~時の足跡~ 16章~20章
16章 ~故郷~
通ってた学校の校庭の木、悠々と立つ一本の大木は未だ健在だった、この街から出ていくと決めた日、最後に登ったのは、
ついこの間のようにも思える。
ヒデさんと裏山から降りてこっそり学校を覗いて歩き出してから見慣れた風景を眼にして、うちは足を止めた、
どうして此処に来てしまったのか自問してたらうちは震えだしてた、此処には居たくない、
「ヒデさん?ここはあたしの来る場所じゃないよ戻ろう?」って言うと、ヒデさんは
「大丈夫俺が居るよ!亜紀ちゃん?・・・」って言った、でもうちには聞けなかった、記憶は否応なく蘇えってきたら耐えられなくて
うちは走り出した、その時、うちは腕を掴まれて、振り返るとヒデさんが
「亜紀ちゃん~待つんだ!頼む!待ってくれ!な?」って引き戻した、でも「ごめんなさいあたしは・・!」
ってヒデさんの手を振り切ろうとしたらヒデさんが、
「分かった亜紀ちゃん!俺が悪かったよ、分かった戻ろう~な?頼む?」そう言ってヒデさんはうちに抱きついてうちは引き留められた、
そのまま二人戻って来た旅館にうちは、部屋の隅に座り込んで膝に顔を埋めた、
何も言えなかった、ヒデさんの顔を見る事が出来なかった、ただこんな筈じゃなかったのにって、後悔ばかりが頭を占めて、
悲しくて涙が溢れてた、するとヒデさんは、
「亜紀ちゃん落ち着いたか?ごめんな?今日はゆっくり休んで明日帰ろう~な?」って言うと壁にもたれかけてうつむいてた、
ヒデさんの所為じゃない、うちがヒデさんに迷惑かけた、そう思うと居たたまれなくて、
「ヒデさん?ごめんなさい、あたしの所為で、本当にごめんなさい!」って言ったら、
「いやいいんだ!俺、分かってたのに亜紀ちゃんに無理言って、謝るのは俺のほうだ、悪かったな?亜紀ちゃん?
俺はさ~亜紀ちゃんが苦しんでいるのやっぱり辛いんだ、だから俺は亜紀ちゃんの力になりたいってそう思ってる、
いい町だな?俺ほんと来て好かったよ、穏やかでさ、あの山もあそこから見る風景も俺は好きだよ、俺さ~?亜紀ちゃんがこの町に
いつでも帰れる居場所であってほしいって本気で思ってるよ、だから亜紀ちゃんが自分の過去と向き合えるなら俺、付き合いたい、
亜紀ちゃん?俺を頼ってくれるならいつでも言ってくれよ、なあ?俺はこの街にも山にも、亜紀ちゃんとまた一緒に来たいって
そう思ってるからさ・・」って言った、
でもヒデさんの気持に応えられる言葉も自信も今のうちには、まだ持てない、するとヒデさんが
「ごめんつい話しこんじゃって・・今日はもう休もう~な?」って言われてうちは、言われるまま寝床に入った。
でも床に入っても眠れなかった・・・、幾つもの想いが交差してきたら、苦しくなったから・・・、
(どうしてうちは・・どうしちゃったのかな・・)涙が後から後から溢れて止まらなくなった、
お兄ちゃん達との生活は辛かったでも、うちには友達が居た、それだけで良かった、辛い事も耐えられたのに・・・、
(お兄ちゃん~どうしてうちを嫌うの?どうしてあの人たちの娘じゃなきゃ駄目なの~教えてよお兄ちゃん・・)
悲しくて苦しくて涙が止まらなかった・・・、いつしか空が明るくなりはじめて、うちは慌ててなみだを拭いた。
でも泣き顔がぬけないまま朝を迎えて、ヒデさんに顔が合わせられなくて帰り道を急ぎ足になった、そんなうちにヒデさんは、
「亜紀ちゃん~そんなに急ぐ事ないだろう?俺言いすぎたから怒らせちゃったか~?悪かった、だからさ~」って言った、
とんでもない誤解をされてしまって、うちは焦った、
「あの~そんなんじゃなくて、あたし怒ってなんていません、だから謝らないでください」って言うと、ヒデさんは、
「そっか~?なら、どうして急ぐんだ~もしかして俺嫌われた~?」もううちは返事に困って首だけ振って返事を返したら
ヒデさんは、
「亜紀ちゃん~そりゃないよ~それはちょっと冷たくないか?」ってもうヒデさんの本気なのか冗談なのかわからない言葉に、
いつの間にか恥ずかしいのも忘れてうちは笑ってた。
それからひと月が過ぎた夕暮に、アンちゃんが店に顔を見せた・・、
久しぶりに顔を見合わせてたアンちゃんは
「亜紀ちゃん元気してた?ヒデさん~ご無沙汰!」って笑顔を見せた、ヒデさんが
「よう!いらっしゃい!」って声を掛けるとアンちゃんはテーブルに着いてうちの顔をみると、
「今日はちょっと亜紀に用があって来たんだ?」って言った、「えっあたしに?何に・・」って言ったら、するとヒデさんが、
「何に、なんかあったのか~?」って聞いた、するとアンちゃんは、
「あぁいや~たいしたことじゃないよ、ただ友達の事でさ~ちょっと・・」って言った
(友達って・・・)その言葉に不意にサチの顔が浮かんだ「アンちゃん、それってサチの事?」って聞くとアンちゃんは
「あ~、二~三日前に見かけてさ~、もしかしてって思ったんだけど、来てない?」って言った、
「来てない!だってサチはあたしが此処に居る事知らないし、アンちゃん前にも見たって言ってたでしょう?サチは何処に?・・」
って聞くとアンちゃんは、
「あっごめん!なんか俺、早とちりしちゃったかな~、気にさせちゃったな~ごめん?」って謝った、でもうちは
(サチはうちを探してたのかな・・)そう思ったら息が詰まった、するとヒデさんが、
「亜紀ちゃん~会って来たら?店の事ならいいからさ」って言ってくれた、でもすぐに返事ができなくて、考え込んでたら
アンちゃんが、
「そうだな、サチは、亜紀に逢いたいのかもな、」って言うと、急に立ち上がって
