築六十年の川沿いのアパート

ツレの恐い体験

 この話の始まりは、僕が大学時代にさかのぼります。

 率直に言えばホラーじみた怖い体験なんです。もともと僕の連れが味わった体験なんですが、友達思いの性格が災いして僕もその恐怖を味わうlことになったのです。

 事の発端は大学のツレが住んでいたアパートの事からなんですが・・・。

 そのツレ、1浪して大学に入った奴です。オレよりも一つ上。
 先輩面しない気のいい奴で、最後まで、ため口で話し合った仲です。今考えるとたぶん親友と言えるのはそいつただ一人だったと思います。

 何でも打ち明けられる奴でした。
 うちの大学の学生は、ほとんどが県外の人間ですから、県人会なるものが盛況でした。
 その連れとは、県人会の飲み会で知り合いました。
 1歳上というのは、後で知ったのですが、最初からお互いに下の名前で呼び合う仲になり、もちろん「さん」付けなしで。とにかく、気が合ったんです。

 通う大学は郊外にあります。
 僕は、大学のすぐそばのアパートを借りて住んでいました。
 そいつは、学費を浮かせるために少し大学から離れた場所のアパートを借りてました。
 家賃はほとんど、ただ同然の金額だったと記憶しています。

 そのアパートは、築六十年以上という代物でほとんど誰も借り手のないアパートでした。
 アパート全体がかび臭く、古く、モルタル塗りの壁はところどころ崩れ、もし地震が来たらアッという間に崩れてしまうような、そんなひどい状態のアパートでした。
 
 大家の願いは、そのアパートに何とか人を住まわせ、アパートの風通しを良くして建物が朽ちるのを少しでも遅らせたいという願いだけですから、家賃はビックリするようなただ同然の金額でした。
 場所は駅から随分離れていて、しかも川沿いの寂しい土地。
 ただ、いわゆる三大都市のひとつのこの地域で破格の安さの家賃は、魅力的でした。
 
 誰でも一度はそのアパートを見に行ったと思います。
 
 そういう僕も下見に行った一人なんです。
 築六十年といっても、造りは鉄筋です。不動産屋はそう言ってましたね。
 但し、外壁は、川の側に建っているせいか、湿気により黒カビが壁全体を覆っているんです
。しかも、目一杯ひび割れした壁でね。
 
 部屋の中はといえば、玄関を入ってすぐ横に風呂場、一応あるんです。木の風呂がね。これも、カビで黒っぽくなっていて、毎日風呂掃除しないとヌルヌルの湯船になって、それが気持ち悪くて、悪くて。
 
 住んだとしても、その風呂だけは入る気はしないですね。
 キッチンは玄関を上がってすぐのタイル張りの昔ながらの流しで、ところどころタイルが剥げているしろもの。剥げたセメント部分はカビで真っ黒。どう磨いても取れない黒カビ。年季が入った水周りなんです。
 せめてステンレスの流しにすればいいものを。
 そして、その奥に六畳の和室。
 もちろん、敷き詰められているのは長年使い古した焦げ茶色の畳です。ところどころ擦り切れています。その和室には窓があります。
 木の枠の昔ながらの擦りガラス窓で、そこから見えるの景色はお墓です。
 お化け屋敷と言っても過言じゃありません。
 そのお墓は古い墓地のようで、無縁仏が多いみたいでした。誰もお参りに来られない寂しいお墓なのです。ですから、そこは荒れ果てていて、雑草が伸び放題。
 
 そこらへんは仕方がない。ただ同然の家賃ですから。
 あと、もう一つあるんです。
 その一つっていうのはある噂なんですけど。
 
 そのアパートは時折・・・・・出るらしいんです。
 何が出るって?イタチやタヌキならまだ可愛いんですが。


 よりによって、幽霊なんです。
 
 この場所でこの雰囲気で、幽霊なんて出来すぎですよ。

 ところで、そのツレは、迷信とか祟りとかその類のものは何一つ信用しない男でした。ですから、そのアパートに薄気味悪い噂があっても平気だったんです。
 ただ、ただ、家賃が安ければいい。。。

