赤子

赤子

痛いという感情以外は何もないのに、不思議とね、冷静な自分がどこかにいるの。離人なのかな、精神が分裂しているのかな。そればかりはわからないけどね。

主人は言ったの「子供なんて欲しくない。きっと僕は愛せないから。」だから私はこう言ったの「私を捨てていいから、子供が欲しい。」と、今思えばそれは狂気に満ちた発言だと思う。以前それについて彼は何度となく私と揉めた。でも、彼はあっさり承諾した。そして「子供は愛せないけど、君だけは愛するよ。」と

とても歪んでて、とても家族とは言えないだろうなと思う…私のエゴで、今から産まれる子供はきっと歪んでしまうだろう。

お腹に今までにない衝撃が走る。激痛のまれた後にストンと痛みは減る
「元気な男の子ですよ」と看護師は言う。ああ、ついに今から、私のエゴから産まれた生活が始まる。

「お父さん抱っこしてあげて下さい」主人を見やると手が震え、真っ青な顔をして、どこか覚悟を決めた顔でまだ名も無き赤子を抱っこした。
「お父さん」という響きが嫌だったのか「お父さんになれない自分を責めてるのか」とかふと考えてしまうほど、彼はニコリとも笑わずに無表情で見つめてた。

「お母さんも抱っこして下さい」看護師は何か空気のよううな…彼への違和感を感じたのか私に受け渡した。私は決して悪気が有った訳じゃない。彼を皮肉るつもりもない。ただ、心の底から出た言葉を発した

「産まれてくれてありがとう」

赤子は笑った気がする。私はハッとして主人を見やった。彼は泣いていた。男泣きともなんとも取れない泣き方。

「ごめん…あとはゆっくりしてて」

彼は私の頭を撫でて分娩室を出て行った。

赤子

赤子

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-14

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