焔の剣
対極自我
ボクには世界が2つある。
1つは弱者。1つは強者。奪われるもの。奪うもの。
2つの世界に2人のボク/オレ。決して、交わることはないと思っていたけれど。
やはり、ボクとオレは2人で1つ。その結論は出たけれど。
真に自分と言えるのは、一体なんなのだろう・・・?
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「キモイんだよ!寄るんじゃねえ!!」
そう言って、彼はボクから離れていく。周りからも奇異の目で見られたり、嘲りを含んだ笑い声も聞こえてくる。
ボクは、この空間が嫌いだ。まるで害虫のような扱い、汚物を見るような目線がこちらを刺すこの空間が。
しかし、ここは中学校であり、義務教育のため、やめることはできない。
本当は来たくもないが、担任の先生は「先生達も原因を調べるから。君は安心していいよ。」らしい。
一応、家族に心配かけたくないから、今こうやって来ているが、学校では、誰も人は信じていない。
齢14歳。たったこれだけしか生きていないけど、これだけは言える。
所詮は何事も優先順位だ。昨日まで友達だったやつが、次の日になると自分をイジメの対象として見る。別の友達と一緒に。
原因を調べると言った先生は、今は5月末の中間テストの製作に勤しんでいる。
結局は、自分の優先順位が高いほうが大事なのだ。ボクよりその友達、イジメよりもテストと言った感じで。
朝のチャイムが鳴る。ああ、また嫌な1日が始まるな。そう、心の中で呟いた。
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ボクの名前は「秋風 和也(あきかぜ かずや)」。中学2年生。誰もが認める、イジメられっ子である。
何故イジメられるようになったかは、正直覚えていない。多分、些細なことが広まって、こんな感じになったのだと思う。
家族構成は、両親と姉1人。しかし、姉は遠くの高校に通うため、今は1人暮らし中だ。
他の人よりも少し辛いかもしれないが、どこにでもいる普通の少年。それがボクである。
しかし、1つだけ、人には絶対に言えない秘密がある。家族にも言っていない、秘密が。
言っても、おそらく誰も信じてはくれないだろう。家族ならもしかしたらと思うが、言おうとは思っていない。
言ったところで、おそらく何も変わらないし、第一、ボク自身あって困るものではないのだ。
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嫌な学校が終わり、ようやく家に帰ってきた。家にいた母親にただいまと言って、自室に籠る。
学校ででた課題をしていると、今日の学校での出来事が思い出される。
今日もいつも通り、ボクが何かをする度に、周りから不快な声が聞こえてきた。
何度も腹を立てて、そいつらを殴り倒そうとした。しかし、結局それはできなかった。
これを良心だの優しさだの言う人がいるが、それは違う。
この場合、そいつらを殴る、ということは、今の状況を変えようという気持ちの体現なのだ。
しかし、ボクはそれができなかった。これは紛れもない、自分の「弱さ」だ。
この行為が正しかろうが間違っていようが、今の状況を変えることに怯えていることに他ならない。
だからボクは、弱者なのだ。オレは、あんなに強いのに。
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今日が終わる。眠るために、ベッドに横になる。
ボクの誰にも言えない秘密の時間がやってくる。
ボクは疲れていたのだろう。すぐに睡魔がやってきた。
おやすみ、ボク。そしておはよう、オレ。
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目を覚ます。目に映るのは、木で造られた天井だ。
ベッドから出て、朝日を浴びる。今日は快晴、冒険をするには最適だ。
寝巻きから、普段着ている冒険用の服に着替える。
さあ、オレの1日が始まった。
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オレの名前はエルネスト・ベネジェート。
周りからはエルと呼ばれたり、エルネと呼ばれたり、色んな略され方をされる。
そして、オレと、オレのいるこの世界こそが、秋風和也が隠している秘密だ。
この世界は、あっちで言う御伽話やマンガの世界のようなものである。
そこらに危険な魔物がいて、剣あり魔法ありと、まさにフィクションじみている世界である。
しかし、オレにとっては、ここが現実。戦ったり冒険したりは、なんの違和感もない。
逆に、ここではあっちの世界が異常になる。
こんな、水道もない、洗濯は手洗い、電気は勿論ありませんという世界では、あっちの世界はまさに異次元の世界だろう。
秋風和也はこの世界を秘密にしている。当然だが、オレもあっちの世界のことはここでは秘密だ。
まあ、仮にあっちの世界のことが通じて、オレがありのまま話しても、聞いた人は10人中10人が信じられないと言うだろう。
なんせオレは、この冒険者ギルドのナ「エルー!!起きてるー?」ンバ・・・なんだよ。人が解説してるときに。
「あ。起きてた。エル、そろそろ降りてきてね。」
来たのは、短い銀髪の少女、ミラベル・ラフォンだった。この世界のオレの幼馴染であり、オレはミラと呼んでいる。
「分かったよ。今行く。」
そう返事して、部屋を出る。さあ、今日はどんな冒険が待っているのだろうか。
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「おう!来たな、エル。」
二階から降りてきたオレとミラを迎えたのは、身長2mくらいの長身で、逞しい筋肉が目立つ男。
「毎度毎度、こんなかわいい子に起こして貰えるなんて、羨ましい限りだぞ。まったく。」
「今すぐその筋肉焼き肉にしてやろうか?ボニファーツ?」
いきなり冗談を言ってきたので、仕方なく冗談で返す。彼はそれは勘弁、と言って苦笑いしている。
この男の名前は、ボニファーツ・グラーツ。オレの親友、悪友である。歳の差は9歳と、離れてはいるが。
「さて、今日はどんな依頼があるのかな。」
そう言って、オレは依頼の書いてある書類を手に取る。この世界はプリンターがないので、書類も当然手書きである。
「お!ドラゴン討伐!危険度Sランク・・・これにするか。」
何故かミラとボニファーツはオレを見て青ざめている。いつものことだろうに。オレが危険な依頼に行くのは。
「エル、あんまり無茶はしちゃダメだよ。」
「ミラちゃん、こいつはSランクのSを落書きかなんかと思ってるんだ。そんぐらいの知能しかねぇんだよ。」
ありがとう、ミラ。君は本当にいい子だ。ボニファーツは後でリバーブローの刑を執行しておこう。あの腹筋に効くかどうかはしらないが。
「いいじゃん。実際この無駄に高い報酬金をオレが稼いでるから、このギルド成り立ってるんだし。」
それを言われると、二人とも黙るしかないようだ。
この冒険者ギルドは、ある街に建っている中小ギルドだ。所属している人は、20人そこらというところ。
大きなギルドともなると、100人をサラッと超えるらしいが、ウチはそんな高望みはしていない。
しかし、若くしてリーダーであるオレは、この業界では割と有名人なので、こういう危険な(おもしろそうな)仕事も入ってくるのだ。
「お前らはどうする?来るか?」
「行くか!!バカ!!」
ボニファーツは即答だった。しかし、ミラはしばらく考えてから
「じゃあ、わたしは行こっかな。」と、言ってくれた。
こうして、今日の冒険は、2人でドラゴン退治となった。
焔の剣
2に続きます。もし、おもしろそうだと思ったら見てみて下さい。