冷たい夜

至極冷たい夜だった。喉を通る空気が肺を刺すような冷たい夜だった。午前三時頃、ベランダの窓ガラス越しに空を見上げた。

今日は十年で一番ふたご座流星群が綺麗に見える日だと聞いて、私はなんだか眠れなくなってしまったのだった。
温かいココアを注いだマグを両の手で包みながら流れる時間に身を任せる。ソファに膝を立て背もたれに体重を預けて座るのはいつもの二倍心地が良かった。
いくら綺麗に見えると言っても私の住んでいるマンションは一応都会に建っている。いくら駅から遠くとも、夜でも空は明るいのだ。
まだ見ぬ流れ星に想いを馳せながら少し甘すぎたココアをすする。
一人暮らしの部屋で一人で流星群を眺めることを楽しみにしている瞬間というのは、まだ若い私にとってとても美しく儚い瞬間のように思えたのだった。
ネットでたまたま見た記事が教えてくれた冬のふたご座流星群。それは、午前三時頃にピークを迎えるようだった。
月も三日月の頃を迎え、月明かりの少ない状況下では星がたくさん見える。そんなような説明がサイトには記載されていた。
今の私は流れ星を見て何をお願いするんだろうか、マグを支える指先が温まっていくのを感じる。

部屋の壁に掛かっている時計の短針が徐々に3に近づいていくのを見ると、マグをテーブルに置いてソファから腰を上げる。
ベランダの窓ガラスを開けると冷たい空気が頬を刺し、首筋を撫でて背後に消えていった。
裸足の足をサンダルに乗せて、ベランダに立つ。思わず両の手に息を吐く。予想以上の気温に瞬きを繰り返した。
そっと夜空を見上げると、星の姿はなかった。
やっぱり見えないかな、と少し肩を落とす。
所々雲が掛かっている夜空は普段より少し暗く、そこに月は見当たらなかった。
ポケットから眼鏡を取り出し、掛けて目を凝らす。
見つけた。
真正面の空に小さく光を放つ星だった。
きらきらと輝く小さな星と目が合ったように、私はその一点の光から目が離せなくなった。
遠くに聞こえるエンジンの音、どこかの家の水道から雫が垂れる音、冷たい冬の風の音、私は耳をそばだてながらいつまでもその星を眺めていた。

冷たい夜は次第に私の身体を包んでいった。

冷たい夜

軽率に唐突に1000文字に満たない文を書きました

冷たい夜

流れ星は儚くてうつくしい

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-15

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