「ヒデさん~俺これで帰るよ、悪い、今日は話だけだからさ、ごめん亜紀ちゃん?そんな考え込まないでくれよ、な?また今度ゆっくり、じゃ」
そう言うとアンちゃんはさっさと帰ってしまった。
そうは言われてもそんな簡単にうちには聞き流せなかった、サチに会いたいって思う、でもあの場所へ行くのが怖くてずっと避けてきた、
するとヒデさんが、
「あいつ用事のついでに寄っただけなんだな~何も食べずに帰ったよ!」そうぼやきながら、洗い物に追われてた。
サチの事考えてたらつい手が止まってしまってたうちに、ヒデさんが
「亜紀ちゃん大丈夫か~?少し休んでな?客も減ったことだし俺一人でも大丈夫だからさ~」って言われて、
「あぁはい!すみません、お言葉に甘えて少し休ませてもらいます、ありがと」って言ったらヒデさん「ああ~いいよ!」って言ってくれて
何も手につきそうにないって自分でも分かるから素直に甘える事にして部屋へと戻った。
部屋の窓から差し込んでた夕日はいつも見てるはずなのに今日はどこか寂しく見えた・・、でもそれは夕日の所為じゃなくて
うちの気持ちが寂しいって見えてるだけなんだって思う、そんな自分に気づいたら、やりきれないもどかしさを感じてしかたなかった、
いつでもうちは、立ち止ったまま動けない、そう思うとやっぱりサチに会いたい気持ちが募ってた・・、
そんな時ヒデさんが
「亜紀ちゃん~いいか~?おにぎり作ったんだ一緒に食べないか?」そう言ってうちはおにぎりを手渡された、
「あ~ありがとう!」っておにぎりを貰ったら、ヒデさんは、「亜紀ちゃん?悩んでるのか~?」って言われて
なんて応えていいのか迷った、まだ自分の気持ちに応えが出た訳じゃないから、ただサチに会いたいって思いだけだから、
するとヒデさんに、
「俺は亜紀ちゃんの、素直な気持ちでいいんじゃないかって思うけどな~」って笑って見せた、
何気ないヒデさんのひと言に、なんか臆病な自分が恥ずかしく思えてきて、
「あの~ヒデさん?あたし、やっぱり会いに行きたい、だからあの~行っていいですか?」って言ったら、ヒデさんは、
「あ~いいよ行っといでよ?俺もそれを言いたくて来たんだけど、良かった行ってきな?な~亜紀ちゃん?」って言って笑顔を見せた、
「ありがとう!わがまま言ってすみません、ほんとにありがとう」って言うと、ヒデさんは、
「気にしなくていいよ!あっおにぎり食べてくれよな?」ってヒデさんは店へと戻って行った。
17章 ~追想~
北風が今のうちを追い立てるかのように吹き抜けた・・、雲に覆うわれた空は少し不安な心を掻き立てて・・、
それでも思いはもう行く先に待ってるってそう信じるから、うちは流行る気持ちを抑えながら忙しそうにしてた
ヒデさんを前に、
「それじゃ~ヒデさん行ってきます、早めに戻りますから・・」って言うと、ヒデさんは
「気にしなくていいよ!ゆっくり行ってきなよ!」そう言うとうちに袋を手渡した、
うちは困惑してヒデさんに、「えっこれは・・・?」って聞くと、ヒデさんは
「これは亜紀ちゃんが頑張ってきた手当だ、大した金額は出せないけどさ、受取ってくれ、な?」そう言って手渡された、
でもうちは素直に受け取れなくて、
「あたし迷惑ばかりで、お給金だなんて、それにあたしヒデさんのお役に立てるだけで十分です、だから」
って返そうとしたら、ヒデさんはうちの手に戻して、
「これは亜紀ちゃんが頑張ってきたお金だ、だから迷惑とか関係ない俺の気持ちだからさ、受け取ってくれよ!な?」
そう言ってうちの手元に戻された、そこまで言ってくれるヒデさんの気持ちを無為に出来なくなって、
「すみません、どうもありがとう!」て言ってしまったらヒデさんに、
「何だよ~それ、マッいいや、ゆっくり行ってきな?」って笑いながら見送ってくれた。
一人出たのは、久しいなって思う、故郷を逃げ出したあの日、不安で心細くて先の見えなかった時、偶然出会ったサチ・・・
サチに会えたから今のうちで居られるんだって思う、サチの居るあの町へ行くのが、本当は怖かった・・、
あの町にお兄ちゃんが来た時から、うちは臆病になってた、
でもサチがうちに会いに来ているかもって思ったら、うちもサチに逢いたい、それにヒデさんが後押ししてくれたから、
だから今はもう迷わない。
乗り込んだ電車の中、大きな荷物を抱えておばあちゃんがうちの隣の席に坐った、おばあちゃんは大きな荷物を自分の
足元に置くと、ため息を漏らして、小さな手荷物を膝の上で抱えて、またため息をついてた・・。
そんなおばあちゃんの仕草がうちにはどこか温かくて心地よかった、
おばあちゃんの温もりと電車が揺りかごになったようで、うちはつい居眠りしてしまった、気がついた時、降りる駅は目の前で、
うちは慌てて降りようとしていたら、隣に坐ってたおばあちゃんも降りる駅が一緒だった、ふいにおばあちゃんの荷物が
眼に入って、
「あの~よかったらお手伝いさせてください?・・」って声をかけた、するとおばあちゃんは、
「ええ~いいのかい?すまないね~」って言うと、うちの顔を覗き込んで笑顔を見せた
うちはおばあちゃんに、喜んでもらえたのが、嬉しくて、
「いえ、あたしも此処で降りますから、お持ちしますよ」って言うとおばあちゃんは嬉しそうに、
「どうもありがとう~?それじゃ~お願いしようか、すまないね~」そう言って一緒に駅を出た・・。
駅を出るとおばあちゃんは、うちの手を取って、
「どうもありがとう?ねえ~?あたしゃ此処からすぐの家なんだよ、どうかね~好かったら、うちに寄ってって貰えないかね~?
