ENDLESS MYTH第2話-7
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通常、ターミナルの出入り口となるスキャニングルームの、ターミナル側出入り口とステーション側出入り口には、重装備の警備員が数名、必ず出入りする人間をチェックしていた。スキャニングゴーグルを装着し、随時、不審物、危険物を所持していないかをチェックしながら、銃を装備していた。
またお客側も複数あるスキャニングルルームの前に列を成して、パスポートと荷物を手にイライラとする光景がここの常でもあった。
ところがマックス神父率いる若者たち一行がスキャニングルーム前に来ると、警備員の姿もステーションへ入る人の姿も見られず、円柱状のスキャニングルームのアクリル扉は、イ・ヴェンスの怪力で容易く、手動で開いた。しかも内部の機能も失われているとみられ、彼らをスキャンする様子は微塵もない。
「生存者を1人、発見しました」
するとスキャニングルームのターミナル側出入り口から、ベラルド兵士の声が響き、ブーツの足音と、もう1つ、ぎこちない足音が近づいてきた。
一行が振り向くと、再び装備品で身を固めた兵士と、その後ろに重そうな黒いバッグを抱えた青年が1人、肩で息をしていた。
「体力がねぇなぁ。それをこっちに」
青年からバッグを奪うように取るベアルドは、ドサッとバッグを鋼鉄の床に、金属音と共に下ろすと、ジッパーを素早く引き、中を広げ全員の眼に中身を見せた。
中には戦争でも始めるつもりなのか、と言いたくなるほどの銃器が山となっていた。
これではジェフが重そうに運び、息を切らすのも無理はない。
「ここからは武器が必要になる。俺もディンガー上官も自分の命を保つだけで正直、いっぱいになると思う。自分の身は自分で護ってくれ」
サバイバルになる。これからは護衛はしないぞ。そう言っているような口ぶりのベアルド・ブル。
バッグの中身をのぞき込んだ一行はしかし、武器を手にすることをためらった。彼らには口にしないが護身する術は備えている。超常なる力を。だが誰1人、それを口にはしない。運命の歯車が動き出すまでは、口にしないのが暗黙の了解だったのである。
「メシアはこれを持ってて」
ハンドガン、ベレッタPX4ストームを手に取ったエリザベスが、肩と背中を猫のようにまるめ、うな垂れている彼へ手渡した。というより、強引に銃を握らせた。
護身の術をまだ持たない彼には必要だと彼女は判断したのだ。
メシアには生きて欲しい、その願いが銃を握らせる手に力を込める。
「武器なんて扱えない」
これまであまり言葉を口にしなかったマキナ・アナズが久々に唇を動かした。
マリア・プリースと過剰に仲が良く、彼女としか話さなかっただけに、不思議と一行の間に緊張感が走った。
「武器の扱いになれていないものが持つのは逆に危険です。自己責任で扱う人は手に取りましょう」
眼鏡を指で押し上げ、冷静に神父が判断した。
結果、武器を所持したのはニノラ・ペンダースとイ・ヴェンスだけであった。
ニノラはM37DSショットガン、イ・ヴェンスはMP7A1サブマシンガンを手にした。
最後に武器を手にしたのはジェフである。ジェフはさっきのベアルドとのやりとりを教訓に、ロックの位置を確認し、ベアルドと同じHK416を装備した。
「紹介が遅れました。彼はジェフ・アーガー。この先のショッピングモール区画から逃げてきたようです」
上官に報告するベアルドの眼は、得意げであった。
青年の名を耳にした刹那、神父は驚きで顔色を一瞬変えたものの、すぐさま平静を装い、咳払いすると一行に告げる。
「この先は何が起こるか分かりません。我々が相手にする敵は人智を軽々と凌駕しています。追々説明しますが、くれぐれも単独行動はしないでください。わたし達は崖の縁に立っているのと同じです。油断すると少しの風で崖下に落ちてしまいます」
神父の強い口調は、命が本当に危険である事実を伝えるには、十分だった。
一行はスキャニングルームを抜け、ショッピングモール区画へと進んだ。
メシアは銃を片手にもう一方の腕をエリザベスに引かれ、引きずられるように、運命の階段をまた1つ、登ったのであった。
ENDLESS MYTH第2話-8へ続く
ENDLESS MYTH第2話-7