う夢なのだと思っていた。しかし、みんなの言うことと自分が得た情報がなにか違うと感じ始めた。
決定的だったのは、姉の華とミラに試しに夢について聞いたときのこと。
「「夢っていうのはね、フツーはたまに見て、自分の思い通りにならないんだけど、和也/エルは違うの?」」
まだ幼かっただったボクとエルネストでも、分かってしまった。
自分は違うのだと。これは、2人の自分しか共有できないものなのだと。
以来、ボクは人と関わりを持てなくなってしまった。エルネストのときは、ならばとことん特別になってやろうと開き直ったが。
ベッドから降りる。そろそろ学校の準備をしなければならない。
正直、和也でいるときは、苦しいことが多い。しかし、和也の時間が終われば、エルネストの時間がやってくる。
今は、それを楽しみに生きている。ボクとエルネストは、2人で1人。ここには友達と呼べる人がいなくても、向こうに行けば、
ミラやボニファーツが、温かく迎えてくれる。
今日も、それを楽しみに過ごすとしよう。そして、早くボクも強くなろう。今の状況を、早く変えられるように。
焔の剣Ⅱ
まだ、続ける予定です。
和也の姉については、ある作品に書いてあります。興味があれば是非(宣伝)。
って、向こうにも似たようなこと書きました。(笑)