Parallel Mail【27】

もし「もし」が叶うなら、あなたは何を願いますか?

そんな力を手にした一話完結の物語です。

『もし』あの時ああなっていれば
『もし』あの時こうなってなければ
人は何度も後悔する生き物です
でも、もしどれか一つしか叶わなければあなたはどれを選ぶのでしょうか?


【プロローグ・―8日目】
人の命が平等、だなんて言われ続けて生きてきた。テレビも映画も漫画もネットも、みんな口々にそういう。でも幼心のうちから私はそんなことはない、と思っていた。
ちなみにこういうことを書き込むと多くの人が「何お前偉そうなこと言ってるんだ」的な返事をする。違うんだよ、私が言いたいのはただ一言。
「私の命なんて、他の人程重くなんてない」ということだ。


「・・・まった美琴はそんなこと考えているのか。」
覗き込んだパソコンを見て一樹にぃはそう呟いた。鬱陶しい。
「何勝手に見てんのバカ!乙女の日記を除き見るなんて。」
上半身の力だけで彼を払いのける。乙女ってキャラか?、と嫌味を言いながら、渋々ベットの隣の丸椅子に腰掛けた。
彼は私の母方のいとこ、幸条一樹(ゆきじょうかずき)。私よりも3つ年上だから今は確か・・・
「一樹にぃ、大学は行かなくていいの?」
平日の昼間っからいとこの見舞いに来ている大学生なんて、不真面目な。
「今日は自主休業ってやつだよ。それよりこれお前ができなくなる前に進めさせろ。」
取り出した携帯ゲーム機で私の頭をパンパンする。
「おい、言葉を訂正せよ。」
「おう、悪かった。『お前がくたばる前に』だな。」
デリカシーの欠片もない。余命幾ばくしかない女子高生、亜代美琴(あしろみこと)ちゃんに向かって。

特別な病気でも何でもない。肝臓がん。体の臓器の中でも一二を争う働き者にがんが見つかった。しかも抗がん剤や放射線治療もあまり効果がなく、残ったのは肝臓移植という手段だった。といっても移植もなかなか無理ゲーだ。HLAという移植で大事になる印(生物の授業でやった記憶があるが全く覚えてない)は影響ないが、ドナーが見つかりづらい臓器の一つらしい。そんな説明を泣きながら聞くお父さんとお母さんをよそに、私は思っていた。

「『私の命はやっぱり価値がないんだ』とか思ってたのか?」
昔から一樹にぃにはなんでも話しちゃう。だからまた共闘クエストをしながら全てを吐き出してしまった。
「うーん、そうね、そうそう―あぁ~あ。」
生返事を返したと同時にクエスト失敗の文字が画面に浮かんだ。とりあえず休憩だ。備え付けのテレビの電源をつける。昼のドラマの再放送がやっている。窓際刑事二人が事件を解決する長者番組だ。
「なんかねぇ、このドラマと一緒なの。私の命がなくなることもフィクションのようにしか思えないだよね。」
何か言いたそうに私を見ていたが、それを無視するようにザッピングをした。不意に手が止まったのは、高速のトンネル陥没事故のニュースだった。画面端には12:30の表示が。私は無意識にベット横の引き出しから冊子を取り出した。
『・・・なお、現在確認されている限り天井が落ちた恭龍トンネルには大型観光バス8台ほど含まれており、乗客乗員の安否が気遣われます。』
「ん?なんだ、その本。」
私が持っていたのは『修学旅行のしおり』。12:20分、恭龍ICで休憩とプリントしてあった。


