ENDLESS MYTH第2話―10
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小さな街がそこに凛然と鎮座していた。
建造物内部だというのに、街があり、アスファルトが敷かれ、湖や森までもそこにはあった。これが人類の新たなるステップなのである。
複数の大陸で爆発的に増加した人類の人口を、どのように制御するかが、近代的な国際連合の大きな課題となっていた。そこで建造されたのがこのステーションである。
計画自体は1960年代、ジョン・F・ケネディ大統領が就任していた時代、米ソの宇宙開発競争時、すでに立案されていた。それが近代になり実現した結果が、宇宙ステーションへの人口移住であった。
もちろん、ステーション1つでまかなえるほど、人類の増加率は鈍足ではなく、ここにこうして建造された都市は、一種のテストモデルであり、観光客の宿泊をメインターゲットとした、観光産業が参加企業の利益となっていた。
ステーションの建造は他にも複数行われており、複数企業、国家での協力プロジェクト。または単独国家による事業としても、建造され今や宇宙開拓時代とよばれるほどにまで、宇宙産業は成長していた。
現にメシアが住み、生活の拠点となっていた都市も、宇宙産業へ参入する企業が建造した宇宙港を中心とした建造中の都市であったのが、宇宙開発が現実に住民の生活へ入り込んでいる実例である。
こうしたステーションの建造と平行して、月面都市の建造も着実に進行しており、今も月面への移住者が多く宇宙へ進出していた。
「こいつあ、すげぇな。建物の中に街があるなんて」
エレベータールームを出て最初に溜息のような声を上げたのはイラート・ガハノフであった。
「ここに来たのは子供の時だからね。あんた、覚えてないでしょ」
エリザベスが弟の少年がそのまま大人になった顔を見て、多少の微笑みを浮かべた。
「あの時はまだ、建造中だったから、ここには入れなかったのよ」
姉らしい顔である。
「人は宇宙に出てもなお、地上を懐かしみ、母なる懐の幻影を求めるものか」
と、面長の顔が不意に妙なことを囁いた。
横に立つジェフが彼を見上げる。
「地上のまねをしないと、人間は住めないだろ? あんた、おかしな事をいうな」
ファンは青年を見下ろし、少し眼を細めて尋ねた。
「人類が宇宙へ進出する意味は?」
漠然とした問いにジェフは窮した表情をした。
「おしゃべりはその辺して、先に進むぞ。やつらに見つかるぞ」
引率の先生のような口ぶりでベアルドが若者たちを先導する。
が、やはりメシア1人が遅れていた。
そこへエリザベスが戻り、彼の手を握って、引き連れてきた。
「彼はなんなんだ。まるで抜け殻じゃないか」
事情が分からないジェフが丁度、横に居合わせたマキナ・アナズに尋ねた。
「・・・・・・。貴方には関係のないことだから」
作り笑いでそういうと、そそくさと彼の横から逃げ去るように先に彼女は進んだ。
妙な連中と一緒になったものだ、と内心で彼は苦笑いするのだった。
都市の上空は夜の闇に覆われていた。天候システムが起動している際は、気象データを元に、上空の映像パネルが天気を模倣し、空中システムが都市の気温と湿度を自動で管理し、本当に地上にいる状態を作り出していた。けれども現在はシステムがダウンしているせいで、都市機能は完全に麻痺していた。
都市に住む人々、宿泊している観光客など、多くの人が都市には存在するはず。だが、人の気配まったくなく文字通りのゴーストタウンと化していた。
「隠れられる場所を探しましょう。今は逃げに徹するしか生き残る術はありません」
神父はそういうと、近くの建造物に侵入を試みた。しかしセキュリティシステムがオフラインになった時点で、建物のロックがすべてオンになったと見え、住宅も宿泊施設も完全に閉鎖されていた。
それでも逃げ場所を探していた一行がたどり着いたのは、都市の中でも特に外観がユニークな、ドーム型のホテルであった。
入り口の鋼鉄製の自動ドアが一行に反応して開き、まるで手招きしているようだった。
一瞬、入るのをためらう神父と若い兵士。
が、何も考えない若者2人、イラートとジェイミーがズカズカと入り口ロビーへとなだれ込んでいく。
「疲れちゃった~」
ジェイミーは例の甲高い声色で言いながら小走りでソファへと走って行った。
続くイラートは喉が渇いた、と言いたげに無料サービスの飲料メーカーの前に走り寄って行った。
2人の様子に、神父は呆れた表情をするも、安全は確保されているのが、事実上証明されたので、自らも脚を踏み入れるのだった。
神父の考えではここで、援軍を待つつもりでいた。ただ、招かれている感覚をどうしても払拭することはできなかった。
ENDLESS MYTH第2話-11へ続く
ENDLESS MYTH第2話―10