彼女の手が冷たかったので僕は戦う決意を固めた

ゆう

夜更けに突然、佳奈がやってきた。
「なんで急に。あいつんちじゃなかったっけ?」
見られたくないものを乱暴に片付けつつ、皮肉をぶつける。
佳奈はぶすっとした態度を崩さない。ばっちり化粧をしているが、眼が赤いのは隠しようがない。
「喧嘩?」冷蔵庫から缶チューハイを取り出す。
「、、、あいつ、タバコ、隠れて吸ってた」佳奈は缶を受け取り、一口で一気に飲んだ。
「いいじゃん、タバコくらい」僕もビールを一気に飲む。
「絶対やめるっていってたし」
「そんなもんだって」
「帰ってくるのも遅いし」
「そんなもんそんなもん」
「最近、ほとんど、してないし」
僕は缶を机に置いた。
「止めろよ、そーゆうこと言うの。オレ、あいつのこと、高校の頃からしってんだからさ。生々しい」
佳奈は酔ってる。元々酒には強くない。一気のみで余計に酔いが回ったようだ。
「水持ってくる」
僕は腰をあげた。
「いらない」
ピシャリと佳奈が言いきる。
 振り向く。佳奈と眼が合う。潤んだ眼。昔好きだった人の眼。そしていまは別の男と付き合っている人の眼。
ここで我慢ができるほどオレはお人好しでもないし紳士でもない。
先のことより目先の快楽だ。

 朝になり、講義に遅れるからと佳奈は僕の家をあとにした。
じゃあね、と。まるで一杯ご馳走になった程度の軽い挨拶。
僕はベッドの上でそのまま横になっていた。
 もっと感慨深いものが込み上げてくると思ってた。確かに、最中には夢中だったが、こうして朝を迎えると意外なほど達成感も充実感もない。そして、佳奈の彼氏であるあいつに対しての罪悪感も。
 僕は起き上がった。
そうか。遠慮なんてくそくらえだ。常識も良心も紙屑だ。欲しければ奪うくらいの気概がいるんだ。
 僕はさっと服に袖を通した。
佳奈とシたことはいずれあいつの耳にも入るだろう。そうなればどんな悪口を叩かれるかわからない。口だけで済む保証もない。
 教材とノートと筆記用具をバックにつめる。
最中の佳奈の手の温度を思い出す。ひんやりとしていた。
手と手とを絡めてようやく熱を帯びてきた手を思い出す。
 僕は玄関を出た。
誰になにを言われようがされようが僕は折れたりしない。昨日のことを決して恥じたりしない。
やっぱり佳奈のことが好きだから。

彼女の手が冷たかったので僕は戦う決意を固めた

彼女の手が冷たかったので僕は戦う決意を固めた

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-12-08

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