既読無視
「もしもし」金色の富士山の様な頭をし、ピンクのセーターからグレーのチェックのスカートをのぞかせた少女が言う。手に持たれた薄緑の受話器からは白い蛇の様にとぐろを巻く回線が電話機に伸びる。
「・・・・」返事はない。
しばらくして、留守番電話センターを名乗る女性がメッセージを求める。エレキトリックな声に、彼女はセクシーさを感じていた。
「どうして返事くれないの。聞いたでしょ、さっきの留守番電話。もう10分もたってるよ。返事ちょうだいよ」彼女はメッセージを残す。
受話器を置くと、また別の人物へ電話をかける。一人と会話をしながらも、途中で横から電話が入ると器用に話をまとめ、かかって来た電話に対応する。
古風なお弁当箱のように黒くツヤのある長髪の少女のもとには数十件の留守番電話が溜まっていた。もうすでに10数件は聞いたのだが、全てに返事をしたわけではなかった。全て再生したところでどうせ殆どは同一人物によるものだ。中には複数人(悪質な場合数十人)で会話している所で受話器を放置したものまである。それでも何かしらの返答をしなければ、向こう側の人間は満足しない。
「残されたメッセージは、24件、です」生気の無い女性の声が受話器から流れる。
「今日までの宿題何」無愛想な声が耳に伝わる。
「ない」少女は一言そう言い、電話を切る。受話器を置かずに、次の留守番電話を再生する『2』のボタンを押す。
「次のメッセージを再生します」本当、誰が機械の声を好むのだろう。
「今日のデート楽しかったー」無駄に可愛娘ぶった甲高い声が耳に刺さる。
「どこいったの」「横浜ー!」「何したの!?」「ショッピングだよー!」複数人の声が次々聞こえる。声が被って聞こえない所すらある。
少女は無理に楽しそうなテンションを作る。
「羨ましいー」そう言うとまた、『2』を押す。
「次のメッセージを再生します」いい加減うざったい。
「昨日はありがとうね!また遊ぼう!」ハスキーな声が言う。
「いいね!」投げつける。『2』を押す。
それからしばらく、工場員の様にこの作業を繰り返した。流れてくるパン一つ一つにジャムを塗る。そんな気分だった。
遂に留守番ロボットレディーは残りのパンは1つだと告げた。
「どうして返事くれないの。聞いたでしょ、さっきの留守番電話。もう10分もたってるよ。返事ちょうだいよ」
またこいつだ、と少女は呆れる。一体こいつは何回同じような電話をかけてきたのか。もう覚えていないが、すでに返事は返したので無視をする。
少女はやっと、電話をおいた。
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