 この地区では、当時どう考えても最低月四万は取られる場所なんです。それが、一万円以下でしたからね・・・そいつは飛びつきましたよ。
 
 さっきも言ったように そのアパートは川沿いに建てられ、鉄筋モルタルの三階建て。

 川のせせらぎの音が実に心地よく・・・聞こえる、そんなアパートです。
 ただし、川が隣接しているせいで湿気によって黒かびがそのアパート全体を覆い遠目から見ると黒いペンキで壁を塗り潰したような外観。
 話によるとその場所は幕末の頃、勤皇派の武士が捕らえられ打ち首の刑に処せられた刑場の跡ということです。

 数え切れない人々が首を切られサラシ首にされた、と言う伝説の曰つきの場所なんだそうです。

 でもツレは全然そんなことに動じません。

 家賃が安い、ただそれだけ。
 まあ、心臓に毛が生えているような奴なんです。


 大学にも慣れ、生活の要領も覚えバイトに明け暮れていた頃でした。 いやな梅雨を迎えようとしている時期にそのツレがオレに言ったのです。

 「オレのアパートに一晩泊まらないか?」 ってね。

  僕は僕でちょっと勘違いして
 「オレ、その趣味ないんだよ・・・勘弁してくれよ」
 って、マジで言ったらあいつキョトンとした顔で・・「違う違う!お前何考えてんだ!オレだってその趣味ねえよ」
って、言ってくれてホッとしたのを覚えています。
 
 つまり奴が言うには
 そのアパートで、どうやら出たようなんです。
 つまり、幽霊ってやつがね。
 さすがに奴もそのせいなのか、睡眠不足になって眼の下にクマができてました。
 
 奴の話はこうでした。
 その、黒いアパートには部屋が15ある。
 アパートに住んでいる住人は奴を入れて三人。
  一階に一人。八十過ぎの老人で、左半分が脳梗塞のため麻痺を起こした人だ。
 気丈にもそんな体なのにひとりで生活している。
 ツレは時々その爺さんの為にコンビニで食事を買ってきてやってるらしい。
 もちろん、自分の分の弁当の代金と引き換えに。
 
 二階には、女性が住んでいる。まだ若い。オレも見たことがあるんですけど、二十歳前後ぐらいかな、俺達とあまり年は違わない感じでした。
 水商売の女性らしく、夜昼の逆転生活をしているようでした。
 見た限り美人の部類に入るでしょう。
 ツレがこのボロアパートに入ったのは、その女性が目当てのような気もするのですが・・・。
 
 ツレは三階に住んでいました。
 このアパートの住人は、ツレを入れて総勢三人。
 アパートには三人しかいない。
 たった三人のアパート生活は実に規則正しく繰り広げられていたようです。

 朝5時・・・二階の住人、水商売風の女性がハイヒールの音を鳴らし外付けの階段を上る音がする。
 ドアを開け、部屋に入りそしてドアを閉める音。
 つぎに、一階の老人が部屋のドアを開け外に出る様子が耳に入る。
 老人の日課、散歩が始まる。
 雨の日も風の日もその散歩を欠かしたことがない。
 約四十分間、川べりをあの不自由な体で歩く。

 一日の出来事はアパートから聞こえる雑多な音で始まり、そして音の発生時間は規側正しい。

 ツレにとって音は時計代わりになっていた。
 なぜなら、それ以外の音はしなかったから・・・の、はずだったんですが。
 
 5月の中旬、その頃からそいつの耳に別の音が聞こえ始めたんです。

怖いお話はこれからなんです

 要するに音が聞こえるんです。

 誰かがいる音。

 前にも書きましたが、そのアパートには3人しか住んでいません。

 なのにもう一人、いや正確に言えばもう二人ですか、確実にこのアパートに住み始めた様子・・・と
いうか、まあ音だけなんですが・・・つまり、要するに生活音が聞こえるようになったという事です。

 僕のツレは、いわゆる極度の節約術を心得た男、まあ早い話が吝嗇家、どケチ、シミッタレ、…そんなツレが
私に泣きついてきたわけです。

 一緒に寝泊りしてくれないか…食事は用意するからと。


 その怪しい音は、そいつの隣の部屋で聞こえるらしいのです。

 アパートの住人、八十の爺さんに聞いてもそんな音はしないって言われた。

 もちろん、二十歳前後のお水のお姉ちゃんに聞いても、
 「知らなーい」って、鼻に抜けた声で言われたらしい。
 代わりにそのお姉ちゃんから名刺を貰って
 「よかったら、遊びに来てね」って言われ自慢げにその名刺をオレに見せたのには、少しイラッとしましたが。

