【二次創作】【魔法少女まどかマギカ】まどかを救うことにした 1(3500字)
まどかを救うことにした
私は「魔法少女まどかマギカ」が好きだ。
見終わった時は、絶望的なラストでなくて良かったと感じた。
でも何かがひっかかった。
・・あれはハッピーエンドではない。
まどかがみんなと、笑って学校に行けるようになること。それがハッピーエンドだと思う。
だから、まどかを救うことにした。
もう独りぼっちじゃない。
やっとそう思えたのに。
魔女を倒した確かな手応えが、ほんの少しの油断を招いた。
それが魔女の手だったことに気づいたときには、魔女が目の前にいた。
どうしようもなく、走馬燈が流れる間もなかった。
ただ、まどかとさやかのことが心配だった。
そして意識は強制的に断ち切られた。
****
どれだけ長い時間がたったか。あるいは一瞬の間だったのか。
マミは目を覚ました。
白い天井。病院だろうか。・・・・最後に受けた攻撃を生々しく思い出す。助かるわけがない。
「気がついたかい?」
聞き慣れた声。
「キュゥべえ?」
見慣れた顔が、マミをのぞき込む。
「・・・・久しぶり。ぼくはハチべえ。辺境生物保護団体LIBの活動端末だ。」
なにを言っているのだろう・・・・が、よく見るとキュゥべえより微妙にクリーム色ががっている。
「キュゥべえは僕と同じ目的を果たすために、僕と同じ存在に作られた。言わば兄弟のようなものだ。」
体を起こす。6畳ぐらいの、天井も壁も真っ白な部屋。マミが寝ていたベット以外には何もない。
「ここは?」
「ショックを受けないで欲しいのだけれど・・」
ハチべえはうつくむ。
「さっきまでマミがいた世界から見て、ここは死後の世界ということになる。」
「そう・・」
やはり、そうなのか。死後の世界・・そこではっと思いあたった。
「鹿目さんと美樹さんは?」
「彼女たちなら大丈夫だ。モニターを。」
鈍い音がして、ベッドから一番遠い壁に映像が映し出される。
怯える2人。
颯爽と現れるほむら。魔女を軽々とあしらう。
魔女は強かった。もう一度戦えるとしても、死闘になるだろう。
『今までの魔女とは違う。』
ほむらの言葉を苦々しく思い出した。
そしてほむらは魔女より圧倒的に強かった。
魔女の攻撃を先読みして避け、出現位置に配置した爆弾で吹き飛ばす。
何らかの予知能力だろうか・・・・。
魔女は倒され、ほむらは去り、悲しみにくれるまどかとさやかが取り残された。
慟哭する2人を見て、胸が締め付けられた。
せっかく友達になれたのに。こんなにも悲しませて。
「マミ・・」
ハチべえが膝の上にのって、顔を見上げる。
「君はよくやったよ。あの世界でやるべきことをやったんだ。」
「・・・・」
マミはハチべえをぎゅっと抱きしめた。
「紅茶はどうだい?こんな時には温かくて甘い紅茶が一番だ。」
鈍い音がして、ベッドの脇にサイドテーブルが現れる。
テーブルの上にはティーセット。ポットからは微かな湯気が立ち上っていた。
****
マミの部屋にはモニターと机の他にも何でもあった。
食べ物や飲み物の他にも本や服など。
どうやら欲しいものはなんでも出てくるらしい。
「さすが天国・・ね。」
部屋の外にも出てみた。長い廊下があり、いくつかの部屋がある。
大きさは・・家族で小笠原に行ったときの船と同じくらいだ。
先頭から最後尾まで100メートルぐらい。上層、中層、下層の3階層に分かれている。
そして窓の外には宇宙が広がっていた。
「ほんとうにお空の星になった、と。」
上層の広々としたロビーのような空間にハチべえがぽつんといた。
「まるで宇宙船ね。」
「まあね。」
「他にだれもいないの?」
「人間は。僕のほかには船を操る有機生命体であるマサルがいる。」
「・・・・」
「今は1人だけど、そのうちみんなも戻ってくる。」
「みんなって?」
「もちろん、鹿目まどかや美樹さやかだよ。」
「え・・」
おどろいた。もう二度と会えないと思っていたから。
うれしかった。でも、期待すると裏切られた時がつらい・・・・。
「ほんとうに・・・・?」
おそるおそる聞いた。
「うん。」
ハチべえはしっかりうなずいた。
「いつ?」
ついつい、声がうわずってしまう。
「それはちょっと解らないけど・・・・でもそんなに先じゃない。あっという間だよ。」
