探偵と刑事
小説家になろうに掲載中の作品です。
第1話:人捜し殺人事件
俺の名は黒沢(くろさわ) 聡(さとし)。都内で探偵事務所を経営している。
今日は依頼人が来ている。それは、警視庁捜査一課の荒川(あらかわ) 洋子(ようこ)警部である。
「で、依頼の内容は?」
「居なくなった彼氏を捜してほしいの」
「そうか。じゃあその彼氏の名前を教えてくれないか?」
「三上(みかみ) 雄一(ゆういち)よ」
「写真は?」
洋子は懐から一枚の写真を取り出した。
「これが三上 雄一か」
写真には二枚目の男が写っている。容姿端麗な洋子にはお似合いだ。
「金はあるんだろうね?」
洋子は懐から封筒を取り出した。その中には福沢さんが五十枚入っている。
「取り敢えず前金として五十万用意したわ」
「有り難う。所で、彼氏の捜索願は出てないの?」
「それが……彼、身寄りが居なくて」
「そうか。取り敢えず、彼の家に行ってみよう。何か手掛かりが掴めるかも知れないしな」
「行ってみようって、私も一緒?」
「当然。だから道案内してくれ」
俺はそう言うと、出掛ける仕度をし、洋子と共に事務所を出た。
俺と洋子は三上 雄一の住むアパートにやってきた。
部屋の鍵は大家さんに事情を説明して開けて貰った。
「さて、手掛かりになるものは……と」
俺は室内を調べた。
見つかったのは旅行のパンフレット。
「雄一さんはどこか行く予定でもあったのかな?」
「そう言えば京都へ行くって言ってたわ」
「パンフレットも京都のこと書いてあるし、そこへ行ったのかもな」
「でも京都行くって言ったの、半月前よ」
「戻ってくる気が無いんじゃないか?」
「でも家具とかそのままよ?」
「取り敢えず、京都へ行ってみよう」
俺と洋子は東京駅から新幹線で京都に向かった。
京都に着いた俺たち。
腕時計を見るとお昼を回っていた。
「洋子、何か食べようか」
「そうね。ちょうどお腹空いてきたし」
「何食べる?」
「何でもいいわ」
「じゃあそこにラーメン屋があるからラーメンね」
俺と洋子はラーメン屋に入った。
「らっしゃい!」
店員の挨拶。
俺と洋子は席に着く。
「チャーシュー麺二つ」
「はいよ!」
チャーシュー麺が出来上がり、席に運ばれてくる。
「あ、ちょっといいですか?」
「はいよ?」
「この男性って見たことあります?」
俺は店員に雄一の写真を見せた。
「いや、見たことないよ」
「そうですか」
俺は写真を仕舞うと、箸を取ってラーメンを食べた。
食事が終わり、会計を済ませて店を出る俺と洋子。
「洋子、京都府警に寄ってもいいか?」
「どうして?」
「嫌な予感がするんだ」
「貴方の勘って当たるから怖いのよね」
俺と洋子は府警本部に向かった。
府警本部受付。
「すいません、刑事課はどちらでしょう?」
「二階になります」
「どうも」
俺と洋子は二階に上がって刑事課を訪ねた。
「すいませーん」
「はい」
刑事がやってくる。
「何でしょうか?」
「あの、この男性を知りませんか?」
写真を見せた。
「この人は!?」
刑事は写真を手に取り、ホワイトボードの前に移動し、それに貼ってある写真と見比べると、すぐさま俺たちの所へ戻ってきた。
「貴方たち、この人の知り合いですか?」
「はい。半月前から行方が分からなくなってて……」
「そうですか」
「あの、先程の様子からすると、何らかの事件が起こってると思うのですが?」
「ああ、実は遺体の身元が不明で困っていたんですよ。そこへあなた方が来たもんで……。それで、この人の名前は?」
「三上 雄一っす」
「彼は、雄一は殺されたんですか?」
「それは今調べてる最中です。それより、遺体の確認をお願いしてもよろしいでしょうか?」
俺たちは頷き、死体安置所に案内された。
刑事が遺体の顔に被せられた布を外す。
「雄一!」
