白い空間

砂月

あなたは、自由とは何だと考えますか?

白い空間の少年の話。

「やあ、おはよう。今日もいい朝だね、うん、実にいい朝だ」
こうして、今日も、僕と君の対話が始まる。
君は、汚れ一つない白い椅子に座り、いつものように得意げに地面に座る僕を見下ろす。その姿は弧を描く細めた目によく映える、口角がつり上がった口、そして、もう見慣れてしまった、僕と同じ顔だ。

君は、よっこらしょと、あたかも老人のように声を出して、立ち上がる。そして、毎日僕に質問をする。例にならって、君は、僕に問いかけた。
「君が最も畏怖するものはなんだい?」
「畏怖って、なに?いつも君の言葉は、難しいよ」
僕の顔をしたそれは、片方の眉をわざとらしく釣り上げて、ゆっくりと口を開く。恐れることさ、そう答えた。僕は、自分で、自分の顔が強ばったのを感じた。確かにそれは、君に対する不快感や、そう、恐れそのものだった。
「僕は、君が最も“畏怖”するものだよ」「おっと、それは酷く傷つくなあ」
そんな事、ちっとも思っていない癖に。

“君”には、強く不快感を抱いてきたが、その気持ちの正体が分かってしまった今、さらに“君”への不快感が強まった。
だいたい、正体不明のその者は、僕にはまだ刺激が強すぎるんだ。いちいち難しい言葉を使い、僕を困らせる。そして、読心術が使えるのだろうか、僕の言いたいことをいつもピシャリと当ててしまう。
「なにも、難しい言葉じゃないさ、君が世間を知らないだけだよ」
ほらね、僕の言いたいことを先に言ってしまうんだ。僕は、君にうるさいとだけ言って、君に背中を向ける。
「おやおや、敵に背を向けてはいけないよ。食べられてしまうよ」
「……君は、ヒトを食べる趣味でもあるの?」「そんなわけ」

大きく開いた君の口内に、サメのような鋭い牙があることに気付いたが、僕はあえて見なかったことにした。本当にヒトを食べるのではないだろうか。
「ヒトを食べる嗜好はないよ、安心しなよ」

「ところで、唐突ではあるが、君は自由をどう捉えるのかな?」
「唐突すぎて、僕は君に付いていけないよ」
君は、まあまあと、僕をなだめるように言いながら、ニヤリと笑みを浮かべる。黙って質問に答えろ。僕には、君がそう言っているように見えた。

君は、答えを待っているのか、にっこりと胡散臭い笑みを浮かべ続けて、僕の前に腰掛けていた。まるで、釣られかけの魚だ。答えを催促しているのだ、心待ちにしているのだ。しかし、僕には答えが浮かばない。
「自由は、自分がしたいことができること、かな」
ああ、なんという平凡で、ありきたりな答えだろうか。自分で言っていて、だいぶ馬鹿馬鹿しいと思う。
「そんな自由なら要らないよね、やりたい放題だろう?僕は、君にそんな回答を望んでいないよ」「知ってるさ」
でも、それしか思いつかなかった。そう付け足すと、君は呆れ顔になり、皮肉に笑った。やっぱり君は食べるしかないのかな、などと呟きながら。その呟きは、僕を震え上がらせるのに十分すぎる理由だった。
「ただ」「……ただ?」

君が復唱して、聞き返してくると、僕は言葉に詰まる。ぐっと唾を飲み込んだ、まるで、僕の魂を押さえ込むようにした。息を吐き、小さく言って見せた。
「誰かが、君の思う真の自由になったとすれば、きっと他の誰かは、自由を奪われる。それは、本当の自由なのかなあ」

沈黙。僕も君もちょっとの間喋らなかった。僕は、熱でもあるかのように、息が荒くなった、頭が回った、目眩がした。今、僕が発した言葉は、君にとってタブーだったのかもしれないと、心配をした。「なるほどな。実に君らしい回答が聞けたよ」
僕は、拍子抜けした。

「では、君は自由かい?」「僕は」分からない。そう言おうとした瞬間、君が不敵に笑った、答えは知っている。そう言うかのように、そして、大きく声を上げた。
「さあ!そろそろおやすみの時間だ。また会おう、君が答えを知るまでな」

はっと目が覚めた。まるで休んだ気がしない、君と話し込んでいたからだ。もちろん、どちらが夢かと言えば、君と喋っていた方が夢だ。
だけど、最近は君と喋っている時間のほうが随分と長い気がする。
(君は自由かい?)
(この世界が不自由なら、いったいどこが自由なのだろうか、だからと言って、僕は自由ではない……な)

白い空間

あなたにとって自由はなんですか?
本を読んでいるとき、寝ているとき、勉強しているとき、何もしていないとき?

僕と君の対話は、もう数個投稿したいと思っています。

これを読んでくださった皆様、ありがとうございました。

白い空間

「ところで、唐突ではあるが、君は自由をどう捉えるのかな?」 真っ白い空間で、君は僕にそう問いかけた。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-08

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