誰もいない一人暮らしだから、遠慮はいらないよ?ねえ?」って、うちの手を取った・・、
「分かりました、それじゃ家まで持ちますね?ね~おばあちゃん?」って言うと、おばあちゃんは、笑顔を見せて、
「そりゃありがたい、それじゃ~悪いけど宜しく頼もうかね?さっ行くとしようかね」って言うと、楽しそうに歩きだしてた、
そして駅から数分もかからない内に辿りついた、おばあちゃんが言うようにほんと駅からすぐの家で、古そうな家だけど、
凄く大きな家で、とても一人暮らしには思えなかった、うちは荷物を玄関に運び入れてから、おばあちゃんに、
「おばあちゃん?こんな大きな家にほんとに一人で住んでいるの~?」って聞いてみた、するとおばあちゃんは、
「ああ~気楽なもんだよ、一昨年、亭主が死んじまって、息子が居たけどね~、何処ぞに行ったきりで音沙汰無しだ、もう五年はなるかね~
あれっいやだ、余計な話しちゃったよ、すまないねえ、さあ入っておくれよ、ね?」って慌ててうちを手招いた、
「あ~おばあちゃん?ごめんなさい、もっとお話ししてたいんだけどあたし、もう行かなきゃいけないのだから・・」
って言うとおばあちゃんは寂しげな顔で、うちに、
「そうかいそりゃ残念だ・・・、でも今日はほんと助かったよ、あんな重たい荷物、すまなかったね~?ありがと~?また此処に寄った時は
いつでも遊びに来ておくれよ、ねえ?」って頼み込むようにうちの顔を見た、
「はい、その時はぜひ寄らせて貰いますね?おばあちゃん、それじゃ~あたしはこれで・・・」って言うと、
おばあちゃんはうちの手を握り締めて、
「ほんとにまた来ておくれね~?待ってるよ~?それで、これ使っておくれよ、大したもんじゃないけど、ほんのお礼だよ?今日はありがと」
そう言ってうちに手渡したのは小さなケースに入ったお化粧道具、手にしたのは初めてで驚いた、でもうちにはとても手に入りそうにもない
高価な物に思えて、だから、
「おばあちゃん?これは貰う訳いかないですよ?あたしそんな大したことした訳じゃありませんから、おばあちゃんの気持ちだけで十分です、
だからこれは仕舞ってください、ね?」って言うとおばあちゃんは、うちに押しつけるようにして手を握ると、
「いいんだよ~?これは息子が嫁さんでも貰ったらって取っといたもんだ、でももうあたしが生きてるうちにはもう望めそうにないからね~
あんたに使って貰えるなら本望だよ、だからね?お願いだよ貰ってはくれないかね~?」そう言ってうちの手に乗せた、
そんなおばあちゃんの想いが、ほんの少しだけ見えたような気がして、うちは返せなくなった・・、
「おばあちゃん?ありがとう~!あたし大事に使わせて貰うね?ありがとおばあちゃん・・」って言ったら、
おばあちゃんは、
「そんな大したもんじゃないんだよ、けど好かった、嬉しいよ、あ~そう言えばあんたの名前、まだ聞いて無かったね~?好かったら
教えてくれるかい?あたしゃ梅って呼んでくれていいからね?また来ておくれよ待ってるから・・」って言って涙ぐんでた、
「はい・・!あたしの名前、亜紀って言います、きっとまた顔を見に来ますね、お梅さん?それじゃ~ほんとにこれで・・」って、うちは頭をさげて
おばあちゃんの家を出た・・、
ほんの短い時間のように思っていたのに、お日様は少し沈み掛けてた・・、
うちは少し急ぎ足になった、でも久しい道を歩いて行くうちに、この町にサチと来た頃のことを思い出してあの頃を振り返った・・、
サチとこの町の探索に出た時のこと、それから夜更かしして朝寝坊して仕事に遅れそうになった時のこと・・・、
初めて二人お揃いの服を買っておおはしゃぎしてた時のこと、不安はあったけどサチと一緒ならってそう思ってた・・、
楽しかった、そしてうちにとってかけがえのないサチとの思い出・・。
想い出を振り返りながら歩いてたら、そのうち歩く先に懐かしい職場が見えてきて、うちは早足になった・・・、
でもその時、お兄ちゃんの後ろ姿が見えた・・、(お兄ちゃん・・、何の用?サチは?・・・)うちは来た道を走り出した、
そして停車中だった電車に乗り込んで隠れた、電車が走り出して通り過ぎてく町を見送りながら、うちはお兄ちゃんを思った・・、
(どうしてまた、お兄ちゃんがここに来るの?サチに何の用が・・・)うちには分からないことばかりだった、
不安を抱えたままに乗り込んでしまった電車はいつしか知らない街に着いた、
乗る筈じゃなかった電車から、ふと気ずいた停車駅で、思わず降りてしまったけど、すっかり陽は落ちて所々に灯りが点きはじめてた、
知らないこの街には、工場がたくさん並んで居るようだけど、でも、休めそうな場所も見当たらなくて、(どうしよう~)
でもこのまま店に帰ることはしたくなくて、とりあえず駅の近くにあったベンチに腰を下ろした・・、
そんな時、作業服姿で歩いてくるアンちゃんに出会った、思わずうちは、
「アンちゃん~!?」て声を掛けた、するとアンちゃんは驚いた顔で、「どうしたの、こんなところで~!」
って言いながら困惑した表情でうちを見てた、
「驚かせてごめんね?アンちゃん仕事の帰り?」って聞くとアンちゃんは
「ああ~そうだよ、けどどうして亜紀がここに~?何かあったの?」って聞かれて
「あ~そんなんじゃないの、サチに会いに行くんだけど今日は泊まるとこ探してるの、アンちゃんどこか知らない?」
って聞くととアンちゃんは戸惑いながらも教えてくれた、けど思いつめた顔で、
「でもどうしてこんな時間に、ヒデさんと何かあったの?ここは女の子が一人で来るようなとこじゃないよ?」
って言ってムキになってた、うちはアンちゃんになんて言えばいいのか言葉に詰まって、
「あっごめん!知らなかった、ごめんなさい・・」、謝るしかなかった、でも
「ヒデさんには、休暇を貰って来たの、だから心配しないで?ありがとうアンちゃん!じゃあたし行くね~?ありがと?」
ってアンちゃんに頭下げてから歩きだしたらアンちゃんは、
「亜紀、待って~?」って腕を掴まれて引き止められた、するとアンちゃんは
「俺の家に行こう~?ここから近いんだ、だから、ね?」って言ってアンちゃんは、うちの手を握って歩き出した、
