ハンカチの秘密
ハンカチ(シナリオ)
「ハンカチの秘密」
ブラックウルフ
人物
水野真理(17歳) 高校生
富山三郎(47歳) 無職
富山淑子(68歳) その母
松田勇作(39歳) 刑事
殿村石雄(48歳) 刑事
ファミレス従業員A
○水野家・部屋(夜)
二階建ての戸建て住宅の部屋。ラジオのニュースの音声「・・熊本県人吉市で殺害された女子高生は、SNSで知り合った57歳の無職男性と前日まで一緒だったことが・・・」と。
水野真理(17)がその音量を絞り込む。真理は机に座ってスマホの文字を読む。スマホに「おじさん、リストラされちゃってさあ、妻も子供を連れて出て行くし・・・」と出る。スマホを持った指の向こうに窓がある。その窓の外には雪が降り積もった町並みが見える。
水野「会ってあげようかな?青森から東京は遠いけど、私も東京で遊びたいし。親には大学の下見だって言えばいいだろう」
水野、スマホに「会っても良いですよ」と打ち込む。スマホの画面から一時文字が消える。
着信音が鳴り画面に「ありがとう、次の土曜日、東京駅で待ってる。僕の写真は横顔だから期待しないでね」
水野「やだー期待しないでって、親父みたいな歳なんだから、あり得ない」
水野、スマホに「私、こそガキですから、お昼間だけですよね」と打ち込む。
着信音が鳴る。
スマホに「もちろん、スカイツリーに行って浅草で食事しよう」と文字が出る。
続けて「あっそうそうすぐに僕が分かるように、黒のジャケットに黄色いハンカチを胸に差していくから」
水野「ヤッパ、おじさんだあ(笑い、笑い)」
水野、飾り棚の中の香水を取り出して手首に噴霧させる。
水野「こうしても香水付けていっても気づいてくれるかな」
○スカイツリー上階・展望室
エレベーターから、ジーンズにプルオーバーの水野と胸ポケットに黄色のハンカチを差している富山三郎(47)が出てくる。
窓の向こうに東京都下が広がっている。
水野「わあ、凄いわねえ」
○浅草・ファミレス(夜)
テーブルを挟んで座る真理と三郎。二人とも神妙な顔つき。
水野「実は、私は親と上手く行ってないんだ」
三郎「うん、ラインでもそう言ってたよね」
水野「うん、まあ。それよりか三郎さん、子供とは?」
三郎「ああ、思い出すだけでも辛くなるよ、長女は僕に懐ついたのに、妻がなかば騙すようにして連れて行ったのさ」
三郎、涙ぐむ。
水野M「本気で泣いているのかしら?でも気になるなあ。白髪交じりの頭もいいかも。けど、私の香水に気づいてくれなかったのはねえ、ヤッパダサイかな」
水野「三郎さん、このあとどうするの?」
三郎、どぎまぎした様子で。
三郎M「ええ、凄いなあ最近の高校生は。あれってホテルに誘っているんだろう。やってやろうかな。でも警察にバレたら大変だろうし、どうしようかな」
三郎、自分の顔色が真理に見えないように斜め後ろを見てニンマリと笑う。
三郎「任せてよ、着いてくるだけで良いから」
三郎が歩きだろうとしたときに、ズボンポケットの携帯が鳴る。相手は富山淑子(72)と出る。三郎、モタモタして電話を取り出せない。お客
の視線が三郎に集まる。
淑子の声「(回りが驚くほどの大きなだみ声で)三郎、どこにいるんだい。おなか空いたよ。ご飯がないよ」
真理「あんれまあ、お袋さん、認知症だっぺー」
三郎、回りを気にしながら。
三郎「お袋、そんな大きな声出すなよ。ご飯ならちゃん作っておいたじゃないか。おれ、いまだ図書館の帰りなんだよ、夕飯には早い時間じゃないかい。なあ、テーブルの上にあるだろう。それを食べればいいじゃないかい」
三郎M「しまった、俺が小さな声で話さないとだめだった。これじゃあ、周りの人に認知症の母を放置しているって思われちゃうじゃねえか。やばいなあ」
淑子の声「(もっと大きなだみ声で)図書館?またパチンコだろう?三郎、おなか空いたよ。ご飯がないよ」
三郎「だから、そんな大きな声出すなよ。ご飯ならちゃんとテーブルあるだろう」
