ENDLESS MYTH第2話―12

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 異変に最初に気づいたのはジェフであった。投げやりな態度のメシアを妙に気にして、視界の端には常に入れていた彼が、ソファの付近で呆然と立ち尽くしていたはずなのに、姿をけしていたのであった。
 広いロビーを見回し青年の、力のない姿を探した。が、見当たらない。
「あいつは? いないぜ」
 ようやくジェフは周囲へ異変を伝えた。
 真っ先にロビーの中央へ駆け戻ったのは、エリザベスであった。
「メシア、メシアどこなの!」
 黒髪を振り乱しながら周りを見渡す。が、メシアの姿は何処にも見当たらない。
「トイレじゃねぇのか?」
 取り乱す姉の様子を、からかう口調で弟は言う。
「馬鹿、メシアの状態を知ってるでしょ。何をするか分からないんだから」
 八方に散らばっていた一行は、エリザベスの周囲に集まった。
「最後に彼を見たのはいつです」
 瞬間的に神父が聞く。
「さっきまではここに確かにいた。見てたから間違いない」
 ジェフが気にしていただけあって、彼が消えたのがたった今だったのを証言した。
「だったら近くに居るはずだ」
 と言いつつ、異変は確実に生じていることを予測し、アサルトライフルのロックをベアルドは外していた。
 また変なこと考えなきゃいいが、とジェフはさっきのエレベータールームでのやりとりを思い出していた。
 その時、ジェフの視界が奪われた。気づかぬ内に眼前へ遮蔽物が現れたからである。
「メシア・・・・・・」
 そう、彼の視界を奪ったのはメシア本人であったのだ。けれども足音もなく、誰に姿を見られることもなく急激に現出したメシアに、首を傾げた。
 安堵の吐息と心配させた彼の責任のなさに苛立ちがこみ上げたエリザベスが、もう、といった風に怒った様子で彼へ近づこうとすると、ベアルドが凄まじい力でエリザベスの腕を引っ張った。思わず転びそうになるほどの力だ。
「ジェフ君、メシアから離れるんだ!」
 神父が叫んだ。
 えっ? と神父の方に視線が移動した刹那に、ジェフは唐突に激しい息苦しさを感じ、首に回った手の感触に驚いた。
 メシアが両腕を伸ばしジェフの首を力任せに締め付けていたのだ。
 声が出ず、喉が潰され、詰まった排水溝のような音を鳴らすジェフが、薄くなる視界に捕らえたのは、眼が落ちくぼみ、鉛色に変化した、見る影もないメシアの別人のような、死人の顔であった。
「そうか、そういうことかよ」
 ベアルド・ブルは自分たちがここに導かれた意味を納得した様子で、薄く笑った。しかしその胸の中には、歴史の星空に浮かぶ2つの恒星が失われようとしている状況に、焦燥感を抱いていた。
「止めろ、止めるんだ」
 巨漢のイ・ヴェンスが叫び筋肉質の腕をメシアの腕へ回す。が、巨漢の腕に筋が浮き出すほどの力でも、腕を伸ばしたメシアを動かすことはできなかった。明らかに人間の力ではない。
 ニノラも応援に入り、2人でメシアの手をにて引く。
 男が2人、しかも1人は筋肉質の大男であるのに、メシアの腕は巨木に巻き付いたツタのように離れなかった。
 このままではジェフの命が危うい。そう思ったベアルドは、ライフルの銃口をメシアに突きつけた。
「離れろ」
 彼の指先は引き金を引いた。

ENDLESS MYTH第2話ー13へ続く

ENDLESS MYTH第2話―12

ENDLESS MYTH第2話―12

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-27

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