「ほんとうね?」
「ほんとうだとも。」
「良かった・・」
知らず知らずのうちに、涙がこぼれていた。
****
マミはぼんやりした気持ちで、壁に映し出された映像を見ていた。
自分が死んだ後の世界。悲しみに沈む2人。
つらかった。心の奥底がしんしんと痛んだ。
私のことなんて忘れてしまえばいいのに・・・・。
けれど、映像から目を離せなかった。
忘れてしまえばいいなんて嘘だ。
ハチべえは、みんながここに来ると言ってはいたが
・・・・それは死んだら、ということだろう。
普通に考えたら何十年も先のことだ。
何十年もこんなところで1人で・・・・。
それだけ待ったとして、本当にみんながここに来るのだろうか。
ここが天国だとしたら、なぜマミしかいないのだろう。
不安・・・・
心が押しつぶされそうだった。
孤独・・・・
心が引き裂かれそうだった。
・・・・以前にもこんな気持ちを感じたことがある。
以前?そんな「過去」の感情ではなかったはずだ。
つい最近の、でもどこかはるか遠い過去のような記憶。
いっぺんにいろんな感情が押し寄せ、どう扱っていいのか解らなくなる。
頭がぼんやりして、ひどい眠気を感じた。
それに逆らうだけの気力もなかった。
少し眠ろう。
起きたら気持ちの整理もついているかもしれない。
マミはベットに体を預け、ゆっくり目を閉じた。
****
家族で温泉旅行に向かう車の中、昔のマミがリアシートに座って窓の外を眺めていた。
これは夢だ。マミは、昔のマミと感覚を共有しつつそう感じていた。
夢であると同時に過去の記憶でもある。
このときは久々に父親の休みが取れて、車で温泉に行くことになったのだ。
「熱海なんて何年ぶり?」
「大学3年の時以来か?あの時は飲み過ぎて温泉どころじゃなかったな。」
「じゃあ今回はゆっくり温泉に入って。少しは仕事の疲れも取れるんじゃない?」
「仕事をしてないほうが疲れるんだけどな。」
「はいはい、あなたが過労死するのは時間の問題だけど、少しでも寿命がのびるといいと思って。」
「くっくっ」
楽しげにハンドルを叩く父親。
本気を出せばスポーツカーより速いという父親のSUVが、あっさり軽トラに抜かされる。
軽トラが早いのではなく、父親の車が遅いのだ。
「すまないな、マミ。ほんとうはフロリダに行けるはずだったのに。」
「別にいいよ。」
「・・・・マミはえらいな。でも遠慮することないんだぞ。」
「うん・・」
遠慮したわけではなかった。
海外には何度か行ったことがあるが、何時間も飛行機に乗って、
聞き慣れない言葉や外国人に囲まれるのは、どこか心が疲れた。
父親や母親がそういうのを楽しんでいるのは解ったので何も言わなかったが。
この車だってそうだ。
そもそも父親は車にこだわらなかった。友人からタダでもらったというボロい国産車に乗っていたが、
マミが「クラスの友達の父親がスポーツカーに乗っている」という話を何気なくしたら、
その1週間後に「遠慮することはないんだぞ」と、このSUVを買ってきたのだった。
熱海でも国産車でも、家族で旅行できることが楽しかった。
でも、父親がフロリダやSUVのために朝早くから夜遅くまで頑張っていることは知っていたので
「この車すごく乗り心地いいね。」
と言った。
「まあな。」
父親がうなずく。
「お昼は・・」
母親が言いかけたのとほぼ同時。
何かを切り裂くような鋭い音が、長く長く耳を貫いた。
ほんの少し遅れて、車の後ろから激しい衝撃。
体が激しく揺さぶられて、天地がひっくり返る。
ほとんど間を置かずに、今度は横からの衝撃。
横方向に滑り続ける車と体。
何かにぶつかって跳ね返り・・・・そこで意識が途切れた。
周囲のざわめきで、意識を取り戻した。
・・・・誰かが自分を呼んでいる。
「・・・・い、・・・ぶか・・・・・」
目がぼんやりと焦点を取り戻す。
「大丈夫か?」
黄色いつなぎを着た男がこちらをのぞき込んでいた。
なんとかうなづく。
「よし。・・おーい。こっちは生きている!急げ!!」
あれはレスキュー隊だ。テレビで見た。
私は事故に遭った・・・・。
父親や母親はどうなったのだろう・・・・。
そこでまた意識が途切れた。
【二次創作】【魔法少女まどかマギカ】まどかを救うことにした 1(3500字)