ふたりの絆⑨

蛍見物とカツ丼(前半)

アカリと付き合い初めて2ヶ月程たった6月下旬のことだ。

「ヒカル、蛍が観たいな。」

突然アカリがお願いしてきたのである。

女友達とスマートフォンで話しているときに蛍の話になり、岐阜でも観られる場所があると話題になったそうだ。

確かに、岐阜でも蛍の名所は沢山あるのだが・・・時期が遅い。

ほとんどの所は、終わってしまっているはずだ。

ヒカルは、各名所に電話を入れたのである。

答えはNGだった。

「アカリ、駄目だ・・・時期が遅すぎるみたい。」

ヒカルはアカリに連絡を入れた。

「残念・・・いっしょに観に行きたかったな。」

アカリの声が沈んでいた。

ヒカルは何とかしてアカリに蛍を見せてあげたいと思った。

その想いから会社帰りに思いつく場所を見て廻った。

ヒカルの想いは通じた。

ヒカルの地元の谷汲山より奥に行った所に、横蔵という場所がある。

そこなら蛍が観れそうだ。

「アカリ、蛍が観れるよ。」

ヒカルは、早々アカリにメールをした。

「本当?ありがとう。一緒に見に行きましょう。」


7月初旬の平日。

仕事を終えたヒカルは、アカリを迎えにアパートに行った。

アカリが待ってくれていた。

アカリを乗せると、目的地の横蔵に向けて車を走らせた。

暗くなるにはまだ時間があった。

ヒカルは地元のうどん屋にアカリを連れて行った。

ここはヒカルがよく食べに来る店なのだ。

「アカリ、ここのカツ丼を1度食べてごらん。」

ヒカルはカツ丼を勧めた。

もちろん、ヒカルの注文もカツ丼である。

初めて食べたアカリの感想は・・・

「美味しい、こんなカツ丼初めて。」

と目を輝かせながら答え、あっという間にたいらげてしまったのである。

まだ、食べたりないアカリであった。

「半分あげるよ。」

ヒカルはそう言って、自分の丼から移してあげた。

「ありがとう、ヒカル。」

そういいながら食べ始めるアカリである。

細い体の何処に入っていくのか不思議に思うヒカルだった。

夕食が終わる頃には暗くなっていた。

ヒカルは、急いで目的地に向かった。

横蔵に着いた2人は、蛍が出てくる川の側まで仲良く手を繋いで歩いていった。

平日なので辺りは誰もおらず、貸しきり状態である。

やがて、1匹、また1匹と幻想的な光を放ちながら、ゆっくりと蛍が飛び始めた。

その様子を、嬉しそうに見つめるアカリだった。

ヒカルはその横に立ち、無意識のうちに、アカリの肩に手を置いていたのだ。

アカリも、自然にヒカルの行為を受け止めていた。

蛍が乱舞する中、1匹の蛍が2人の方に飛んできた。

2人の廻りを飛んだかと思うと、アカリの胸に止まった。

アカリはそっと両手で掴むと暗闇にむけて手のひらを広げた。

怪しい光を放ちながら、蛍は乱舞している群れの中に帰っていった。

「天国のホタルが、アカリに会いにきてくれたんだよ。」

とヒカルはアカリに言った。

アカリは、その言葉に黙ってうなずいた。

「ありがとう、ホタル。」

やがて蛍の乱舞は終演を迎えた。

辺りは、静寂の闇に戻っていた。

アカリを乗せて岐阜のアパートに戻る車中で、ヒカルはアカリに頼んだ。

「アカリ、来年も必ず観にこようね。」

「うん、必ずきましょう。」

2人は車の中で指きりして約束をした。

果たして、来年も2人で来ることが出来るのだろうか。

それは、誰にも判らない。

                                →「蛍見物とカツ丼(後半)」をお楽しみに。  12/27更新

                                ホタル:蛍とホタルが重なり合った、素敵な想い出ですね。
                                    最後の約束、叶うことを祈ります。

                             -9-

ふたりの絆⑨

ふたりの絆⑨

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-27

CC BY-NC-ND
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