うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(8)
八 おしっこ王子と夕食を食べる
「ただいま」
僕は塾から家に帰ってくると、リビングルームに入った。パパはソファーにもたれて、缶ビールを飲みながら、新聞に目を通している。ママは夕食をテーブルの上に並べていた。
「いい匂いだなあ」王子がつぶやく。
「外は寒かったでしょう。今日はおでんよ。体が温まるわよ」
ママは僕がしゃべったものと勘違いしている。僕はおでんのたまごやすじ肉は大好きだけど、だいこんやじゃがいもの野菜系は苦手だ。
「いただきます」
三人揃って夕食だ。
「たまごに、こんにゃく、とうふに、すじ肉、だいこん、じゃがいも、はんぺんもあるわ。きんちゃくのおもちも入っているのよ」
ママがおでんの中身を説明してくれる。ママの説明に関係なく、パパは、こんにゃく、だいこん、たまごを次々と自分の小皿に入れていく。
どれにしようかな、と箸を持ったまま、僕はお鍋の中をじっと見つめている。
「まずは、だいこんだな。出汁が沁みて、美味しいぞ」
王子が僕の耳にささやく。
「ええ、だいこんから」僕の箸が鈍る。
「だいこんは体にいいんだよ。繊維質が多いからね。お通じにもいいんだよ。それに味が染みて、美味しいよ」
王子に言われて、僕はしぶしぶだいこんに箸を突き刺し、自分のお皿に運んだ。
「あら、珍しいわね。だいこんから先に食べるなん」
ママが不思議そうな顔で僕を見つめる。
「まあね」僕は大人ぶった顔で返事をして、だいこんを箸で細かく割り、口に運ぶ。
「どうだい、美味しいだろう」という顔で王子が僕を見つめている。
美味しい。でも、美味しいと言ってしまうと癪にさわる、
「うん。まあまあだね」と答えながらも、だいこんを次々と口の中に放り込む。
「ほう、ほう、ほう」あんまり一度に口の中に入れたものだから、やけどしそうだ。僕は、熱いままのだいこんをそのまま飲み込んだ。
「大王。だいこんが運ばれてきました。この沁み具合からすると、今日の夕食はおでんのようです」
「そうか。それじゃあ、じゃがいもも、たまごも、すじ肉、こんにゃくも来るな。栄養満点の組み合わせだ。順番に運ばれてくるから、まずは、だいこんをこなごなにしてしまえ」
「アイアイサー」
固体班がだいこんに近づく。
「あちー」
だいこんに触れた隊員が思わず離れる。
「大王。熱過ぎて近づくことさえできません」
「困ったもんだな。主がもっと、ふうふうをして、冷ましてくれないといけないな」
「どうしましょうか。このまま冷めるのを待ちましょうか」
固体班の隊長が大王に相談する。
「よし。わかった。リキッド班の隊長を呼べ。まずは、熱水を吸収しよう」
「アイアイサー」
大王の前に立つリキッド班の隊長。
「だいこんがあまりにも熱過ぎて触ることができない。先に、だいこんの汁を吸い取ってくれ。汁を吸い取れば、少しは熱が冷めるだろう」」
「わかりました」
リキッド班は耐熱用の防護服に身を包むと、ホースでだいこんの汁を吸おうとした。ホースの中を熱い汁が流れていく。
「あっちっちっち」
「熱くてホースが持てない」
隊員たちは思わずホースから手を離す。
「うわあ、今度は足が熱い」
「逃げろ、逃げろ」
だいこんの汁が床に溢れだす。隊員たちはうちわであおいだり、口でふうふうしたりと、熱を冷まそうとするがなかなか冷えない。
それにも関わらず、次に、たまごが流れてきた。たまごも熱過ぎて近づくことができない。それなのに、こんにゃくが流れてきた。大王たちの前には、だいこんとたまごとこんにゃくの山ができた。それを取り囲む大王たち。
「大王。こんなにいっぱいになりましたが、熱くて消化ができません」
「仕方がない。みんな、少しでも冷ますように、うちわであおげ」
「アイアイサー」
個体班やリキッド班の隊員たちが、うちわを持って、少しでも冷まそうと、だいこんなどの山をあおぐ。うちわを持っていない者は、口でふうふうと息をかける。
その時だ。だいこんの山が動いた。
「そんなことで、俺さまを冷やせると思っているのか」
大王立ちの前には、三角のこんにゃくの帽子をかぶり、丸い卵の顔で、四角いとうふの怪物が立っていた。
「大王。あの化け物は何ですか」
「うーむ。恐れていたことがおこった。あいつは、おでん三兄弟だ。消化をしないでほっておくと、食べ物同士がひっついて、化け物になるんだ」
「おでん三兄弟ですか」隊員たちは、茫然とした顔でおでん三兄弟を見る。大王は腕組をしたままだ。
「はっ、はっ、はっ」こんにゃくが笑う。
「久しぶりに登場できたぞ」卵があたりを見まわしている。
「ひとつ思う存分暴れてやろう」とうふが体を震わせた。と、同時に、熱い汁が周囲に飛び散った。
「あっちっち」大王たちは思わず後ずさりする。
「大王。どうしましょうか」固体班の隊長が相談するものの、熱くて近づけない。
「うーむ」大王は腕を組んだまま、苦虫を噛みしめている。
「私どもが、あいつを吸収します」リキッド班の隊長が進言した。
「大丈夫か。まだ、熱いぞ」
「このまま、ほうってはおけません」リキッド班の隊長は、防護服に身を包み、ホースを手に取ると、部下とともにおでん三兄弟に向かって行った。
「はっ、はっ、はっ」
「俺たちを吸収しようだなんて」
「いい度胸だ」
おでん三兄弟はリキッド班の前に大きく立ちふさがる。
「それ」
「これを」
「受けてみろ」
おでん三兄弟がぐるぐると回転しだした。その回転先から熱い汁が飛んできくる。必殺、おでん汁攻撃だ。
「あっちっち、あっちっち」
隊員たちは防護服を着ているものの、熱さは体に沁みてくる。とても耐えきれない。吸収しようとしたホースを手離してしまう。おでん三兄弟はまだ回り続けており、まだ、熱い汁が全方位に飛んでくる。とても近づけない。
「大王。どうしましょうか」
「うーむ」なすすべがなくて、大王は腕を組んだままだ。
「どうした」
「口ほどにも」
「ないやつらだな」
「あっ」
「はっ」
「はっ」
おでん三兄弟はなおも熱い汁を振りまきながら、高笑いをした。
「熱いまま飲み込んじゃ、ダメだよ。お腹の中が大変なことになるよ」王子が慌てて注意する。
「だって、口の中が熱いんだから」
「口の中を過ぎても、お腹の中はもっと熱いよ」
「確かに、お腹の中が熱いような気がするなあ」
僕はお腹の上から手で触る。冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出すと、コップに注ぎ、一気に飲み干した。
うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(8)