十二月二十四日

十二月二十四日

赤い服
赤い帽子
真っ白なおひげと
黒い靴

ねえ サンタさん
今宵 僕には
殴らないお父さんをください
睨まないお母さんをください
夜眠る時に涙が流れないベッドをください
情けない僕を殺してください


サンタさんなんていないと思った
僕の所には一度も来たことがないから
でもそれは僕が悪い子だからだって
パパとママが言ったから
僕は頑張って良い子になった

何をされても泣かなかった
何をされても怒らなかった
僕は良い子 僕は良い子
だからサンタさん、今年は来るよね

僕はいつもよりうんと早くベッドに潜った
晩御飯はコンビニ弁当
唐揚げが二つ入っていた
もちろんケーキなんてないけど
それでも今夜はメリークリスマス


そんなに早く眠れる訳が無くて
それでもじっと目を閉じていると
リビングから怒鳴り声がした
パパの声だ


僕はそっとベッドを抜け出し
ドアの隙間から覗き込んだ

ママが泣いてる
でも泣きながら怒っている
パパはもっとすごい声で怒鳴っている
ああ、もう このままじゃ
サンタさんが僕の家に入って来れないよ

僕はそっとリビングに入った
それに気づいたママは僕を睨んで
荷物を持って出て行った

「ママ、どこ行くの?」
僕はパパに聞いた
パパは僕の髪を強く掴んで
僕の部屋に連れていかれた


「お前のせいだ」
「お前がいるから何もかもめちゃくちゃだ」
そう言いながらパパは僕を殴った
何度も何度も殴った
殴られた所がヒリヒリしすぎて
もう感覚が無くなりそうなのに
パパは殴るのを止めなかった

僕は不安になった
こんなに殴られる悪い子の僕の所には
やっぱりサンタさんは来てくれないかもしれない
「ねえ、今日僕にもサンタさん来るよね?」
「ねえパパ、僕にもサンタさん来るよね?」


目が覚めると深夜一時を回っていた
殴られた所の痛みより
こんな時間に起きていては
もうサンタさんは来てくれないという
絶望の方がずっとずっと痛かった

ねえ サンタさん
今宵 僕には
殴らないお父さんをください
睨まないお母さんをください
夜眠る時に涙が流れないベッドをください

やっぱり今日もベッドの上で
大粒の涙がこぼれた

枕元に置いた大きな靴下
僕はそれを片付けようとした

何か入っている

取り出すと小さなナイフが入っていた
窓から入った月の光で
とてもとても綺麗に見えた

ねえ サンタさん
今宵 僕には
殴らないお父さんをください
睨まないお母さんをください
夜眠る時に涙が流れないベッドをください

三つのお願いは叶わなかったけど

情けない僕を殺してください

最後の一つは叶えてくれるみたいだ
ありがとう、サンタさん
僕はその最初で最後のプレゼントを
そっと自分の首筋に当てた


赤い服
赤いシーツ
真っ青な僕と
黒い夜

十二月二十四日

十二月二十四日

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-24

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