数軒通り過ぎると、二階建てのアパートに着いた、アンちゃんの部屋は二階に四つ並ぶ奥の部屋、
アンちゃんはずうっと黙ったままで、うちは声もかけられずについて来てしまった、なんだか凄く気まずくて、アンちゃんに
迷惑かけてる気がしてきて、玄関の前まで来た時、
「アンちゃん?あたしやっぱり帰るね?心配させてごめんなさい!でもあたしは大丈夫だから、あとは一人でも帰れるよ、ありがとう」
って引き返そうと歩き出したらアンちゃんに、
「ごめん亜紀?迷惑なんて思ってないよ!だからここに居てくれないか~?な~そうしてくれよ」って言ってうちの手を掴んだ、
そんな事言われたらうちは何も言えなくて、言われるままにアンちゃんのアパートに泊めてもらう事になった。
初めて入るアンちゃんの部屋は、台所に六畳一間の部屋、タンス一つに小さなテレビが置いてあって、部屋の中央には小さなテーブルと
電気ストーブ、そして窓際の隅にはベッド、ベッド横に置かれたボックスの上には、目覚まし時計と並んで妹の写真が立てかけてあった。
うちはアンちゃんがなぜこの街へ来たのか、アンちゃんの事何も知らない・・・、
いつでもうちの事ばかりだったアンちゃん・・・、だからいつの間にかそれが当たり前のようになって、アンちゃんに聞く勇気すらうちは
持てずに、どれくらいの時を、見過ごして来たんだろうって思う・・・、
気づいた時はうちには、アンちゃんがいつも居た、アンちゃんの支えがあった、だから歩いて来れたのに、思い反したら涙が零れた・・・。
その時アンちゃんに、
「どうした~?座って?亜紀~お腹すかない?」って聞かれて、気がつくと、うちもまだ何も食べてなくて「そうだね!」って言ったら
アンちゃんは、「それじゃ何か作るか?」って言って台所に立った。
うちは涙を見られずに居たことに、ホットしながら、ため息がでた、その時、台所に立つアンちゃんの後ろ姿を見て
「あ~アンちゃん?あたしが作るよ、いいでしょう?あたしも少しは料理、うまくなったんだよ~?だから作らせて?」って言うと
アンちゃんは、
「へ~そうなんだ~!それじゃ~お手並み拝見としようかな~!」そう言って部屋に戻った。
「アンちゃん、一人暮らしなのに食材はちゃんと揃ってるんだね?さすがだねアンちゃん、凄い~!」って褒めたら叱られてしまった
「か、らかうな~!」だって・・・。
うちはヒデさんから無理言って教えてもらったヒデさん仕込みのスパゲティを作ってみた、
「アンちゃん、食べてみて~?」って言うとアンちゃんは、
「へェ~すごいな~美味しそう!いただきま~す」って言って、あっという間に食べてしまった、そしたら美味しかったって褒めてくれた、
その時、アンちゃんが褒めてくれた言葉、ヒデさんに聞かせたかったな~って思ったりしながらヒデさんの顔を思い浮かべた。
(今ヒデさん、どうしてるのかな~お店忙しいのかな~)うちはこっそり窓から覗く空に向かって心に呟いた。
18章 ~芽生え~
サチに会いたくて出て来たはずだった、
なのに会うこともできないまま、行き詰まってたうちは、アンちゃんに出会って成り行きからアンちゃんのアパートに
泊めてもらう事になった・・、
一人暮らしのアンちゃんの部屋で、やっぱりうちは迷惑だって思えてきたら、ただ苦しくて何も言えなくて、持て余した時間を
うちは窓から見える空を眺めた・・。
そんな時アンちゃんが、「カナ~?」って呼んだ、忘れかけてた名前を呼ばれて、驚いて振り向くとアンちゃんは、
「カナって呼んでいいよね?やっぱりカナの方がしっくりくるんだ?だめかな?」って言った、
唐突に呼ばれた名前にうちは言葉に詰まって頷くしかなくてうつむいたら、アンちゃんは
「カナはサチに会いに行くって言ってたよね~?俺が余計な事言った所為だね?、ごめん」って謝った、
うちがサチに逢いに来た事で、余計な心配させてしまったんだって気づいたらなんか心苦しくて、だから、
「そんなんじゃないよ、あたしはサチに黙って出て来ちゃって、ずっと苦しかったの、でもアンちゃんに会えて、気持ちが楽になれたよ?
だからアンちゃんには感謝してるの、ありがと?」って言ったらアンちゃんは
「そう~・・」って言うとそれっきり黙ってしまった。
本当はサチに会いに行っても逢えなかったって、今さらアンちゃんには言えなかった、やっぱりうちはサチに会って帰りたい、
どれだけの時間が経ったんだろう、アンちゃんは何を考えてるのかずっと黙ったままベットにもたれかけて天上を見つめてた、
すると急にアンちゃんが
「あの日さ~カナに会いに行った日・・、あの後、俺サチのこと気になってあの職場に行って見たんだ、だけど会えなかったよ、なんか
休み取ったらしくてさ~それで聞いた話しだけど、サチのお母さんが、尋ねて来てたって聞いたんだ、俺、カナの気持ちは分かるんだけど、
でも今はサチに会いに行くのは止めた方がいいと思う、ごめん勝手言ってるよな~?カナに行きなって言ったのに、ごめん!
でもさ?今カナに会えば、サチに余計な負担かけるような気がしてさ~、だから・・」って言った、
うちは何も返す言葉がなかった、違う、返せなかった、うちはアンちゃんが言う前から本当は気ずいてたお兄ちゃんの姿を見かけた時から、
うちの所為でサチに迷惑かけてたこと、うちの身勝手でサチを追いこんで・・、だからサチに別れも言わず飛び出して来たはずなのに、
今さら逢いたいからって・・、勝手だよね、苦しくて悲しくて、思いが溢れだしたら涙が零れた。
するとアンちゃんが、
「カナ~ごめん?泣かせるつもりはなかったんだ、ごめんな?」って謝って、
「カナ?俺カナが大好きだよ?だから支えになってあげたい、そう思ってる、勝手言ってると思う、ただ今はってそう思ったから、ごめん、
カナの気持ち分かってるのにほんとごめん」って何度も謝ってた・・、
こんなに暖かいアンちゃんの思いが痛いほど伝わってきてまた、泣いてた、
「謝んないでよ~?あたしアンちゃんの気持ち凄く嬉しい、ありがとう、あたし、ほんとアンちゃんには助けられてばっかりだよね~ごめんね?