 もちろん奴は、その姉ちゃんの高級クラブには、一度も行く事はなかったですけど。

 どうやら、その音は奴にしか聞こえないらしい。
 俺、気が狂いそうだ・・とそいつは日増しに顔色が悪くなっていくので仕方なく僕は2,3日同居することにした。

 ちょうど、その日はお盆の季節・・でした。
 
 僕は奴と一緒にアパートに向かいました。
 遠目から見ると黒っぽいアパートは、それがカビのせいだとはとても思えません。
 ペンキで塗ったような漆黒の黒さです。

 奴の部屋はきれいに整頓されていました。
 几帳面かどうかは、大体住んでいる人間の部屋を見れば分かりますね。

 階下の女性はお盆で帰省。
 それが、コイツの一番の気落ちの原因じゃないかとも思えるんですが。

 一階の老人だけはこのアパートを最後の住まいとしているらしく、どこにも行かずいつもどうりに暮らしていた。

 そんなこんなで僕は、お盆の間そいつの部屋に居つくことになったわけです。
 故郷に帰らずにね。

 ちょうど、丑三つ時って言うんでしょうか。午前2時か3時ごろ・・・ドアが開く音がしました。

 つまりその音でオレは眼が覚めました。

 隣で寝ていたと、思っていたツレは既に起きていました。
 いや、ほとんど寝ていなかったかもしれません。

 目と目が合い、なぜか僕とツレは頷きながら同調しました。

 僕は、ユックリ起きてドアを開け、となりの部屋を見ました。

 辺りは真っ暗です。

 人がいる気配は無いのです。

 怖さを押し殺して、音がした右隣の部屋のドアノブを握りました。

 ユックリ回しますと、・・・・開きません。

 カギがかかっています。

 しかも、人の気配は無い。

 僕は部屋に戻りました。

 連れは布団の上で正座しています。

 僕は、誰もいないよ、と言うような表情で首を横に振りました。

 するとツレは壁に耳を押し当てたのです。

 そうです。

 相変わらず
 その壁から何やら音がするのです。
 僕もツレと同じように壁に耳を押し当て隣の部屋の様子を伺いました。

 水を出す音、流しで何かを洗っている音が聞こえます。

 音を聞くたびに背中がゾクゾクします。、寒気ですね。
 分りますか。少し汗ばむ真夏の真夜中にクーラー無しでこの冷感を味わうなんてエコもいいとこですよ。

 少しづつ耳も慣れ、細かい音が聞き分けれるようになったんです。
 つまりね、人声が聞こえるんですよ。
 マジで。 かすかですけどね。
 でも聞こえるんです。

 僕はその声を聞き取ろうとしました。

 ここからですよ。

 ホントの怖さを、マジで味わったんです。

助けてよ、早く!

