日給10000円で結婚しよう

 とあるファミレス。Aは待っていた。
携帯をいじる気にもなれず、悪い趣味だとは思ったが、背中合わせのボックス席の会話に耳を傾けた。どうやら女子会の最中らしい。
「結婚するんだー」
「いいなー」「おめでとう!」
わいわいと雀のように騒ぎ立てている。
「で、いくらなの?」
「日給2万円」声を潜めつつ、しかし隠しようもない喜びが溢れていた。見知らぬ彼女の台詞で、ますます場が盛り上がる。
「いいなーわたしなんて1万円よ」
「4桁なら十分じゃないの。わたしなんて、、、はあ、離婚しようかな」
 賑やかな女子会はまだまだ続きそうだ。Aはため息をついた。
「日給2万円か。俺には高嶺の花だな」
 今の社会、結婚は日給制だ。一日を一緒に過ごせば、結婚の際にあらかじめ取り決めた額を払わなくてはならない。
Aはしがない会社員。とても日給を支払う余裕などない。つまり結婚などできない。
 Aが悶々と悩んでいたとき、Bがやってきた。
「お待たせしてごめんなさい」Bは申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ、全然待ってないです。それよりも今日はわざわざ来てもらってすみません」
お互いにぺこぺこと頭を下げあった所で、妙におかしくなり、ふたりともくすくすと笑ってしまった。
 BはAの恋人だ。出会ってまだ1ヶ月だが、Aはぞっこんだった。もう結婚するならBしかいないとさえ確信していた。
しかしネックはやはり日給だ。彼女ほどの女性を妻にするならば最低でも4桁は必要だろう。それを考えるとAの胃は痛む。しかし、みすみすBを逃すのは嫌だった。
「Bさん。僕はあなたが好きです。愛しています」
「まあ!嬉しいわ!」
会話はそこで途切れた。AはBがなにを待っているのかを察した。
「それで、日給ですが、今の僕ではとても出すことができません。でも!将来僕は必ず出世してみせます!そのときは5000、、いえ10000円をお支払します!だからどうか、どうか僕と結婚してください!」
これは途方もなく馬鹿げたプロポーズだった。しかし、Bは優しくAの手を握った。
「わたしはあなたの優しさに惹かれたのです。お金ではありません。はい、喜んであなたの妻になります」
 こうしてふたりは結婚した。

 『それでは続いてのニュースです。夫に多額の保険金をかけて殺害した疑いでB容疑者が逮捕されました。Bは同様の手口で2億円以上の保険金を受け取っていた模様です。Bは日給を受け取らず結婚するかわりに高額の保険に夫を加入させていたようです』
『なんとも大胆な手段ですね。B容疑者は許しがたいですが、今時日給を払わずに結婚するというのは、少々信じがたいですねぇ』
『えぇ。まったくそうですね。ちなみに現在の日給の相場は5000円だそうです。では、続いてのニュースに参ります、、、、』

日給10000円で結婚しよう

日給10000円で結婚しよう

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-09

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