洋子が遺体を見つめる。
嫌な予感は的中した。
「洋子……」
「一体、誰がこんなことを……」
「洋子、犯人捕まえよう」
「あの、あなた方は一体……?」
刑事の疑問に、洋子は警察手帳を出した。
「警視庁捜査一課の荒川です」
「これはご苦労様です」
「自分は探偵の黒沢です」
「どうして探偵が捜査を?」
「いや、自分は三上 雄一を捜してくれと荒川に依頼されたから捜してただけです」
「そうでしたか」
「それより遺体の発見場所は?」
「近くの空き地です」
「洋子、行こうか」
「うん」
俺と洋子は遺体の発見場所である空き地へと向かった。
「ここが現場か……」
府警の話では、雄一は腹部を刺されて死んでいたという。
現場には争った痕跡がないので、別の場所で殺されて運ばれてきたのだろうという見解だ。
「手掛かりになるものは……」
一応、現場を調べてみたが、めぼしいものは無かった。
「府警に戻ろう。最後に会った人を捜すんだ」
「そうね」
俺たちは府警に戻り、鑑識課を訪ねた。
「どんなご用でしょうか?」
鑑識課の人が質問する。
洋子は警察手帳を見せてから言った。
「警視庁の荒川です。三上 雄一の所持品を見せて貰えますか?」
「本庁の? ちょっと待ってて下さい」
職員は雄一の所持品を用意した。
「洋子、雄一って携帯持ってないの?」
「持ってないわ」
「それじゃ足取り追えないな」
「自宅の電話の通話記録調べてみるってのはどうかしら?」
「洋子、東京に戻ろう」
「うん」
俺と洋子は京都駅から新幹線で東京に戻り、雄一の自宅の電話の通話記録を調べるため、電話会社へと向かった。
「これが通話記録になります」
職員が通話記録を印刷した紙を渡してきた。
俺は通話記録の頭の電話番号に電話を掛けた。
『はい』
相手が応答する。女性だった。
「三上 雄一をご存知ですよね?」
『貴方、誰?』
「私は都内で探偵をやってる黒沢と申します。雄一さんのことでお話したいことがあるので今から会えませんか?」
『構いませんよ。どこで待ち合わせますか?』
「貴方のお家の住所を教えて頂けますか? これからお伺いしようと思います」
俺は女性から住所を聞いた。
電話を切り、洋子と共に女性の家に向かった。
ピンポン──とチャイムを鳴らすと、中から若い女性が出て来た。
「先程お電話した黒沢です」
「どうぞ」
俺たちは中に入り、リビングへ通された。
「話って何でしょうか?」
「実は雄一さんが京都で亡くなりましてね、それで真相を調べているんです」
「三上さん、殺されたんですか?」
「ええ」
「いつ?」
「半月前ほど前です」
「半月前と言ったら、私が三上さんと京都に行ったころですね」
「京都にはどのような」
「旅行です。あの日はホテルに泊まって、翌朝は三上さんが先に出ていかれました。何でも、誰かと会うというようなことを……」
「そうですか。所で、貴方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「あ、申し遅れました。佐藤(さとう) 佐和子(さわこ)と申します」
「佐藤さん、雄一とはどういう関係なんですか?」
洋子が佐藤 佐和子に訊ねる。
「ただのお友達です」
「よかった」
「はい?」
「何でもないです」
「佐藤さん、雄一と泊まった旅館の名前を教えてくれますか?」
「京都旅館です」
「洋子、お暇(いとま)しようか?」
俺と洋子は佐和子の家を後にした。
俺と洋子は京都旅館に来ていた。
警備室で監視カメラの映像を見ている。
すると、雄一が部屋から出て来て向かいの部屋に入り、入れ替わりに大きな荷物を持った冴えない男が出て来た。
「洋子、行ってみよう」
俺と洋子は男の出て来た部屋へと行き、中の様子を確認した。
ソファに血痕が付着している。