【プロローグ・―1日目前半】
嫌な予想というものは大抵当たる。今回もそう。私の同級生たちはひとり残らずトンネルに生き埋めになった。夜通し行われる救助作業、学校の記者会見、学校関係者へのアンケート、そして葬式。一瞬のうちに過ぎていく光景をまるで興味がないドラマを観るようにただただ眺めているだけだった。
「おい、美琴。ちゃんと集中しろよ。」
あれから一週間たったが、相変わらず一樹にぃは時間を見つけてはゲームをしに来ていた。相変わらずダメ男だな。私はベットに広げられているマグネット将棋盤を片付ける。どうせもう私の勝ちで詰んでいる。
「あのねぇ、同級生がなくなって傷心中の女子高生に何か言うことないの?」
「・・・胸小さくな―いって!」
セクハラ発言を将棋盤で遮ってやった。ほんとデリカシーの欠片もない。
「傷心っていうか、後悔だろ?」
あぁ、相変わらず気品もなくてゲームも弱いくせに、こういうことは鋭い。半分だけ正解だ。
「なんの?」
「『なんで価値が無い自分が生き残っているのか』とかじゃね?」
お見舞いのお菓子を勝手に開けて頬張り始めた。うまい、とか呟いている。今までしたことのない程の後悔。別に自分が何かできたわけじゃない。でも同級生の、明日花の顔が頭の中をぐるぐる回っていた。
明日花はクラスのマドンナ的存在で、クラスの端でいつもゲームマガジンを読んでいた私に「ぽよぽよみたいな簡単なパズルゲーム教えて」って話しかけてくれた。正直彼女が誰かに嫌われているところを見たことがない。頭もよくて「私医者になって美琴ちゃんの病気治すからそれまで頑張ってね」なんて18歳の女子が真顔で言っていた。そんな子が、私と比べるまでもなく生きなくちゃいけない子が命を落としたんだ。

そしてもうひとつの悩みがこのメールだ。『Parallel mail』、そう件名に書かれたメールが今朝届いていた。

『もし』あの時ああしていれば・・・
『もし』あの時こうしなければ・・・
そんな願い、叶えて見ませんか?

そんなあなたに三日間だけのチャンス!
ルールは三つ。
一つ、このメールにあなたが変えたい『もし』を返信してください。
曖昧でも構いませんが、文章通りの結果になりますので正確に書くことをお勧めします。期限は本日いっぱいです。
二つ、『もし』の世界を体験できるのはメール送信を行った次の日からの三日間。三日目の夜に継続するか否かの確認メールをお送りします。継続を希望しますとそのままその世界に、希望しないと元の世界に戻ります。
三つ、新しい世界でこれらの事実を伝えられる人間は一人だけ。それを破ればペナルティを与えます。
以上が必要最低限のルールとなります。その他に関しては質問を受け付けておりませんのでご了承ください。
Presented by Parallel Mail

信じられない。でもネットで調べたらたくさんの掲示板が上がっていた。中には眉唾ものもあったけど、『本当にされたナンパ』の中にこんな書き込みがあった。
『うち夜中の公園で星見てたらいきなり「違う世界から来た」とかナンパされたwww』
この男(しかも現彼氏らしい)は「メールを送って違う世界に行っていた」と言っていたらしい。
「・・・アホくさ。」
「ん?俺の『きのこたけのこ大戦争~ポテト山の戦い~』のどこがアホくさいんだ。」
いつの間にかベットのテーブルの上にお菓子を広げて携帯で写真を撮っている。っていうか戦争なのに合戦みたいな名前だな。仲介国の私がとりあえず両者成敗で鷲掴んで食べた。
「もし、自分の命と400人の命どちらかを救えるとしたらどうする?」
いきなりの質問に頭をひねる一樹にぃ。
「新しいラノベの設定?」
なんでもない、と呟いた。別に答えを聞きたかったわけじゃない。なんとなく口に出てしまっただけだ。でも真剣に考えてくれた。う~ん、そうだな。そう言ってから顔を上げて私を見る。
「わかんねぇ。」
・・・なんて顔でなんて無責任な言葉を・・・。多分今の私はひどい顔をしている。
「なにそれひどい。」
「ひどくねぇ。」
両手を掲げて天秤を作る。片方にはきのこ、片方にはたけのこの箱を乗っける。
「例えばこいつらは同じチョコ菓子としてたけのこの方が人気だよな。」
そう言ってたけのこときのこをテーブルに開けた。
「でも俺はどっちも好きだ。だからいつもセットで買って混ぜて食べるんだよ。」
目の前にできたのはごちゃまぜの茶色い山。チョコの匂いが部屋に充満する。
「だけどこれだと2個買わなくちゃいけないからそれなりにリスクもかかる。そもそも天秤は違う者同士を比べるもんだろ。」
また掲げた手には片方に2個の箱、もう片方にポケットから出した財布。
「もちろん全部を救えるわけじゃない。それ相応のリスクもある。でも400人も救う、自分も助かる。そんな選択肢を探してもいいんじゃないかって。」


