ENDLESS MYTH第2話-9

 ショッピングモール区画は湾曲した通路が1本しかなく、そこを背後のターミナル方面へ1度もどり、そこから居住、宿泊区画へエレベータールームを使用して移動する。
 一行は来た通路を走って戻る。
 が、1人遅れる人物がいた。メシアである。エリザベスが手を離してしまい、彼の動作はマネキンのように停止してしまった。
「おい、なにやってる。逃げないと死ぬぞ」
 重たいHK416に装着したベルトを肩に掛け、食い込むベルトを必死に手で押さえながら走り掛けるジェフが、逃げ遅れたメシアを認め、荒く声をかけた。
「いい。僕はここでいいんだ・・・・・」
 聞こえるか聞こえないかのギリギリのところで、虫の羽音のような声でメシアが呟いたのを、ジェフは聴き取った。
 妙な奴だ。と心の中で呟きつつも、死を前にした人間を見過ごすほど、人でなしではないジェフは、メシアの腕をむんずと掴むと、強引に彼を引っ張って駆けた。
 ショッピングモール区画の半ばほどまで来てしまっていたため、戻る距離も長く、イ・ヴェンスが巨体を反転させ、走りながら振り向くと、女だったが今はもはや形をなさない肉の塊の化け物が、変化した腕をバタバタと大きく振り上げ、首から伸びた複数の触手をミミズのようにうねらせながら、俊敏に追いかけてきていた。
 MP7A1サブマシンガンの弾丸を放射し、化け物へ対抗するも、その手段が有効でない実証はすでになされていた。
「もぉ、なんであたしがこんなめに」
 叫びつつバタバタと走るジェイミー。
 その横でイラートが少年らしく笑った。
「だったら能力をつかっちまえばいいんじゃねぇのか?」
 暗黙のルールを破ることを提案したイラート。
「まだまだ先は長い。ここでお披露目するのは得策ではないぞ」
 面長の男が2人の間にヌルリと入り、妙に説得力のある声色で2人を嗜めた。
「それに今は効果が薄い。やるのなら効果的に、確実なタイミングで行う方が、物語としては面白いだろう?」
 ほくそ笑む彼の瞳は、企みの霧がたちこめていた。
 そうして3人を先頭に一行はターミナル出入り口へたどり着くと、出入り口横のエレベータールームへ駆け込んだ。
 エレベータールームは円柱状のフロアになっており、入り口横にタッチパネル式のスイッチがあった。
 最後に、引きずるようにメシアをフロアへ放り込み、操作方法を熟知したジェフが隣接する居住、宿泊区画へ移動する操作をした。
 アクリル製の分厚い二重扉がゆっくりと閉じて行く。と、扉が閉じた瞬間、追いかけてきた化け物が透明なアクリル板にぶつかり、血しぶきとなにか得体の知れない液体が扉にこびりついた。
 と同時にエレベータールームは部屋ごと、上部へと浮上していった。
 ようやく一息ついた一行は、フロアの中央に設置されたソファに腰掛けた。特にジェイミー、マキナ、イラート、エリザベス、ジェフの5人は、肩で息をしていた。
「導かれてますね」
 若者たちに聞こえない声量で、上官へベアルドは告げた。
「君もそう思うかね?」
 神父も気づいていた様子であった。
「ええ。ステーション全体の電源システムがダウンしているというのに、シャトルへタラップは下りてきましたし、ターミナルへは入れましたし、こうして我々の逃げ道となるエレベータールームはしっかりと動いていることですし。間違いなく誘い込まれていますよ」
 神父は少し考えた。デヴィルズチルドレンは知恵のある連中だからな、と心の中で1人言う。
「とりあえず先へ進みましょう。歴史通りならば【イヴェトゥデーション】の艦隊がまもなく姿を現すですからね」
 援軍を信じ、神父は先に進むことを決断した。
 神父とベアルドが打ち合わせをしていた時、ソファで座っていたジェフは、俯いてたたずむメシアを見ていた。
「あんたさぁ、何があったかは知らないけど、死ぬつもりだっただろ。あれはいけないなぁ」
 ジェフは未だに肩で息をしていた。
 ようやく、メシアはジェフの瞳を見つめた。
 初めて会った男に何が解る、と言いたげであった。
「死んだらお終いだって分かってるかい?」
「おれは、大切な、失っちゃいけない人を失ったんだ。あんたには分からない」
 力はないが、拒絶は明確にあった。
「失ったのはあんただけじゃない。僕の家族だってきっと。だけど、だからこそ生きなきゃダメなんじゃないのか」
 気持ちがコップの縁から溢れ出したジェフの声は、震えて眼は潤んでいた。
 強い口調になったジェフの言葉に、エレベータールームが目的の区画に到着した、機械的な音だけが室内に響き渡った。
 
ENDLESS MYTH第2話-10へ続く

ENDLESS MYTH第2話-9

ENDLESS MYTH第2話-9

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-24

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