失ったのは灰色の『現実』
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―――失ったのは灰色の現実。手に入れたのは明るく輝いている『夢』の世界。
毎日が輝いていた。朝、目がさめてカーテンを開ける。シャァァァァ…と、心地よい音ともに室内に差し込む、まぶしい光。
「ん~~~!!おはよー…。」
誰に、というわけではなくただ独り言のようにつぶやく、この『世界』への挨拶。皮肉をこめて。
支度をすませて外に出ると、庭に植わっている色彩豊かな淡い色の花々が私を待っていたかのように今日もまた、咲き乱れていた。
「~♪」
鼻歌交じりに、わざと花を踏み潰して私は歩く。けれど、花は私の抵抗むなしく、すぐに元通りの形になおっていく。憎らしい、本当に恨めしい。
『この場所』は絶対に普通の場所じゃない。何を壊して抵抗したって、どんなに助けを呼んだって、誰も助けてくれない。世界はこんなに、こんなに明るくて、楽しくて、美しいのに…私はどこかでこの世界を憎んでいる。
なぜかって?当然じゃないか。完璧すぎる世界なんて楽しくない。つらい事があるから、悲しい事があるから、人は幸せを感じる事ができる。この世界は輝きすぎている。私にはまぶしすぎる。ああ、過去の私とはなんて馬鹿だったのか。
確かに、あの灰色の現実は大嫌いだった。毎日のように、暴力が繰り返される家庭。学校でもいじめられ続けた。
あざだらけだったあの日々でもよかった。
今も残り続けている、消えない忌まわしい『傷』。けれど…そんな日々が今では愛しくて仕方がない。この世界は、いやだ。
嘘、嘘、嘘、この世界には嘘しか存在していない。
どんなに明るくて、やさしい、暖かい嘘でも…私には苦痛しか見せない。あんなに求めていた、輝かしい日々。それはこんなものだったの?私が求めていたのはこんなもの?
…違う。仮にそうだとしても、私は絶対に認めない。こんなのは、違う!
私は、にこやかに笑いかけてくるクラスメイトも、咲き乱れる花も、何もかも無視して走り出す。そして、叫ぶ。助けて、と何回も何回も。
お願い、私を元の世界に帰して!!どんな現実でもいい、受け入れる!だからもう…こんな世界にいたくない!嘘はいや!何も…何も幸せを感じられなくなってしまう!
あのころの私は、気づいていなかった。不幸が幸せを感じさせるのだと。
気づいてなかった。嘘で作られた毎日が、こんなに虚無でつらいものだなんて!
「もう充分でしょ!?返して!元の世界に帰してよぅ…っ!!」
私は、今日も叫び続ける。この、まぶしすぎる世界で。永遠に、ずっと。
失ったのは灰色の『現実』