うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(6)
六 おしっこ王子が昼寝をする
「こら。誰だ、居眠りをしているのは」
先生の声が教室中に響き渡る。
僕は目が覚めた。慌てて教科書とノートを開き、鉛筆を持つ。
「スー。スー。スー」まだ、誰かのいびきが聞こえる。それもすぐ側だ。周りを見渡す。だけど、反対に、周りのみんなが僕の方を見ている。いびきの犯人は誰だ。僕は目玉を斜め下方向に動かす。胸ポケットが少しこんもりとしている。王子だ。隙間から覗くと、王子がハンモックに寝転がっているように、大の字になって眠っている。
まずい。みんなに王子の寝息が聞こえている。王子を起こさないといけない。僕はわざと鉛筆を床に落として、拾うふりをしながら、胸ポケットを揺さぶった。王子の目が開いた。手を伸ばし、大きなあくびをしそうになった。やばい。ばれる。
「あーああ。よく寝た。そろそろ三時のおやつかな」王子が何気なくしゃべったその時、授業の終わりのベルが鳴った。王子の声はベルにかき消され、周囲の友達には聞こえなかった。
「起立。礼」僕は急いでトイレに駆け込んだ。
「もうちょっとで、みんなに気付かれるところだったじゃないか」僕は王子に向かって文句を言う。
「ごめん。ごめん。いつもの習慣なんだ」
「いつもの習慣?」
「そうさ。君が給食を食べた後、僕たちは栄養素を吸収するために一生懸命消化活動に励むんだ。その後、君がおやつを食べるまでの間、仮眠をするんだ」
「へえ、いいな。僕も給食を食べた後、昼寝がしたいなあ」
「それは、一生懸命仕事をしたものの特権だよ。食べ物の栄養素を吸収するのが僕たちの仕事で、勉強をするのが君の仕事だ。お互い役割分担だ」
「それはそうだけどね」王子の言うことに頷く僕。
「だけど、もう大丈夫。目が覚めたから、君がちゃんと勉強しているかどうか見張っているよ」
「これはやられたなあ」
この後の授業は、王子の監視の下、僕は授業に集中した。午後からの授業が全て終了した。僕がランドセルを背負う。 幸一君が近づいてきた。
「一緒に帰ろうよ」
「いいよ」
帰る途中、朝の続きで、テレビのアニメの話しで盛り上がる。
「うんこ大王とおしっこ王子の方が面白いぞ」
突然、王子が僕たちの話に割って入ってきた。
「何、それ。新しいアニメか?」
幸一君が尋ねてきた。僕がしゃべったと思っている。慌てる僕。
「ううん。ちょっとね。童話だよ」
「童話か。名前がすごいね。うんことおしっこの話か」。
「まあ、そんなもんだね」
「汚い話なのかい」
「何が汚いもんか。君だって、毎日、うんこやおしっこは出しているだろう。それに、うんこやおしっこは、元々、体の中にあるものなんだ」
王子が立て続けにしゃべる。
「わかっているよ。でも、そんなに怒らなくてもいいだろ」
幸一君が僕に向かって不満を口にした。僕は慌ててなだめる。
「ごめん。そんなつもりじゃないんだ。つい、気になっていたことを言ったまでなんだ。あっ、今日は塾があるんだった。急いで帰らないと。じゃあね、バイバイ」
僕は幸一君を残したまま、駆け出した。家に着くと、胸ポケットから王子を取りだした。
「おとなしくしていると言ったじゃないか。あれじゃあ、幸一君と喧嘩になるじゃないか」
王子にきつく言う。
「彼が大王や僕のことを馬鹿にしたからだ。うんこやおしっこが汚いんだったら、それを作ったり、出したりする人間の方が、よっぽど汚いよ」
王子の剣幕はおさまらない。
「そりゃそうだけど。でも、いきなり喰ってかかったら、誰でもびっくりするよ」
王子をなだめると、王子もようやく落ち着いてきた。
「まあ、うんこやおしっこの大切さをもっと知ってもらわないといけないな」
「うん。わかっているよ」
僕はしっかりと頷いた。
うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(6)