 右の耳を壁に押し当てて僕は聞いた。

 会話らしい声が耳に伝わってくる。



 はっきりと聞きとれないのが、少し残念だが、

 どうも喧嘩口調のようだった。

 女の甲高いヒステリックな声と男の低い声が、罵り合っていた。

 バカって言うのが聞こえた。

 これは女の声だ。

 男はそれに対して大声で喚いていたが、どうもはっきりと聞き取れない。

 何かが割れる音がした。

 ガラスか、陶器のようだ。



 女が茶碗でも投げつけたのだろうか。

 それに反応するように男の喚き声が一段と大きくなった。

 畳の床に何かが崩れる音。

 重い音だ。

 人が倒れる音だろうか


 見ていないのに・・・はっきりとそう感じる。
 
 次第にそれは目に見えるかのように感じはじめたんだ。



 女のうめき声が聞こえた。

 首を絞められているような・・・

 これも、全身に感じる。

 要するに、どうも尋常な状況じゃないみたいなんだ。

 僕は思わず隣の部屋に入ろうかと思ったぐらいだ。

 畳を叩く音がした。
 女性が叩いているに違いない。
 ・・・その音が数回したかと思うと

 急に静まり返った。

 いやな予感がした。

 思わず、携帯で警察に連絡しようかとあせってしまった。

 でも、これは現実じゃないんだ・・・と自分に言い聞かせながら耳を押し当てた。

 そのとき

 その時なんだよ。
 突然さ。

 全く突然なんだ。

 声が自分の耳元ではっきり聞こえたんだ。

 まるで僕の耳元で囁くように聞こえた。

 苦痛に歪むような声で、こう言ったんだ。

 「助けて、助けてよ・・・早く」


 僕はそれを聞いて、壁から一目散に離れた。



 僕達二人はそのまま夜が明けるまで呆然と隣の壁を見つめていた。



 このアパートで随分前・・・20年前ぐらいに殺人事件があった。

 女性が首を絞められて殺された。

 恋人との別れ話のもつれが原因らしい。

 殺した男はその部屋で首吊り自殺をした。

 実によくある話だが・・・・。

 ただ、首を吊った部屋、事件が起きた部屋というのが・・

 僕達が寝ている部屋・・・・

 つまり、ツレの部屋だったんだ。

 この話は、一階に住んでいる爺さんに聞いた。

 僕は二度とそのアパートには近寄らなかった。

 もちろん、ツレも、そのアパートを引き払った。



 ただ、・・・

 その女の助けを求める声は・・・いまだに僕の耳に残っている、しかも、

 時折、その女が殺される現場をハッキリと

 夢の中でみるんだ。

 今では女の顔の苦痛の表情まで目に焼き付いてしまった。

 実際に見てないのにね。


 その女はオレを見て言うんだよ。

 助けて・・・助けてよ早く・・・


 今、マンションに一人で住んでいるんだけど
 寝るのが怖くてね。
 傍に誰かいてほしくてね。僕がマンションで犬を飼い始めた原因は
  これなんだ。

 怖さを紛らわす為にね。

 ツレはどうしたかって?
 よく聞いてくれたよ。
 ツレはあれからノイローゼになってね。

 自殺したよ。
 ビルから飛び降りたんだ。
 極度の不眠症にかかり、うつ状態になったらしい。
 
 僕も今じゃ心が折れちゃってね。
 ときおり

 愛犬が、あの亡くなった女の姿に変わるんだよ。

 しらふでそう見えるんだ。
 今じゃ、メンタルクリニック通いさ。

悪夢は消えた・・・はずだった

 大学を卒業した僕は、現在IT企業に勤めている。残業、残業で毎日が慌ただしく過ぎていく。

 相変わらず、あのアパートの悪夢は見るが、しかし仕事に追いやられる忙しさで、マンションに帰れば、極度の疲労からか夢を見ることもなく爆睡できるようになった。
 まあ、僕にとって仕事の重圧は悪夢から逃れることができる特効薬の一つだという事がわかった。
 
 そうさ、あの悪夢から完全に逃れられると思ったんだ。
 金曜日にもなれば、会社の仲間達と飲みに行く。
 もともと、嫌いな方じゃないから、誘われれば喜んで付いていく。
 大体は、居酒屋がほとんどだけど時には高級クラブなんかに誘われることもある。
 たとえば、あるプロジェクトが成功を収めたときなんかは上司に連れられてそういう高級クラブで遊ぶこともある。
 
 そう、あの時もね。
 
 まだ、特定の恋人もいない、女性がまぶしく見える頃だった。
 僕は部長に連れられ、クラブ『パピヨン』に行ったんだ。
 パピヨンなんて名前からして華やいでる、フランス語で蝶という意味らしい。
 そこは美人ばかり揃っていて、芸能人もよく立ち寄るというクラブだった。

 「こんばんわー、新人のトワでーす。よろしく」ボックス席に現れたのは、二十歳前後のきれいな…いや、どちらかと言えばかわいいといった方がいいホステスだった。
 
 僕はその子に一目で惚れた。
 惚れっぽいたちなんだ。
 チャイナドレスのスリットから露わになった太ももをオレに見せつけ、微笑んだ。
 「トワちゃん。永久(とわ)に愛してるよってかー」
 部長のダジャレが始まった。
 
 そんなこんなでオレと部長はホステス達と愚にもつかない『お話し』をしながら時を過ごした。
 二時間経った頃だろうか、部長はこのクラブのナンバーワンホステスと二人きりで姿を消した。
 噂では二人はいい仲だという。
 そのホステスは既に部長の第二の婦人という噂もある。
 できる男は、その方面もできる男なのかと、感心したものだ。

