スクラッパー吉田

その名前を聞くとプロレスラーのようだけど違います。対戦相手を悉く再起不能にすることからその名前が付いた、とかではありません。プロレスラーではないから。

スクラッパー吉田とは町外れのスクラップヤードに住んでいる男のことです。住んでるといってもスクラップ屋の親父は別にいて、野積みされている廃車の一つに住んでいるのがスクラッパー吉田です。

吉田という名前も本当かどうか定かではありません。吉田と呼ばれているというのは噂で、誰もそれを直に聞いたことはないのです。僕は、親父が「よっさん」と読んでいるのは聞いたことがあるので、吉田説はかなり正しいと思っています。

スクラッパー吉田は隔週のゴミ収集日に現れて、空き缶やクズ鉄を持って行きます。当然スクラップ屋に持って行って売る為です。それが幾らになるのか、それで生活出来るのかは誰にも分かりませんが、生きているのだから生活出来るのだろうと皆思っています。でもスクラッパーが買い物をしてる姿は誰も見たことがありません。

スクラッパーはクズ鉄を集めていない時は公園のベンチで本を読んでいます。若しかして賢いのではないかと高校生が受験問題を差し出して解いてみろと言ったところ、スラスラと解いてしまったという噂もあります。

その内、スクラップヤードは金属リサイクル工場になり、リサイクルゴミを勝手に持って行くことも許されなくなり、スクラッパーが生きていけるような世の中の隙間はなくなってしまって、彼は何処かに消えていったのでした。

スクラッパー吉田

スクラッパー吉田

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-24

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