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揺れる電車の中で、左頬の横に浮かぶ10センチ程の正方形の広告とドアの淵の間から外を眺めていた。自分は、遠くまで続く広い川と、それに寄り添うようにして立つビルを見ていたいのに、余計な事を、、、、、、と思いながら。

しばらく見ていると、トンネルに入った。急に真黒になった窓に反射した、いかにも鬱々しい顔達を、我に返ったように見た。この人達も、川を眺めているのであろうか、この広告が鬱陶しいと思っているのであろうか。反射から目を逸らし、右に視線をやって初めて、彼らはむしろ広告の方を、極めて受動的な心意気で見ているのだと気付いた。
更に電車の奥の方に目を移すと、皆それぞれにスマホを覗いていた。彼らもまた、僕が過ぎ去るビルを眺めるのと同じように、スマホの中にある美しい景色に目を奪われているのかと考えた。しかし、近くで広告に釘付けになっている目を再度見て、レイ・ブラッドベリの「華氏451」を思い出しながら、彼らを観る僕の目は川を見ていた時のそれと同じ目になった。
電車が止まると、二駅乗り過ごしているのに気付き急いで降りた。彼らは相変わらず、線路に流されていった。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-10

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