あたしもアンちゃんが大好きよ?いつだって忘れた事ない、苦しくてもどんなに辛くても、アンちゃんがいつも元気くれて支えになってくれて」
ってその先が、言えなくなった、言ったらまた泣いてしまいそうで・・、
そしたらアンちゃんが、
「ありがと?でもカナだっていつも親身になってくれてたよ、いつだって俺、助けられてたんだよ?ありがとなカナ?」って笑った、
「なんだか可笑しいね?アンちゃんもあたしも同じこと思ってたんだなって、そう思ったらなんか可笑しいよね?」って言ってたら
つい可笑しくなって笑ったら、「本当だな!」ってアンちゃんも笑ってた・・、
するとアンちゃんが
「カナ?サチの事だけど、何か分かったら真っ先にカナに知らせに行くよ、だからさカナ待っててくれるかな?逢いたくてきたのにごめんな?」
そう言ってアンちゃんはうつむいてた、
「ありがと?あたしは大丈夫、アンちゃんが気づかせてくれたから、サチにはいつか逢える日が来るって信じる、だからもう気にしないで?」
って言うと、アンちゃんは頷いて、
「ありがと!そだ俺、明日休みなんだ~、だからさ?明日は一緒にヒデさんのお店に行こう~な?」ってニッコリ笑ってうちの顔を覗きこんだ。
そんなアンちゃんの笑顔が嬉しくて思わず「はい!」って意気込んでしまったらアンちゃんが噴き出して笑いだした、
そんなアンちゃんの笑いにうちは恥ずかしさより先に自分でも可笑しくて一緒になって笑ってた。
アンちゃんが毛布を掛けてくれてストーブを前にしてふたりで一緒に肩並べて坐りこんだ、いつしか毛布の温もりが心地よくなってきた頃に
アンちゃんはうちの顔を覗き込んで、
「カナ~?少し寝たほうがいいよ?」そう言って自分の肩にうちの頭を乗せた、
うちはアンちゃんの何気ない気遣いに、ふとヒデさんもこんなふうにしてくれた事思いだして、つい思い巡らせてた、するとアンちゃんは、
いつの間にかうちに寄りかかって寝息を立ててた。
うちは何時の間にか寝てたアンちゃんが少し可笑しくなった、でも仕事帰りで疲れていたのにうちの所為で無理させてちゃったなって、なんだか
悪い気がして、アンちゃんを起こさないように、そっと体勢を変えてからアンちゃんに枕してあげて毛布を掛け直した、
(うちの為にありがとねアンちゃん?)って声には出せないから心で呟いた。
初めて見るアンちゃんの寝顔、当たり前のように顔を合わせて・・、慕ってきたアンちゃん・・、なのに眼の前に居るアンちゃんの寝顔見てたら、
いつの間にか気持ちのどこか違う感情が入り混じってきて、居たたまれなくなって慌ててカーテンの合い間から覗く空へ眼を逸らしてた。
翌朝、アンちゃんが、突然飛び起きた、うちはアンちゃんの寝起きに驚いて、いっぺんに眠気が覚めてアンちゃんを見たら、
アンちゃんは、
「あれ~あれ俺、寝てた~?あっあれ、ごめんカナ?寝てないんじゃ?あっごめん!」ってまだ眠気から覚めきらないのか
困惑してるようだった、そんなアンちゃんがうちにはどこか笑いを誘って、うちは笑いを堪えるのが精一杯で、アンちゃんに返事ができずに、
首を横に振って応えた、するとアンちゃんは、
「なに~?何がそんなに可笑しんだよ~?」そう言って、首を傾げた。うちはまた可笑しくなって耐えきれず噴き出してしまったら
アンちゃんは、
「何そんなに笑ってるんだよ~!人の顔見て笑う事ないだろ~!」って少し困った顔になったアンちゃん、
「あぁ~ごめん~でも~だってアンちゃんの寝起きが~」って言いかけてうちはまた噴き出してしまった、そんなうちにアンちゃんは
苦笑いしながらも、少し不機嫌になってた、うちは少し悪い気がしてきて、その後訳を話して謝ったら、「からかうなよ~」
って照れ笑いしながら流してくれた。
いつの間にか外は、雪がちらほら舞いはじめて、うちは空を見上げて見た、
頬にあたる雪の冷たさは少しサチへの想いが重なったようで、不安がこみあげてきたら身体の奥までが、冷えた気がして
うちはアンちゃんの腕にしがみついてしまった、するとアンちゃんは少し驚いていたようだけど、うちの顔を覗いて微笑んでくれた。
そしてアンちゃんと、ヒデさんの居る街へと帰って来た・・、
すっかり暮れてしまった街の明かりは、うちの心の奥に遣り切れない想いだけを溢れさせてた、そんな帰り道、通りかかったお店で
アンちゃんが立ち止って、
「ねえカナ~?ヒデさんにお土産でも買っていかないか~?」って言い出して、うちは少し驚いた、でもそれもいいかもなって、思えたから、
「そうね、そうしようっか?」って二人で、ヒデさんへのお土産を買うことにして店に入った、
でもうちはヒデさんの好みなんて気にしたことも無くて、お店に入っても選べないでにいたら、アンちゃんは迷わずに選んでた、
いつもヒデさんの傍にいるのに何も知らなくて、何一つヒデさんのこと見てないのに気づいたら何も選べないまま立ち尽くしてた、
その時アンちゃんに
「カナ~どうかした?」ってふいに聞かれて、動けずにいた自分に焦った、「何でもないよ、ごめんね?」って言うとアンちゃんは、
「ならいいけど、行こうか?」って歩き出した・・。結局うちはヒデさんへのお土産は何時でも普段食べてるものに留まってしまった、
そして辿りついた店で、うちは店の入り口から「ヒデさん~、ただいま~!」って声をかけた、するとヒデさんは、
「おぉ~お帰り~何早いんじゃ~それにどうして二人?何かあった?」ってうちと居るアンちゃんに驚いてた、
「あ、あの~アンちゃんとは行く先で会ってここまで一緒に来てくれたの・・」って言うとアンちゃんが、
「ヒデさんの顔、見たくなったから一緒に来ちゃったんだ~」って言うとヒデさんは、
「あ~そっか~なに嬉しい事言ってくれるね~ゆっくりしてってくれよ!そだ亜紀ちゃん、会えた?」って聞かれて、
「あの~それが会えなくて、だから帰ってきました、せっかくヒデさんに貰ったお休み、無駄になっちゃって・・すみません」
って言うとヒデさんは
「そっか~残念だったな~、でもまあ~会えなかったなら仕方ないさ~でもだからって謝る事ないよ、又機会はあるからさ~、ね亜紀ちゃん?」
って言ってくれて、何気ないヒデさんの言葉はうちの不安を和らげた、でもアンちゃんの家に一晩泊めて貰った事は言えなかった、
そんな時アンちゃんが、
「ヒデさん~?今日泊めてもらえるかな~?」って言い出して、うちは驚いた、(どうしたの?そんなこと何も言ってなかったのに・・)
「アンちゃん?どうしたの~?」って聞いてみた、でもうちを他所にヒデさんは、
「あ~いいよ、大歓迎だよ~何日居たっていいんだからさ~」って笑った、するとアンちゃんは、「それはやり過ぎでしょ~?」
って二人顔を見合わせながら笑い出してた。
そんな二人の冗談も本音も入り混じった尽きない会話は、うちを穏やかな気持ちにさせてくれて、いつしか時の過ぎるのも忘れさせた・・・。
19章 ~想い~
賑やかだった街の行き通う人々の姿は、いつしか減りだして影を潜めたら、街灯の灯りだけが何処か寂しく思えた
そんな街を扉越しから眺めていたら、会えなかったサチを思い出した、不安だらけで先の見えないままの自分に今さらのように
情けなく思えてため息が漏れた。
店に帰って来てからうちは店の手伝いに入った、でもお客さんは早くから減って、今一人の時間を持て余してる・・、
何時になくヒデさんとアンちゃんは尽きることなく話しこんでた、そんな二人を見ていたら、うちにサチを思い出させて、
遣りきれない想いに、またため息が漏れた・・。
店も終わりに近づいた頃に、ヒデさんが「亜紀ちゃん?悪い、店の戸締りだけ頼む?」そう言って二人居間へと入ってしまった。
うちは戸締まりを済ませてふたりの居る居間へ行くとヒデさんが「あ~亜紀ちゃん、ありがと!」そう言いながらヒデさん、
何か考え込んでいるようだった、少し気になって、
「ヒデさん?どうかしたんですか~」って聞くと、ヒデさんは少し戸惑った顔をして、間を置いてから、
「あ~?実はさ~、夕べ遅くに、店に女の人が尋ねて来たんだけどさ~、この店にカナって子が働いてないかって聞かれたんだ、それがさ~?
