ENDLESS MYTH第2話-11

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 2階まで吹き抜けたのロビーは、ホテルの顔であり、ホテルのイメージとなるものだが、ここのホテルが宿泊代金が高いことだけは、すぐに理解できた。
 天井から伸びる細長いシャンデリアのような照明機材。各所に設置された間接照明。本物かどうかは定かではないが大理石のような石の床は、鏡のように彼らの姿を映すほど、掃除が行き届いていた。
 また次世代型のホログラムスクリーンが入り口近くに設置されており、ステーションの各区画の説明や、音声解説が行われる。
 飲料メーカーも最新式で、スイッチ1つで百種類以上の飲料水が飲めるようになっていた。
 照明設備、ホログラムスクリーンは生きているから、ホテル自体の電源システムは生きている様子に、神父はますます訝しい悪臭を鼻に感じた。
「エレベーターは動きません。どうやらここで攻めてくるつもりなのでしょう」
 上階へ登るエレベーターが幾つの並ぶエリアから戻ったベアルドが、マガジンの弾数をチェックしながら上官へ報告をした。
「出た方がいいのでは?」
 と進言もする。
 神父はソファで疲れを癒やそうとしている若者たちを見つめ、瞬間的に考えを巡らせた。
 ここで何かあったら、歴史が変わってしまう。そう心中でマックス・ディンガーは囁く。
 ベアルド・ブルも同様のことを思考していた。
「歴史的に重要な人物を2人も抱えているんですから、無理はしない方がいいのは分かっています。ですがどちらか1人でも失ったら、歴史は大きく変わってしまいますよ」
 ただ2人だけがこの先の歴史を理解している。だからこそ、この場での行動が大河の一滴となることを解っているのである。
 神父は頷いた。
「この区画から移動しましょう。できるだけ止まることを避けたほうがよいでしょう」
 方針転換した神父は、水分補給する若者たちにその旨を伝えようとしたその時、光が大きく揺れるのを影の具合で理解した一行は、天井を見上げた。すると天井からぶら下がっている巨大で細長い照明器具が大きく左右に揺れ始めていた。
 けれども身体に感じる振動はなく、シャンデリアが勝手に動いているのだ。
 明白な異変にその場に立ち上がった若者たちは、少しずつ入り口の方へ、ジリジリと移動を開始した。
「ここをでます」
 緊迫した様子で神父が告げたのをきっかけに、若者たちはいち早く入り口へ駆けた。
 と、次の刹那、左右に揺れたシャンデリアの太い電源コードがちぎれ、彼らの頭上を横切ると、入り口の前にけたたましい音をたてて落下。ガラスの破片が八方へ散乱した。
 女性たちの悲鳴がガラスの割れる音と重なった。
 神父は慌て、怪我人の有無を確認し、全員が無事であることを確かめると、次に視線を入り口へ流すと、ホテルの入り口は完全にシャンデリアの瓦礫で閉ざされてしまっていた。
 仕掛けてきたか。神父は冷静に状況を判断した。
「どこでもいいですから開いている入り口を探してください」
 呆然とする若者たちに指示する。
 若者たちは一斉にその場から散り散りになり、フロントの裏、客室乗務員出入り口、ロビーに隣接するレストランなど出られる場所、逃げられる場所を探した。
 が、どこもロックシステムが働き、ロビーは完全なる密室とされてしまった。
 全員がロビーから出る方法を模索する中、ただ1人ソファの近くで漠然とうな垂れていたメシア・クライストは、不意に背中に気配を感じて振り返った。しかし後ろに人の姿はなく、周囲を見回すと一緒に行動する連中は、出入り口を探して走り回っていた。誰も近くに居るはずがない。
 そう思い返し前に向き直った時、彼は自分に迫り来る真っ青な顔を目撃した。
 次の瞬間、四肢が痺れる感覚に襲われ、一気に意識が遠のいていく。その中で背中から冷たい水のような何かが自分の中に入り込んでくる感覚をおぼえた。

ENDLESS MYTH第2話-12へ続く 



 

ENDLESS MYTH第2話-11

ENDLESS MYTH第2話-11

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-26

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