恐らく雄一はここで殺害され、監視カメラに映っていた男に空き地へと運ばれたのだろう。
俺と洋子は警備室に戻り、監視カメラの映像の男が映っているシーンを印刷してもらい、それを府警に持って行き、事件の担当刑事に渡した。
「こいつが犯人なのか?」
「恐らくは……」
「分かりました。この男を捜して事情聴取します」
俺と洋子は府警を後に、東京へと戻った。
その後、京都府警の捜査で男が見つかり、その男が犯行を認めて逮捕されたという。
第2話:復讐の殺人
千代田区の住宅街にある小さな公園で女性の遺体が発見された。
俺は洋子に電話で呼び出され、現場へとやってきた。
遺体の首には絞められた痕と吉川線があった。そのことから被害者は絞殺であることが分かる。死亡推定時刻は昨夜十時前後だ。
「荒川警部!」
洋子の部下が彼女を呼ぶ。
「周辺で聞き込みをしたところ、昨夜に男女が言い争ってるのを目撃したという人が居ました」
「ご苦労様」
「洋子、被害者の名前、何ていうの?」
「笹本(ささもと) 秋子(あきこ)。角山書店に勤務してるわ」
「じゃあそこへ行こう」
「うん」
俺と洋子は車で角山書店へと向かう。
「洋子、好きな人は出来た?」
「何よ、薮から棒に?」
「出来たかどうか教えてくれ」
「出来てないわ。それに同じ目に遭うのは嫌だから彼氏も作るつもりはないわ」
「そうか」
と、そんな事を話している間に車は角山書店に到着した。
俺と洋子は車を降り、角山書店へ入る。
職員の一人が俺たちに気付いてこちらへやってきた。
「どういったご用でしょうか?」
洋子は警察手帳を見せる。
「警察? 何か遭ったんですか?」
「笹本 秋子さんが何者かに殺害されました」
「何ですって!?」
職員の感嘆の声に、他の職員たちが一斉にこちらを振り向く。
「一体、誰に殺されたんですか?」
「まだ分かりません」
「そうですか……。ああ、僕、後藤(ごとう)と言います」
「では後藤さん。笹本さんに何か変わったことはありませんでしたか? どんなことでも結構です。教えて下さい」
「うーん……これといって特に……」
「そうですか。では、後藤さんは昨夜の十時前後、どこにいらっしゃいましたか?」
「アリバイってやつですね? その時間は家で寝てましたよ。生憎、証明することは出来ませんけど」
「そうですか。有り難う御座います。では」
俺と洋子は角山書店を出て車に乗った。
「さて、どうしようか?」
「昨日の夜、喧嘩してたっていう男女を捜そうよ」
「見つかるかな?」
「それを言っちゃおしまいよ」
「よし、じゃあ捜そう」
その時、洋子の携帯電話が鳴った。
「荒川です」
応答する洋子。
「……それ本当? ……分かったわ。行ってくる」
電話を切る洋子。
「どうした?」
「昨夜、喧嘩してた男女の男の方が見つかったって。名前は小宮山(こみやま) 博司(ひろし)。今から行くわ」
洋子は車を発進させた。
千代田の住宅街に小宮山の家はあった。
洋子がインターホンを鳴らす。
小宮山と思しき男が出て来て訊く。
「どちら様?」
洋子が小宮山に警察手帳を見せると、小宮山は慌てた様子でドアを閉めようとしたが、俺がドアに足を挟んで全開した。
「小宮山さん、何かやったんですか?」
「すみません、万引きやりました」
「そう。それより、笹本 秋子さんをご存知でしょうか?」
「え、万引きの捜査じゃないの?」
「違います。今は殺人事件の捜査をしています」
「殺人!? 僕は関係ないですよ!」
「小宮山さん、貴方、昨日の夜、女性と喧嘩されてますよね?」
「喧嘩はしてないですよ。別れ話をしてただけです」
「相手は笹本 秋子さんですか?」
「誰ですか、それ?」
俺と洋子は顔を見合わせる。
「シロ?」
「だろうね」
俺は小宮山の方を向く。
「お時間取らせてしまってすみませんでした。万引きについては後日、警察の事情聴取があるでしょう。では」
