異国の地で蛾を喰らう

ゆう

これは僕が異国の地を訪れた時の話だ。
 ○は近年急速に発展を遂げている新興国だ。確かに、僕と友人が訪れた地域と我が国のいわゆる都会と称される地域との差は見受けられなかった。ビルがあり、有名コーヒー店があり、人々はそれぞれに洒落ていた。
 しかし、僕たちが訪れたのはそこから少し外れた場所だった。そこはまさに異国情緒溢れる場所だった。
道一杯に広がる露店、異常に安い品々、道端に座り込み観光客に絡む現地の人々、そしてそれをかわす雑多な人種が入り交じる観光客。そこには活気が溢れていた。
 人混みの中、僕と友人は我が国の言葉が世界公用語ではないことをいいことに言いたい放題だった。どうせわからないだろう、と。綺麗な女性をみては、あれはいい、興奮する、××したい。我が国の路上で言おうものなら警察のお世話になることは間違いない。
もちろん、卑猥な言葉を吐くためにこの国を訪れたわけではない。
 立ち並ぶ歴史的にも貴重な名所をめぐった。それはまさに感動の一言につきる。
時間は矢のように過ぎた。
 そして夜になり、友人は僕にこう持ちかけた。
「せっかく○に来たんだ。行こうぜ」
○は豊富な観光資源を有する観光大国である反面、夜の欲望を満たす施設も充実しているという裏の顔があった。
 僕と友人は勇んで夜の町に繰り出した。
 ×はその方面ではかなり有名な施設だ。その外観は高級ホテルとみ間違うほどだった。
 中に入ると、最初に黒服の男たちが目についた。ただならぬ空気に僕は気圧された。一方友人は英語で黒服たちに何やら話しかけていた。
僕らは豪奢な階段を登り、2階の部屋に案内された。
小さなステージがあり、その前にはずらりとソファーが並べられていた。僕らは取り合えずソファーにならんで腰かけた。
僕はステージをみてぎょっとした。
ステージには女性がずらりと、まるで雛人形のように並んでいたのだ。
「ハイ、マイフレンド。どの娘にする?」
流暢な我が国の言葉。横のソファーには黒服の男が腰をおろしていた。
正直に言おう。恐ろしくなった。友人をみると、彼はなんの躊躇もなくステージ上の女の子のひとりを指差していた。よくみると、女の子はナンバープレートをつけていた。
「何番がいい?」黒服が迫る。僕は意を決した。
 指名した女の子は僕とそう年の差はなさそうな娘だった。彼女は部屋に入るなり僕の手をとり、自分の腰にまわさせた。そして首筋にキスしてきた。
 
 僕たちはホテルに戻り、じゃんけんの結果、友人が先にシャワーを使うことになった。
僕はベッドに横になる。
 そうか。僕は悟った。
豊かで歴史を感じさせる観光名所の数々、あっけらかんとした地元の人々。それらは蝶だ。どんな人でもその姿を愛で、楽しむことのできる昼に生きる蝶だ。
そしてついさきほど僕か体験したのは蛾だ。それは夜の生き物。その姿は嫌悪と、しかしそれでいて思わず惹かれる怪しい力を持つ夜の生き物。
 どちらが正しいということもない。どっちもあってよい。
僕は異国の地でそんなことを考えていた。

異国の地で蛾を喰らう

異国の地で蛾を喰らう

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-12-09

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