激突!となりの晩ごはん
「じゃ、行ってくるよ」
「あなた、ちょっと待って」
「えっ、何だい?」
「ねえ、今日の晩ごはん、何がいい?」
「何でもいいよ」
「もう!何でもいいは、ダメ!」
「うーん、じゃあ、焼き肉かな」
「何言ってんの!給料日前なのよ」
「ええーっ、それじゃ、アジの開きでいいよ」
「ちょっとー、やめてよ。焼いた後、グリルを洗うの大変なのよ」
「じゃ、刺身でいいよ。最初から切ってるやつで」
「あなた、まさか忘れたの?マサルちゃんは生魚が食べられないでしょ」
「ああ、もう、じゃあ、じゃあ、カレーでいいよ」
「ダメよ。一昨日食べたばっかりじゃない」
「もう、何でもいいよ」
「だから、何でもいいは、ダメ!」
「おいおい、いいかげんにしてくれよ。そろそろ行かないと、遅刻するよ」
「わかってるわよ。何かヒントだけでもちょうだいよ」
「ヒントって、クイズじゃあるまいし。適当でいいよ」
「もう、何よ、その態度!毎日毎日献立を考えるのがどんなに大変か、あなたにわかる?」
「こっちだって、毎日毎日仕事してるんだ!おまえにその大変さがわかるのか?」
「あーら、何よ。そっちは休みの日があるじゃない。主婦には365日休みがないのよ!」
「ほう。昼ドラ見ながら、ポリポリ菓子を食うのは、休みじゃないのか?」
「言ったわね。あなただって、付き合いだからって、毎週飲みに行ってるじゃない。その金額を考えたら、あたしのお菓子代なんて、微々たるものよ」
「おれは今、金額の多寡を言ってるんじゃない。激務をこなしているおれの休息と、おまえの『亭主元気で留守がいい』みたいな状態を一緒にしないでくれ」
「ふん、さも自分が仕事ができるみたいに。それだけ優秀なら、来年あたり、ご昇進あそばされるのかしら」
「何だと。言っていいことと、悪いことがあるぞ!」
「その言葉、そっくりそのまま、お返しするわ」
「もういい!勝手にしろ!」
「もちろん、勝手にするわよ。でも」
「でも、何だよ」
「晩ごはん思いついたら、メールしてね」
「…」
(おわり)
激突!となりの晩ごはん