【プロローグ・―1日目後半】
夜勤バイトに向けて帰ってしまった一樹にぃの言葉を、何度も何度も反芻していた。
病気の自分を救う、そして同級生も救う。そんな魔法の言葉を思いつかなくてはいけなくてひたすらルーズリーフにメモを書き連ねた。
例えば『もし私が病気にならなくて、恭龍トンネルの事故がなかったら』って書いたら?これだと二つの願いだ。じゃあ「もし私が病気にならずに修学旅行にいったら」ってかいたら?いや、メールの文章を読む限りこれは「パラレルワールド」、もしの世界の『今日』に行くはずだ。これだと私は明日花たちとしんでしまう。
「そんな都合のいい答えなんてないよ・・・。」
既に外は暗くなっている。メールは今日中に返さなくちゃいけない。時計を見ると既に夜の十一時を回っている。命の価値・・・か。
「明日花に聞いたらなんて言うんだろうな・・・。」そういえば親友だと思っていた明日花に私は何一つ自分の考えを話せなかった。
「・・・違うモノをかけるのが天秤の役割・・・か。」
今度は一樹にぃの違う言葉を思い出した。私が比べていたのは命と命。でも、いまは残された時間を明日花と話したい。時計の長針が天に登るにつれてそう思い始めてきた。気がつくと私はメールを送信していた。


【1日目】
命の価値はみんな違う。だから私は自分より価値があるものを選んだ。しかも400人もだ。うん、私超英雄。
「・・・っちゃん。」
なんだよぉ、私はあと余命いくばくしかないなだよ。寝させてくれよ。
「美琴ちゃん!!!」
はっと目を覚ます。いつもの病室・・・じゃなくて、なにやら機械ばかりの狭い部屋に横たわっていた。
「美琴ちゃん・・・」
ベッドの隣りには明日花が立って覗き込んでいた。久しぶりだね相変わらずかわいいね。
「よかった・・よかった・・・」
泣きながら私の手を握る。
・・・そうか、なぜだか知らないがこっちの世界の自分はやばかったらしい。でも嬉しかった。私なんかの命より、明日花の命を救えたのだから。わたしゃもう、満足だよ。
そんな感動的なシーンを遮るように、あのアホ面―もとい、一樹にぃがひょっこり顔を出した。
「おう病人、元気か?」
そんな不謹慎な一樹にぃのセリフに、怖い顔して明日花が振り返る。やめい、不謹慎な。
「そうですお兄さん!!!もう美琴ちゃんは『治るんです』からやめてください!!!」
そうそう、私は治ってまた明日花と一緒に学校に・・・
「ふぇ?」
治る?誰が?いつ?どこで?なんで???????
「・・・治るって・・・何?」
私の発言に二人がそろって変な顔でみる。
「お前・・・何言ってるんだ?」
「美琴ちゃん・・・何言ってるの?」
・・・そうだよね、ただの空耳だよね。なんだよ畜生。希望持たせるなよ。
「移植したんだから治るにきまってるだろ?よかったな、ドナーが見つかって。」
・・・どやら私の命はやっぱり軽いらしい。400人の命とついでに私の命も救われるんだから。

Parallel Mail【27】

読んでいただきありがとうございます。
Parallel Mailの3話目、いかがだったでしょうか。
今回はメールを送る前に悩んでもらいました。

まだまだ書きたい物語はたくさんあります。
一人でも楽しみに待っていていただければ本当に幸いです。

Parallel Mail【27】

「もし」を叶えれるParallel Mailを受け取った主人公がどちらかを選択する物語。 ※題名横の数字は話数ではありません。一話完結なので気軽に見てください。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-14

Copyrighted
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