自分の娘の友達だって言うんだ、それでその娘の名前聞いたらササチっていってたと思うんだけど~?俺は下手なことも言えないから、知らない
って言って帰えしちゃったんだよ~それはいいんだけど、俺、その事すっかり忘れててさ~?今さっき思い出したんだよ、その人が言った友達だって
言う娘の名前?確か亜紀ちゃんが会いに行った友達と、同じ名前じゃなかったかなってさ~?俺、そう聞いた気がして、亜紀ちゃんに聞いてみようか
って今話してた所なんだ・・」って言った、
するとアンちゃんが、
「亜紀~?もういいんじゃないか~?ヒデさんに話しても!亜紀も辛いだろう~?サチのお母さんは多分、お兄さんから聞いて来たんだと思う、
でも何も言わずに帰ったのなら、ただ確かめたかっただけかもしれないね、でももし大事な用ならまた会いに来ると思うよ?、だからさ?、
話して見たらどうかな~ヒデさんに、きっと理解してくれると思うよ?その時は支えてやれるからさ、大丈夫だよ!」
って言ったアンちゃんの話しにヒデさんは、少し驚いたようだった・・、
うちの本当の名前をヒデさんは知らない、うちはまだ言えずにいる、でも「カナ」の名前は捨てたかった、だから言わずに居ようって決めてた・・、
(でももう限界ってこと・・、なのかな・・)
「ヒデさん?あたし、あたしの名前、本当は「カナ」って言います、黙っててごめんなさい、でもあたしこの名前はもう捨てようと思ってました・・
だから言いたくなかった、ごめんなさい!」
「ええっ~?それじゃっカナって、亜紀ちゃんの事なのか?あっそう~?亜紀・・カナ、ちゃん・・、そっか、ま~気にしなくていいよ、何か言えなかった訳が
あったんだろう?俺は気にしてないからさ、けど俺は亜紀ちゃんって呼ばせて貰うけど!それでもいいかな?」
って言いながら苦笑いしてた、
嬉しかった、でもそれだけに苦しくて「ありがとう・・」ってそれしか言えなかった。
するとヒデさんは、
「亜紀ちゃん?名前の事、気にすることないよ、少しは驚きもしたけど俺は気にしてないからさ、名前が違っても俺にとって亜紀ちゃんは
亜紀ちゃんだしな?そう落ち込まないでくれ!な?」
そしたらアンちゃんは、
「ごめんな?亜紀の気持ち考えないでさ?でもヒデさんなら亜紀の事分かってくれる気がしてたから、大丈夫だって思ってさ!ごめんな?」
「アンちゃんが誤ることないよ、あたしの所為で、余計な心配までさせて、本当にごめんなさい」て言うとヒデさんは、
「そう落ち込むなよ?カナの名前、名乗りたくなかった亜紀ちゃんの気持ち、俺なりに亜紀ちゃん見てて分かるからさ?気にしなくていいんだよ、な?
そう言う事だから、これまでどうり俺は亜紀ちゃん、な?」ってヒデさんが言ったら、アンちゃんが、
「それじゃ~ヒデさんの気持ちも汲んで、今までどうり亜紀ちゃんでいっか~?」って言うとヒデさんと頷き合いながらうちの顔を見て笑らってた、
するとアンちゃん、
「そういえば、何だかお腹すかない?ヒデさん何か作ろうよ?手伝うからさ~?」って言いながらお腹を擦ってた・・、
するとヒデさんは、
「あぁ~そういえばそうだな~?亜紀ちゃんも、お腹空いたか~?」って急にふられて思わず勢い付けて「はい」って返事してしまったら、
二人に思いきり笑われてしまった。
翌朝、アンちゃんは
「サチの事何か分かったら知らせに来るからさ?・・」ってそう言って帰って行った。
ヒデさんはいつもと変わらない笑顔で、亜紀ちゃんって呼んでくれた、でも聞きなれてた名前なのに今のうちは少し心苦しいかな・・・。
その日の夕暮れに、前はよく食べに来てくれてたお客さんが、何時になく酔っ払って店に入って来た、
「よう?亜紀ちゃん!こんばんわ?元気してた~?何時見ても亜紀ちゃんは素敵だね~?よう~?ヒデちゃん久しぶり~」
っていいながらテーブルに着いた、
するとヒデさんが、
「おおめずらしいな~?しばらくだけど今日はやけにご機嫌だね~?なんかいい事でもあったの?」って言うとお客さんは、
「そんなんじゃないよ~今日は自棄酒飲んで来たんだよ~、なんか嫌になっちゃってさ~?」ってお客さんは頬杖ついた
ヒデさんは、
「なんだよ~?奥さんと喧嘩でもしたのか~?」って聞いたヒデさんに、お客さんは急に手をテーブルをパンと叩いて「半分当りだ!」
って言ってため息つくとまた、頬杖ついた、
近くで見てたらなんだか可笑しくなって、うちは堪えきれず噴き出してしまった、するとうちの笑いに気づいたのかお客さんが・・、
「笑っていいよ、情けないってさ~、聞いてくれよヒデちゃん~、あいつ出て行っちゃったんだよ~」って言うとテーブルに突っ伏してしまった、
うちは笑ったのが聞かれたのかって驚いてたら、ヒデさんは、
「何があったか知らないけど、早いうち謝ったほうがいいんじゃないのか~?後悔してるんだろ~?」って言うとお客さんは、
「まあ~そうなんだけど、でもなんか俺から謝るのちょっと悔しくてさ~?って言うか引っ込みがな~」ってうつむいてしまった、
するとヒデさん、
「けどもしかしたら奥さん、待ってるのかもしれないぞ~?向こうも同じ気持ちで居るんじゃないかな~?引っ込みがつかなくてさ?もし後悔して
るんなら行ってやんなよ奥さんとこにさ~男のあんたから・・な?」って言うと、沈んだ顔して頷きながらお客さんは、
ヒデさんの言葉に気を持ち直したのか、
「そうかな~?そうかもしれんな~?ヒデちゃんありがと、少し元気出たよ悪いな~?ごちそうさん!亜紀ちゃん~?また来るね?」
って手を振って帰って行った、その後店を閉める頃にヒデさんは、
「亜紀ちゃんお疲れさん!疲れたろ~?あの酔っ払って来たお客さんな~?いつもはあんなに喋らないんだよ?今日は酒が入ってたからかな~
よっぽど奥さんのこと・・、ま~いっか!」って言って苦笑いしてた、
そんなヒデさんをうちは今までと違った一面を見た気がした・・、ヒデさんの善さはうちよりもお客の方がよく知っているのかもって思う・・。
なにも言わなくても、聞かなくても、分かってくれる、そんな存在なのかなって、今うちは思う、
そんな時ヒデさんが、
「亜紀ちゃん?どうした~?なにか気になる事でもあるのか~?」って聞いた、唐突に聞かれて、
「えっい、いえなにも?何でもないです」って言うとヒデさん
「俺のことでも考えてた~?」ってなんかにこにこしながら聞かれた、顔が赤くなるのが嫌で思わず「違いますよ~!」って叫んでしまったら、
ヒデさんは噴き出して、笑いながらうちの頭を撫でて「そっか、わかった」ってそれだけ言うとうちを抱きしめた・・、
(うちの心の中が見えてるの?ヒデさん・・・)って思った・・・。
