ふたりの絆③

第1章 ホタルの死(前半)

2012年5月上旬の出来事だった。

会社で仕事をしていたヒカルの携帯がなった。

(誰からだろう)

そう思いながら電話に出ると、妹からである。

「お兄ちゃん驚かないでよ、ホタルが死んだよ。」

突然のことに、何も言えないヒカルだった。

さらに、妹は言葉を続けた。

「お母さんを絶対怒らないでよね。」

というと、ヒカルからは冷静を装い妹に言った。

「今は仕事中だから。」

そういって、妹からの電話を切った。

ヒカルは信じられない気持ちでいっぱいだった。

無理もないことだ。

この日の朝も元気なホタルの姿を見てから家を出ていたのである。

仕事が終わると急いで家に帰った。

自宅の駐車場まで帰ってきたとき、いつもと違うことに気づいたヒカルだった。

ホタルが鳴かない・・・。

いつもなら、駐車場まで来るとカーテン越しに顔を覗かせて、うるさいくらい吠えるのだ。

ひかるは玄関を入り、ホタルがいつも居るはずの居間の扉を開けた。

そこで見たものは、綺麗な花を添えられた段ボール箱の中で、眠っているかのように、静かに横たわるホタルの姿だった。

台所では、母親が何も言わずに夕食の準備をしていた。

まだ温かみが残っている。

「ホタル・・・ごめんな。」

なぜか謝るヒカルであった。

その目からは、涙が溢れていた。

しばらくして妹が帰ってきた。

ヒカルに目を合わせることなく、母親と何かを話している。

ヒカルの家は3人家族である。

ヒカルと妹と母親だ。

夕食後、そっと妹が寄ってきてヒカルに言った。

「お兄ちゃん、何もお母さんに言わなかったでしょうね。」

やはり女同士なんだなと思った。

「なにも言ってないから心配するなよ。」

妹は安心したのか、また母親と話をしていた。

ヒカルは一晩中ホタルの側にいた。

一夜明けると、ホタルの体は冷たく、硬くなっていた。

それでも、優しく撫でるヒカルであった。

                             →「第1章 ホタルの死(後半)」 に続く  12/16更新

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ふたりの絆③

ふたりの絆③

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-16

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