ENDLESS MYTH第2話-5
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観光旅行で1度か2度、ステーションを訪れている程度の人物がほとんどで、一行、特に現代を生きる若者たちにとって、チューブ状のタラップを無重力状態で移動するのは、幾度も壁に設置されたクッションにぶつかりながらの、大仕事であった。
ステーション内部に到着してからも、エアロックからウィルス洗浄スペース、更衣室を通り、危険物を所持していないかのスキャニングを受け、ステーション内ターミナルに入ったのは、到着後、20分の時間を費やしていた。
当然、不満の声は彼女から上がった。
「いつまでこんな部屋に閉じ込めておくのよ。早く出しなさいよ」
スキャンルームのアクリル板の向こうで、イライラと声を荒げるジェイミー・スパヒッチは、機械的音声で異常物を所持していないことを確認したとの報告に、
「当たり前よ」
と、不満を最後に残し、口を開けたアクリル板のドアを抜け、天井が高く、自動受付、ナビコンソールなどがずらりと並び、普段は数百万人で賑わっているであろう広大なターミナルへ脚を踏み入れた。
「最後の到着者は誰かなぁ?」
誰のせいで、到着がよけいに遅れているのか、嫌味っぽく行ったのはイラート・ガハノフである。彼の少年っぽい視線の先には、まだスキャンルームに立ち尽くす、メシア・クライストの姿が映っていた。
アクリル板のドアが開いても、彼は自らの意思で脚を前に出すことはなかった。
どうして、どうして彼女が・・・・・・。
地球で大切なマリア・プリースを失った瞬間の光景が、延々と頭の中で渦巻き、ここにいながら彼の時間はマリアを消失したあの時間、あの場所から離れられず、自分が今現在どこにいるのかすらも、曖昧であった。
そんな彼を献身的に世話していたのが、エリザベス・ガハノフであった。スキャンを終えた立ち尽くす彼の腕を引き、スキャンルームから出したのも彼女であり、その手を握って引くのも彼女であった。
エリザベスの気持ちは誰の眼にも明らかであった。
弟のイラートがその光景を冷やかそうとした時である。
「すでにここも汚染されているようですね」
と、ベアルド・ブルが身構えながら周囲を警戒して、口にする。
「そのようですね。デヴィルズ・チルドレンがこのステーションを放っておくわけがありませんからね」
マックス・ディンガーは神父の格好をしながらも、すでに神父の雰囲気は完全に失われていた。彼もまた、実の娘ではないとはいえ、育ててきたマリアを失ったのである、口調はしっかりしている風に見えるが、どこか雰囲気には寂しさが漏れ出していた。
この時、マックス神父もベアルド兵士も武器を所持していなかった。ベアルド兵士に関しては武装ベストも装着しておらず、黒い長袖のシャツだけを上に着ていた。
ステーション内部は警備が厳重であるから、武器の持ち込みは厳禁である。密閉した閉鎖空間でるからウィルス対策も万全であるから、ターミナルまでの時間は必要以上に費やされたのである。
地球で活躍した武器はシャトルの中だ。もちろん若者たちが倒壊寸前のマンションで袖手した、あるいは合流の際に所持していた武器も、同様にステーション内への持ち込みはできなかった。
「武器を確保してきます。警備室にはなにかしらあると思いますので」
状況的に臨時の上官である神父へ告げると、ベアルドは1人、ターミナルにブーツの足音を響かせて走って行った。
「1人で逃げる気?」
未来人の話など聞いているはずのないジェイミーが憤慨する。
と、横で黒人のニノラ・ペンダースが瞳をターミナル中に走らせ、囁きながら嫌な顔をした。
「何か変だ。こんなに人の気配がないなんて」
イ・ヴェンスが大きく床から天井まで開けた、全長20メートルはあるであろうアクリル性の窓から外を眺めると、無数のシャトルが到着している。それだけの人がステーション内に流入しているのは確かなのだ。
「確かに。人がいない。おかしいな」
皆が促されるように外を眺めると、地球が白い光を到るところで明滅させ、火山の噴火らしき赤い光も複数、各国で見えていた。
人類が引き起こす核兵器の光と自然の火山噴火の光が、地球が悲鳴を上げているように見えていた。
ENDLESS MYTH第2話ー6へ続く
ENDLESS MYTH第2話-5