それから二週間が過ぎて、店を開け始めた朝に、
「おはよう~亜紀ちゃん、ヒデさん!」そう言ってアンちゃんが顔を見せた、
「あっおはよう~」ってうちが言うとヒデさんが、「お~おはよう!なに随分早いな~何かあったのか?」て言うと、
アンちゃんは、
「ああ~亜紀ちゃんに早く知らせた方がいいと思ってね?サチに会えたんだ、それで亜紀に早く知らせようと思ってさ?サチさ~まだあの職場で
頑張ってたよ!亜紀が会いたがってるって言ったら自分も会いたいんだって言ってっさ~、二人でよく行った公園にいつでも行ってるから
ってさ?公園って言えば分かるはずだからって言ってたんだけど、亜紀ちゃん行けるかな?」って言った、
こんなにも早く知らせに来てくれるなんて思いもしなかった、きっとアンちゃんは、うちの為に無理してくれたんだって思う、
そんなアンちゃんの優しさが嬉しくて言葉に詰まってた、するとヒデさんが、
「行ってきなよ亜紀ちゃん?やっと逢えるんだからさ~?な?」って笑って見せた、
やっとサチに逢えるんだ、そう思ったら、嬉しいはずなのに涙が溢れてた、でも悲しい訳じゃないから、慌てて涙を吹いて
「ヒデさん、あの~ありがとうございます・・、アンちゃんありがと?凄く嬉しい、ほんとにありがとう~」って頭を下げたら、アンちゃんは、
「亜紀ちゃん今度こそ会えるな?よかったな?」ってうちの頭を撫でるとアンちゃんはヒデさんに向き直って
「忙しい時にすみませんヒデさん?早く伝えたかっただけだから、それじゃ俺はこれで?それじゃ~ヒデさんまた今度?」
そう言って呆気なく帰ってしまった。
それから三日後、うちはサチに逢いにと店を出た、今度はもう迷ったりしない・・。
20章 ~絆~
いつしか寒さも和らいできたら、路面の隅に僅かに寄り固まった雪は、吹きぬけてく春の風に寒い冬を
名残惜しんでいるかのように今もゆっくりと融けだして道行く通り一面を濡らしてた・・。
うちは朝の電車に飛び乗って、サチの住む町に辿りついた、サチの言っていた公園・・、
二人で見つけた、長い椅子がポツンと置いてあるだけの何もなかった、あの公園だってうちは思う・・・。
そしてやっと見つけて辿りついた公園、でもサチはまだ来ていなかった、それでも待つことにして長椅子に腰かけた、
懐かしい思い出がいくつも蘇えってきたら、時間の経つのも忘れて思い出を巡らせてた・・、でも、ふと空を見上げてみたら、
いつの間にか陽の日差しも沈みかけて、うちは少し不安になった、もしこのままサチに逢えなかったらって、そう思った、
でもその時、背中越しから懐かしい声が聞こえて来て、振り向くと、サチが駆けて来るのが見えた、うちは思わず
「サチ~よかった!逢えた~!サチ~?」ってうちも駆けだしてサチに飛びついた、するとサチは、
「カナ~あたしも逢えてうれしい?それに元気そうだし心配だったんだ~でも好かった、カナが出て行ってから色々あったから・・」
って言いかけて涙ぐんでた、
うちは変わらずに居てくれたサチの気持ちが嬉しかった、そしてその分だけサチを苦しめてたことが苦しくて胸が痛くなって・・・、
「サチごめんね?あたし黙って出て行った事後悔してた、サチに謝りたいってずうっと思ってたの、本当にごめんね?あたし臆病で、
お兄ちゃんを見たら居られなくなって、サチには迷惑かけたままで、ほんとにごめんサチ!」って言ったらサチは
「あたし迷惑だなんて思ってないよ!確かに居なくなった時はショックで悲しかったけど、カナの事一番の親友だって思ってるから、
気にしてない!これでもカナの事は、誰より知ってるんだから~でしょカナ?」そう言って笑って見せた、
うちは頷くしかできなかった、サチが言ってくれた「親友」って言葉が何より嬉しくて涙が止まらなくてサチに抱きついた、
そしたらやっと言えた「ありがとう」って・・。
それからサチの居る寮へこっそりと入れてもらった、ほんとは少し気が引けたけど、サチに押し切られて、行くあては無いから・・・、
でも部屋に入って見ると、サチの画いた絵が部屋のあちこちに張り付けてあった、
「サチ~何?すご~い、これみんなサチが画いた絵?うわ~」ってうちは部屋を隅から見渡して見惚れてしまってたら、
サチが少し照れたように
「一人の部屋は寂しいから、でもこうしていくと少し気持ちもまぎれるからね!」そう言って笑って見せた。
その絵の中にはうちの似顔絵まであって、サチの想いにうちは胸が締め付けられた、するとサチが
「カナ~あたしね?絵専門に働ける仕事に着けるかもしれなの、お父さんが認めてくれて、だからわたし、それまでは、此処で頑張ろうって
思ってるの、カナは喜んでくれる?」って言った、
「当然でしょう?こんな嬉しい話ないじゃない~サチ良かったね!頑張って~あたしも応援するから、でもサチならきっと出来る、
あたしが保証しちゃう!ね?」って言ったらサチは笑顔になって「ありがとう、カナ?」ってサチの顔は嬉しそうだった。
うちはふとサチのお母さんのこと思い出して、思い切って聞いてみることにした、
「あっあのね~サチ?ちょっと聞きたい事があるの、いいかな~?」って言うとちょっと驚いた顔して
「えっなに?どうしたの改まって~」って急に真面目な顔してうちを見た、ちょっとたじろいでしまったけど、
「あ~うん、確か、二週間前になると思うんだけど、サチのお母さんがあたしが働く店に、あたしを尋ねて来たらしいんだけど~、
サチ何か聞いてるかなって・・・」って聞くとサチは
「えっ本当~?わたしは知らない、聞いてないよ!」そう言ってからサチは、何だか急に考え込んでしまった、
うちはなんか余計な不安を持たせたような気がして・・、
「ああ~サチ?ごめんね?気にさせたみたいで、ほんとごめん!」言ってしまった事、うちは後悔してた・・、
すると黙り込んでたサチが、
「カナ!あのね?最近になってお母さんが話してくれた事があるのカナのお母さんの事、今カナの話しでちょっと思い出したんだけど
カナのお母さんとわたしのお母さん幼馴染だったんだって!詳しくは聞けなかったんだけどもしかしてそれと関係あるのかな?・・」
驚きだった、思いもしなかったうちのお母さんの事聞かされるなんて、お兄ちゃんにも話して貰えなかったお母さんのこと、
うちはお母さんの顔も覚えてない所為か深く考える事を止めてたように思う。
その時サチが、
「ねえ~カナ~?わたしのお母さんに逢ってみる?」って言いだした、「ええっ!逢えるの?だってあたしが逢いに行っていいのかな?」
って言ったらサチは、
「何言ってるのカナ?気になるでしょう?わたしもちょっと気になるし、ねえ行こう?ね!あっその前にカナの今居るお店、行きたいな?