 クラブに一人残された僕は、その日アルコールを浴びるほど飲んでしまた。 
 実をいうと僕は恥ずかしい話、まだ女を知らなかった。
 部長が出て行った後、チャイナドレスの新人トワちゃんと二人っきりになった。
 歳は多分僕より三、四歳ぐらい下だろうか。
 チャイナドレスのスリットから出た太腿がオレの下半身を悩ましくさせる。
 彼女のそのピンク色の生の太腿に手を添えたいのを我慢しながら飲んでるうちにいい気分に出来上がってしまったのだ。
 
 僕はトワに絡んでいた。
 まあ、早い話が悪酔いしたんだ。
 つまり、素面では絶対に言わない言葉を言い続けた。
 「仕事が終わったらオレと付き合えよ」なんて事を
 グチュグチュしっつこいぐらい言ったんだ。
 トワにとっちゃ迷惑な話だ。
 新人のトワにとって僕は最低の客に変貌していた。
 多分、僕は仕事のストレスをトワで晴らしていたのだろう。ダラダラと時間は流れていった。

 もちろん、お勘定は社の接待費で落ちるから、その点は安心だ。今のところ僕の会社は飛ぶ鳥を落とす勢いの羽振りのよさなのだから。
 僕のような迷惑客も、上得意の一人のうちだからクラブのママも目を瞑ってくれているのだ。
 そして、ついに閉店がやってきた。
 僕は既に完全に酔いつぶれていたらしい。
 ほとんどどうやって、パピヨンのドアを出たのかも記憶にない。

 どのくらい時間が経っただろうか。気が付いてみると部屋の中にいた。

トワ

 部屋の中を見渡せば明らかに自分の部屋ではない。
 なぜなら、周りはピンク一色。カーテン、壁紙、ベッド、ありとあらゆる調度品がピンク色。
 「なんだ?ここは」僕はベッドから出て、ピンク色の置時計を見た。
 九時半。
 しまった!会社に遅刻だと思わず呟くが、考えてみれば今日は土曜のはず。昨日は、パピヨンでしこたま酔ったんだと、思い出した。
 
 酔いつぶれて寝てしまったのだろうか?

 しかし、ここはどこなんだ?

 このショッキング・ピンクの部屋にどうやって紛れ込んだのだろうか?
 近くのホテルに入り込んだのか?
 完全に記憶が飛んでいる。
しかしホテルにしてはこじんまりとした一室だ。
そんなこと考えながらドアに向かえば突然そのドアが開いた。

目の前に若い女性が立っている。
どこかで見たような、面影と眼差し。
トワ…か?
素肌にワイシャツを着ただけの女性・・・よく見れば僕のワイシャツだ。
自分はと見れば、ランニングシャツ一枚、とトランクス。
この状況で考えられる事は、寝ている間にトワと一線を越えてしまったのだろうか…?。

頭が完全に鳴門の渦潮状態だ。
とりあえず尋ねてみた。
「僕はどうしてここに?」

トワははにかむ様な、複雑な笑みを浮かべながら
「昨日は俺に付き合えって、何度も私に言っていたの…忘れたの?」
と、僕に告げた。

「確かにそんなような事を言った覚えがあるけど、でも、なんで僕はここにいるの?」

「だって、あなたの家を知らないから仕方なく私のマンションに…」

トワの最後の途切れた言葉は、暗に僕を責めているようでもあった。しかも赤ら顔で俯き加減に拗ねるような態度は、昨夜の秘め事
どうしてくれるの、と訴えているようだ。
僕は僕で、「記念すべき童貞喪失はとんと記憶にございません」と言いたいのを飲み込んで、
「トワさん、申し訳ありませんでした。一人住まいの女性の部屋にぶしつけに上がり込んで、一晩寝かせてもらい…」
と、下着のままで平謝りの状態。

僕はとにかく、平謝りに頭を下げ謝り続けながらズボンと靴下を穿き、背広を纏ってマンションを出た。

築六十年の川沿いのアパート

築六十年の川沿いのアパート

  • 小説
  • 短編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. ツレの恐い体験
  2. 怖いお話はこれからなんです
  3. 助けてよ、早く!
  4. 悪夢は消えた・・・はずだった
  5. トワ