と押さえながらも、次第に大きな声で。
淑子の声「分かったけど早く帰ってきてね」
真理、急に白けた顔になり
真理「三郎さんてば、認知症のお母さん居ただべ、もう今日はムリだっぺ。ムリだっぺ」
とすねた顔をする。
三郎「とにかくここを出よう。」
○同じファミレス・従業員の事務室の中
二人が店を出てすぐに、従業員A、店内の電話で。
従業員A「あっもしもし警察?浅草のファミレスの・・・ですけど、たった今、高校生を連れ回している中年男がいました。その男は認知症の親も放置しているし・・・えっ特徴、あっ胸に黄色のハンカチを差してました。高校生は青森の出身らしくて時々ズーズー弁でしたが、早く捕まえた方が・・・」
○浅草繁華街の外れ(夜)
繁華街の外れ、その先にラブホテル街のネオンサインが見えている。ネオンサインを背景に、繁華街の中で真理を追いかけている三郎。そこに制服姿の警察官が声をかけている。
○浅草交番・中(夜)
二つの取調室があり、左側の取調室に真理が、右側の取調室に三郎が入れられている。
○同交番・左側取調室・中
松田勇作(33)と真理が机に向か合わせに座っている。真理、下を向いている。
松田「さっきから名前しか言わないじゃないか、まったく何とか言ってくれないと」
○同交番・右側取調室・中
殿村石雄(48)と三郎が机に向かい合わせに座っている。三郎、唇を咬んいる。
殿村「あのあとどうするつもりだったんだ?ファミレスの後?」
富山「いえ、別に。それに図書館で彼女に英語を教えてあげるつもりで・・・」
殿村「何、英語だとイングリッシュ?イグアナみたいな顔して。ホテルに連れ込むつもりだったんだろう。バージン狙いで、このスケベ親父め!(怒鳴り声で)」
三郎M「ああ、いやだいやだ、ついてねえや、あんな時間にお袋から電話がかかったりするからファミレスの店員にバレて通報されたんだ、どうするかな、泣くか。」
と胸のハンカチを取り出し、ハンカチで目頭を押さえる。
殿村「白々しい真似するな。中年親父が」
と三郎からハンカチを奪い、顔の汗を拭う。
三郎M[中年親父って、あんたも同じでしょう。ああ、泣き落としも利かねえや」
三郎、黙って携帯を手で触って遊ぶ。
三郎M「ああ、また携帯に電話かからないか
なあ。この刑事の調べは厳し過ぎる」
殿村「黙ってねえでなんか言えよう」
三郎「・・・」
そのとき、三郎の携帯が鳴る。
三郎M「やったお袋だ。地獄に仏だ、あっしまった音声モニターのママだ」
淑子の声「三郎、どこにいるんだい。私、お腹すいたよ、ああ、お前忘れ物だよ、テーブルの上になんか本を忘れているよ」
三郎M[えっなんだろう、ああ図書館から借りた英語の本だ。」
三郎「お袋、その本の題名読んでくれよ 、頼むよう」
淑子「カナ混じりだから私でも読めるわよ、『外人ギャルとあそぶあさくら・・・』ええとう」
三郎M「その次はまずは英語でアプローチ・・・とか書いてあるだろう、その通り読んでくれよ」
淑子「『ギャルと遊ぶあさくさ、夜のナイトスポット』ってあるよ、ああそうそう、思い出したよ、ナイトスポットって」
三郎M「ああ、終わった。切ってくれ、その電話」
淑子「『夜のナイトスポット』って書いてあるけどさあ、スポットって穴っている意味だって、三郎が私に前に教えてくれただろう。早く帰ってきておくれよ、スポットって言うから急に私のスポットが気になったじゃないか。私、おしっこに行きたくなったよ」
三郎M「終わった終わった、切ってくれよ電話」
淑子「ああ、そうそう黄色のタオル地のハンカチがないけど、私ねえ黄色のタオル生地のハンカチで漏れたおしっこをねえ拭いていたんだよ、私のGスポットの辺りだよ、そのハンカチがないとトイレも出来ないから、早く帰って来ておくれよ、三郎」
殿村、三郎の首を絞めながら。
殿村「たたって逮捕だ。即刻逮捕しろ」
と言いながら、三郎の胸ポケットから黄色のシミが付いたハンカチを取り出して即座に三郎の口に押し込んだ。
ハンカチの秘密