一等星

一等星

照れくさいので掌編にしました。

時を越えて

深夜三時。俺は突如起こされた。
「ねぇねぇ、起きて?」
ボーっとする頭に彼女の声が響く。気だるげに布団から立ち上がり、腕を引っ張られながらベランダに出た。真冬の寒さが一気に体を冷やして、手足が震え出す。
「今日はね、ふたご座流星群っていう流れ星が見れるんだよ。さっきから見てたけどね、三個ぐらい見れたよ!」
普段寒がりの彼女がこうして外に出て星を見るっていうんだからそりゃもうすごいものなんだろうなぁ。
「流れ星か…」
ねむり眼をこすりながら下を向いた。俺は小さい頃から目が悪いからさ。星なんて見えなんだよ。それは彼女だって知ってるはずなのにわざわざこんな時間に起こして見えないものを見せるなんて──。
「…すげぇ」
ムッとして何か言ってやろうと思って顔を上げた俺の眼前に広がったのは、眩ばかりの星空。
「でしょ?今日は一段と星が輝いてたからね、あなたにも見えるかなと思って」
「うん。見える。すごく綺麗だ…」
小学校の頃、理科の授業で習った天体を思い出す。オリオン座。ふたご座。おおいぬ座。大体の星座が見えた。
「なんでこんなに光ってるんだろう」
「わかんない」
その場で調べてみたが、あまり詳しくはわからなかった。
「本当に綺麗だね。何十年ぶりだろ。こうして星を見るのは」
そう言うと、横で君がふきだした。
「なんかおじいちゃんみたい」
「確かに」俺も笑った。

それからどれくらい星を眺めていたんだろう。たぶんほんの数分の出来事だったのに、俺の体感時間はすごく長かった。星を見ながら考えていたんだ。君は本当に星が好きなんだなって。
俺とどこかに出かけた時、夜に帰っていると、君は必ず夜空を見て星を探す。
「見て!今日は星が綺麗だよ!」
そう言って星を数えだす。何ともまぁ、隣で見ていてかわいらしいといつも思う。
「何個あった?」
「うーん…10個ぐらい!」
この辺は天気があんまり良くないからな。本当にそれくらいしか見えないんだろうね。
俺はこの時も聞いたんだ。
「今日は何個ある?」
いつもならすぐに帰ってくる返事だが、この時は遅れた。数えているというより、君は星に見惚れていて、俺の声なんてあまり聞こえてなかったんじゃないかな。でもちゃんと答えは返ってきた。
「数えられない…」
「そうだね。俺が見えてるだけでも100は超えてる」
「ちゃんと見える?」
「うん。見えてる」

結局流れ星は見えなかったけど、俺は君に絡まりながらずっと星を見ていた。
いつの間にか魔法が解けたかのように何も見えなくなった夜空から君に目を落とした。
「何も見えなくなっちゃったね」
「うん。でもよかった。あなたと星が見れて」
「俺もよかった。ありがとう」

寒い夜空の下で交わしたキスと、君と見た満天の星空が、どうか夢じゃありませんようにと星の消えた夜空に願いながら、俺はまた布団に潜った。

一等星

大きな感動というのは、本当に言葉では表せない。些細なサプライズや、小さな幸せだって、大切な人が見せてくれたり関わってるだけで、常に大きな感動になるから言葉に困るよ。
幸せに困るってすごい贅沢だと思います。いつもありがとう。

一等星

「今日はふたご座流星群が午前3時から見れるんだよ」

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-23

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