男子にもスカートを履かせましょう
私は声を大にして言いたい。女子にスカートとズボンがあるなら、男子にもスカートがないと不公平であると。
「先生! 冬に女子にズボンを許す代わりに、男子も夏にスカート履かせて下さい!」
「頭を冷やして出直して来い」
私の渾身の主張は、冷たい言葉と冷えピタで打ち返されてしまった。
「なんでですか! 納得のいく理由をもらうまで言い続けますよ!」
「むしろなんでOKだと思った!? 何に納得いってないんだお前は!」
季節は夏。運動部が外を這いずり回って脱水症状を起こしたり、吹奏楽部が熱を溜めた楽器に触って悲鳴を上げたりする季節。
今だからこそ、私は声を大にして主張したいのだ。
「女装少年、最高に萌えるじゃないですか!」
「頭を冷やせ」
氷嚢を投げられた。冷たい。
「お前の主張は通らん。あと私は養護教諭であって、学年主任でも校長でもないからどうしようもない」
「え、校長に言えば通りますか?」
「通るかボケ」
カキーンと、我らが弱小野球部の涙ぐましい努力の音が響きわたる。
「でも、一応他にも理由ありますよ」
「……言ってみろ」
「秋の文化祭で女装喫茶をやることになりました」
先生が額に手を当てた。熱があるのだろうか。氷嚢、返した方がいいのかな。
「今のうちに慣れておけば、当日のダメージは少ないと思うんです」
「あー……うん……そうだね……」
「あと運動部ってただでさえ暑い中での練習じゃないですか。学校生活くらい、下半身だけでも涼しくするべきですよ」
「そうだねー」
「それに身だしなみにも無頓着な男子が多すぎるんですよ。知ってますか先生。男子のすね毛とかもうボーボーで、一切処理してないんですよ。少しはそういうエチケットも気にする女子の苦労を分かってもらうためにもですね」
「却下だ」
「何故ですか!」
「目が怖い」
個人の感情で意見を棄却するのはいかがなものだろうか。
「というかお前、部活はどうした」
「学校というテーマでキャンパス一枚描けとのことです」
「だからこんなとこにいるのか」
「最高じゃないですか、保健室」
こう、カーテンで仕切られたベッドとか、聴診器とか注射器とか。
シチュエーション次第では最高の萌えポイントなんですよ、保健室は。
「お前、もうちょっと擬態しろよ……」
「あるがままの姿って美しいと思うんです」
「お前のはただの曝け出しだ」
「スコットランドでは男もスカート履きますよ」
「あれは民族衣装であってスカートじゃない」
え、マジで。初耳なんですが。
「そもそも女装って言葉がイメージ悪いんですかね。女子だと男装してもボーイッシュとか言ってウケますけど、逆は駄目とかホント意味分かりませんよね」
「言いたいことはわかるが……」
「だから男子が女装した姿はガーリッシュとかレディッシュとか言うべきだと思うんですよ」
「色々おかしい……」
「つまりその溝を埋める第一歩としてスカートをですね」
「駄目だ」
「納得いかない!」
結局私の主張は、完全下校時間が過ぎても可決されることはなかった。
けど諦めない。絶対に。
男子が、堂々とスカートを履ける、その日がくるまで!
男子にもスカートを履かせましょう
勢いで書きました。反省も後悔もしていない。