ね?連れてってくれる?わたしもカナの居場所知りたいから、いいでしょう?ね~カナ~?」
サチの一方的な誘いにうちは押し切られて、何も言い返せず、サチの言う事に従う事が決まった。(サチにはかなわないな~もう)
そう想いながらも口には出せなかったけど・・。
うちは一晩サチの寮に泊めてもらう事になって、サチはお休みを貰うことが決まった・・、
なんて成り行きなのか、うちはヒデさんの店に帰ることになった(ヒデさん、どんな顔するかな?何て言うかな?)
うちは複雑な気持ちのまま、サチと店へ帰って来た、
「ヒデさんただいま~友達も一緒に・・」ってうちが言いかけた時、サチが
「はじめまして~わたしカナの友達のサチって言います、よろしく!」って言って頭を下げてた、するとヒデさんは驚いた顔で、
「ああ~いらっしゃい!さっちゃんて君が~そっか~?そっか、よく来たね~どうぞ?」って言った、
ヒデさんがサチのことさっちゃんて呼ぶなんて想像もしてなっかった所為か、それがうちには可笑しくて思わず吹き出してしまった、
するとヒデさんが、
「亜紀ちゃん?何が可笑しんだ~?俺なんか可笑しなこと言ったか~?」って聞かれて、なんだかヒデさんに悪い気がしてきて、
「あ~ごめんなさい、何でもないの、気にしないで、ね?」って言うとサチが
「えっと~亜紀って?あの~カナの事?」って聞かれてうちはまだサチに名前の事、話してなかったことに気づいて、
「あ~とりあえず部屋へ行こう~、ねサチ?」って言うとサチは「え~あ~それじゃ~お邪魔します!」って言って部屋へと入った
部屋に腰をおろしてからうちは今までの経緯をサチに打ち明けた、サチは
「そうなんだ~でも好かったね?いい人に出会えて、カナの事、大事に思ってくれてるんだね?今のカナ見ててそう思う、それに
カナ生き生きしてるなって、それはきっとここに来たおかげだね?昔のカナはどこか無理してたから、だからわたしカナには、
無理はしてほしくないなって思ってたの、でも今のカナ見たら安心しちゃった?わたし無理言ってここに来たけど、来て良かったな?
だってカナに居場所できたの見せてもらったしね?ごめんね?無理言っちゃって!」
サチはいつだってうちに優しかった、だから嫌な事も辛い事も忘れる事できた「ありがとうサチ」うちはそれ以上の言葉は見つからなくて、
ただ笑顔で返した・・。
そんな時、ヒデさんが差し入れだって言って、スパゲィーを作って持って来てくれた、サチは、
「そういえばお腹空いてたんだ~!どうもありがとう!嬉しい~」そう言ってサチは見事なまでに綺麗に食べてしまった、
そんなサチにヒデさんは、呆気にとられた顔で、それでも嬉しそうに「いや~嬉しいな~美味かったか~?」って聞かれて、サチは
「はいとっても!ごちそうさまでした~」って言うとヒデさんは嬉しそうに、「そっか!」って言って店へ戻ってしまった。
その夜、ヒデさんは早めの店じまいを済ませてくれて、居間に三人で顔を合わせた、ヒデさんは、サチの顔を見ると、
「さっちゃん、今日は泊まっていけるんだろ~?部屋好きに使っていいからさ?ゆっくりしてってくれよ、な?久しぶりだろうしさ!」
そう言われてサチは、
「突然押し掛けて来たのに色々してもらってすみません・・」って頭をさげた、するとヒデさん、
「いや~気にしなくていいよ!俺はにぎやかな方が好きだからさ!」って笑ってた、するとサチは、
「あの~ヒデさん?カナの事、これからも宜しくお願いします、カナすぐ無理しちゃうから、わたしがこんな事言うのも変だけど、カナって
自分の事かえりみないとこあるの、だからお願いします!」って言いだした、
うちはだんだん顔が熱くなって、
「サチったら、やめてよ?もうなに言い出してるのよ~?」って言ったらヒデさんは、少し笑みを浮かべながら、
「ああ~心配しなくても大丈夫だよ?俺がついてるからさ!ああ~そうだ、君のお母さん、だよね~?俺の店に尋ねて来たんだけど~その事は、
もう亜紀ちゃんから聞いてるかな?」って聞いた、サチは、少し戸惑った表情で、
「あ~はい!カナから聞きました、わたし知らなくて正直驚いてます、お母さん、此処へへ何しに来たのかわたしもちょっと気になってて・・、
それで、思ったんですけど、あの~直接お母さんに逢って聞いた方いいかなって、カナとも話してたんですけど・・」って言った
するとヒデさんは、
「そうだな~?その方がいいかもしれないな~?でもさっちゃん、仕事の方は大丈夫なのか?」って聞いた、でもサチはなんだか嬉しそうに、
「はい、わたしは大丈夫です!もうお休みは取って来ましたから、でもカナ、お借りして行きますけど・・・」って言った、
ヒデさんはサチの笑顔に苦笑いしながら、「ああ~それは構わないよ!店のことは、心配しなくていいからさ」
そんなふたりの話から、うちを他所に決ってしまった、サチのお母さんに逢いに行く話し・・・、(うちのことなのにな~)
そう思いながらも口に出す事もなく行くことで決まってしまった。
~時の足跡~ 16章~20章