ENDLESS MYTH第2話-6

 震える手が引き金にかかっていた。
 ジェフ・アーガーはバイト先での出来事から逃げ出した後、とにかく光の方へ、と非常灯を頼りに、気づけばターミナル近くの警備施設へ入っていた。
 電源が落ちていたせいもあり、警備システムは働かず、彼は自然と武器庫へと侵入することに成功した。
 ステーションの警備システムは万全である。が、テロリストの襲撃に備え、数年前に発足した国連の憲章にとって、国際ステーション内部での武器の所持が認められ、警備員は重武装で警備に当たっていた。
 未だテロとの戦いは終結をみず、ステーションへの旅行が一般化された現在では、ステーションがいつターゲットにされるか分からない状況でもあることを考慮した、憲章締結であった。
 憲章の恩恵を受けた警備室の武器庫には、無数の武器、弾薬、防弾ベストなどの装備品が整えられていた。
 転がり込むように武器庫へ殺到したアルバイト店員は、手当たり次第に武器をかき集め、扱い方すら分からないそれらを目の前に並べ、ベストを着用した。
 土産品を売る店員の制服の上に防弾ベストは、端から見ると笑える姿形をしていたが、死が隣に迫った彼にとって、笑える状況ではなかった。
 怪物が自分の前方に迫っている!
 そう思い込んだ彼の行動は、自衛に走った。生存者の有無も、従業員の有無も関係なく、自分だけの保身に全神経を注いだのである。
 けれども緊張状態の中で1つだけ気がかりなことが、不意に頭上へ浮かび上がった。
(親父、お袋)
 心中で叫ぶなり、尻のポケットに押し込んでいたスマートフォンを取り出して電源を入れた。ところが通話機能が完全に失われている表示が出ていた。
 メールは、とWi-Fi環境下での送信を試みるも、Wi-Fiすら応答がなく、完全に通信手段は消されていた。
 SNSでの外部連絡も試みるも、つながらない。
 完全に彼は孤立したのである。
 と、その時、警備室のドアが開く音がした。それに驚き手にしていたスマートフォンを床に転がしてしまった。
 当然、音に気づいたと思われる侵入者の足音が武器庫の方へ近づいてくる。
 重厚を入り口へ向けて、震える指で引き金を引こうとした刹那、ドアが蹴り開けられ、1人の若い男が仁王立ちに彼を見下ろした。
「だ、誰だ」
 上ずった声に迫力など皆無。まるでライオンを前にした子猫のような気分であった。
「く、来るな! ち、近づくと撃つぞ!」
 重いベストをひねり、アサルトライフルを構える。構えだけはモデルガンを所持していたこともあって、様になっていた。
 けれども男は、頼りなくすごむ彼へ堂々と近づいてくると、1拍、間をあけたと思った瞬間、ライフルの銃口をむんずと掴むと、間髪を入れず彼からライフルを奪い取ってしまった。
「モデルガンでも持っているのか知らないが、構えは上出来だ。だが、実物のHK416をロックなしで武器庫に収めていると思うか?」
 と、ロックを外して男は自らの所持品のように扱った。
「お前、こんなところで1人で隠れてたのか?」
 ひょうひょうと男はジェフへ尋ねた。
「化け物から必死で逃げて、何が何だか・・・・・・」
 闇雲に逃げたところで、武器庫へたどり着く確率など、たかが知れている。もしかしたら危機に際して鼻が利くのか?
 男は心中で呟くと他の生存者の有無も尋ねた。
 ジェフはただ、首を横に振ることしかできなかった。
「まあいい。お前がこうしているのなら、他にも生存者がいるかもしれない。援軍が来るまでに、できるだけ1カ所に集めておかなくては」
 援軍? と質問を口にしかけたが、矢継ぎ早に男が問いかけてきた。
「あんた、名前は」
「ジェフ、ジェフ・アーガー」
 名前を口にすると、男の顔色が瞬く間に変化した。
「ジェフ。確かか? 確かにジェフ・アーガーなのか」
 彼の腕を凄い力で掴む。
 その腕をふりほどき、ジェフは頷いた。
「そうか、ジェフか・・・・・・」
 妙に嬉しげに男は微笑するのを彼は見るが、憤慨を隠せない。
「なんなんだよ。そっちこそ名前を名乗れよ」
 不機嫌にジェフが言うと、男は咳払いを1つして、姿勢を正した。
「わたしはベアルド・ブルと申します。こうして会えて、光栄であります」
 敬礼を1つすると、ベアルドはジェフにアサルトライフルを返却した。
「これから必要になる。持って着いてこい」
 と言うベアルド・ブルの表情は、妙に嬉しそうにジェフの眼には映ったのだった。


ENDLESS MYTH第2話-7へ続く

ENDLESS MYTH第2話-6

ENDLESS MYTH第2話-6

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-20

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted