桜恋歌
~プロローグ~
移動教室の途中、不意に視界が傾いた。
次にあったのは体への衝撃と頬に当たる冷たい感触。
意識が遠のいていく中、周囲の悲鳴や揺さぶられる感覚があった。
瞼が段々意思に反して閉じていく・・・
気づけば白い部屋のベッドに横たわっていた。
重い瞼をこじ開け、冷静に周りを確認してみる。
俺の腕には点滴、体からはいくつものチューブがつながっていて
横には心電図が見える。
部屋には他は誰もいないようで、シンとしている。
時折外から聞こえる話し声や足音も、こちらに来る気配はない。
『俺、なんで倒れたんだ?なんでこんなところに・・・?』
そんなことを考えてみるけど、思考回路が回らない。
考えれば考えるほど体がだるくなっていく。
疲れたのかまた睡魔がやってきた。
俺はまた深い眠りに落ちていった。
第1章 雪解け
俺はもう1度目を覚ました。
カーテンの向こうが白くぼやけているから、きっと朝なのだろう。
外はすずめが鳴いている。静かな朝だ。
昨日は気づかなかった目覚まし時計に気づいた。
午前6時8分
改めて部屋を見ると、どうやら2人部屋らしい。
相変わらず心電図はピコン、ピコンと脈を打っている。
どこの病院かは知らないが、どちらにせよ9時以降ぐらいでないと開かないだろう。
残り約3時間も暇だ。
起きるわけにもいかない。かといってテレビを見るわけにもいかない。
色々考えてはみたけど特にすることもなく、ただ無駄に時間が過ぎた。
コツ・・・コツ・・・と足音が聞こえてきた
『誰だ・・・?誰がくるんだ?』
心臓は少し早く鼓動を打ち始めた。
初めての来客ということもあってだろう。
スーッとドアが開く・・・。
桜恋歌