俺と洋子は踵を返し、小宮山の家を後にした。
笹本家。
インターホンを鳴らすと、中から四、五十代の女性が出て来た。きっと、笹本 秋子の母だろう。
「警視庁の荒川と申します」
と、洋子が警察手帳を見せる。
「秋子さんの件でちょっとだけお話を聞かせて頂けますか?」
「どうぞ、お上がり下さい」
家に上がった俺と洋子はリビングへ案内され、ソファに腰掛けた。向かい側には笹本が座る。
「早速ですが、秋子さんには付き合っている男性は居るんでしょうか?」
「今は居ません」
「今は、ということは、以前はいらっしゃったということですか?」
「はい。一年ほどでしたが……」
「では、その元彼の名前と住所を教えて頂けますか?」
「赤山(あかやま) 達彦(たつひこ)という名前です。住所は分かりません」
「有り難う御座います」
会釈する俺。
「洋子、行くぞ」
俺と洋子は笹本の家を出て、車に乗って役所に行き、そこで赤山 達彦の住所を教えてもらい、赤山の家に向かう。
赤山の家は練馬区の住宅街にあった。
俺がインターホンを鳴らすと、赤山 達彦が出て来た。
洋子が赤山に警察手帳を見せる。
「警察が何の用ですか?」
「笹本 秋子さんが殺害されました」
「何ですって!?」
「赤山さん、貴方、笹本さんと付き合っていたそうですね」
「ええ、少しの間……」
「別れる原因になったのは何でしょう?」
「秋子に他に好きな人が出来たんですよ。それで別れたんです」
「そうですか。では、昨夜の十時前後、どちらに居(お)られましたか?」
「刑事さん、まさか俺を疑ってるんですか?」
「いえ、形式的なもので……」
「その時間なら、俺はコンビニに買い物へ行ってました」
「それを証明することは出来ますか?」
赤山はポケットからコンビニのレシートを取り出す。
レシートには二十二時に買ったという記録が書かれている。
「有り難う御座います。では」
俺と洋子は車へと戻った。
「洋子、コンビニの防犯カメラの映像を見せてもらおう」
「分かった」
洋子が車を発進させ、俺たちはコンビニへとやってきた。
「いらっしゃいませ!」
洋子は店員に警察手帳を見せた。
「警視庁の荒川です。昨夜の防犯カメラの映像を見させて頂けませんか?」
「分かりました。こちらです」
事務室に案内される俺と洋子。
「何時ごろの映像を見られますか?」
「二十二時」
店員がテープを再生させると、モニターに店内の様子が映し出された。
時刻が二十二時になり、後藤が店内に入ってくる。
「洋子!」
「後藤さんね」
「それはそうと、赤山は来ないね」
「でも赤山はレシートを持ってたのよ? 来る筈よ」
しかし、いくら待っても赤山は来なかった。
「洋子、赤山の所へ行こう」
「そうね」
俺と洋子は車で赤山の家に戻った。
玄関先で赤山と話をする。
「赤山さん、秋子さんを殺したのは貴方ですね?」
「ちょっと聡!?」
「何を言ってるんですか、刑事さん? 俺にはアリバイが」
「貴方のアリバイなら崩れましたよ。貴方が持っていたレシート……それは、角山書店の後藤さんが買い物をした時に貰ったレシートですよね? 貴方は秋子さんを殺害後、後藤さんからレシートを譲り受けた。違いますか?」
「そんなの憶測に過ぎない! 俺を犯人にしたいんなら、証拠を持ってこい!」
「ではレシートを貸して頂けませんか? レシートに後藤さんの指紋がついてないか調べさせていただきます」
「なっ……!」
赤山はその場に膝をついた。
「秋子の奴、俺の妹を自殺に追いやったんだ! 全部アイツが悪いんだ! だから殺してやったんだ!」
「詳しいことは署の方で聞きます」
洋子は赤山に手錠をかけると、彼を車に乗せて警視庁へ向かって行った。
その後、警察の調べで後藤も共犯者だということが判り逮捕されたという。
探偵と刑事