愛の夢
空はねずみ色に曇って、遥かにはドームが青く煙っていた。あれが温室だとは、にわかには信じがたい。
目の前では、枯れた草花が風に揺れ、花の名前を書いたプレートが並んでいた。
「パパメイアン」
すぐ近くのプレートには、そのように書かれている。きっと咲いていた頃には、黒紅色の大輪の花が、むせ返るほどの香りを放っていたに違いない。
「まるで墓標だ、花の墓場だ」
そう呟くと、傍らの君が答えた。
「楽しみの墓よ」
「楽しみのだって?」
確かに咲き誇っていた花は、楽しみの象徴ではあるのかもしれない。
「じゃあ、これは何の墓だと言うんだい?」
辺りには電飾が輝き、メリーゴーラウンドやコーヒーカップが、誰も乗せぬまま、ゆっくりと回っていた。
それらのアトラクションは、屋根や柱に至るまで電球で装飾され、その回転する様はまるで光の流れる川だというのに、空を見上げると一面の星空が、地上の光の影響を全く感じさせない程に輝いており、遠くを見れば見るほどに、地上と空とが融和され、星空の中を泳いでいるような、そんな気がするのであった。
「これも、楽しみの墓場かい?」
全くの静寂だというのに、君は周囲の光にかき消されたかのように、小さな声で答えた。
「悲しみの墓場ね」
目が覚めると、枕元に黒紅色の花が一輪、残り香というには強すぎるほど香っていた。
喪失感にしばらく沈んだ後、花を摘まみあげながら、僕は君に逢うため起き上がった。
愛の夢