短編

しゃろ

01

 季節の変わり目。夏から秋にかけ、少しずつ冷え込んでくるそんな日の朝。
 冬ほど寒くはないけど、だんだん寒くなるこの季節はお布団から出るのに抵抗を感じ始める季節といっても過言ではないんじゃないと思います。

「(……まだお布団から出たくないです……)」

 ──ちょっと2度寝するくらい許してくれるはず。そう言い聞かせあったかふわふわのお布団に身をくるめると、優しい温もりが私を優しく包んでいく。
お布団って最強だと思う。だってこんなに暖かいんだもの……学校遅刻しちゃう学生さん達の気持ちがわかっちゃう気がします。
 もしも空飛ぶ絨毯のように空を飛ぶお布団なんて開発された日には、もう誰もお布団から出なくなっちゃうんじゃないでしょうか……それはそれで皆運動不足で大変な事になりそうなものですけど。

 なんて事を考えながら夢の中へもう1度旅立とうとした時、部屋のドアからトントンと叩く音が聞こえた。
「フェリ様、起きてください。朝ご飯できてますよ」
 この声はジェードさんだ。朝ごはん作って起こしに来てくれたんだ……あぁ、でも今お布団から出てしまうとこの至福の時間が終わってしまう。ここは抵抗の姿勢を……
「早く起きないとご飯が冷めてしまいますよ?」
「は、はぅう......」
 ご飯が冷めてしまうのは辛い...。
 朝ご飯は物凄く食べたい。だけどお布団から出るのは嫌。ご飯かお布団か……まさに苦渋の選択を迫られる...が、できたてのご飯程美味しいものはない。

  「ご飯食べる……」

 眠気<食欲。
 まさしく、眠気より食欲が勝った瞬間だった。

 食卓にはトースト、目玉焼き、牛乳、サラダといったまさしく"朝ご飯の王道メニュー"が色鮮やかに並び、食欲を誘っている。
 すぐさま顔を洗い、服を寝間着から普段着へと着替えて席に着くと、既に横には準備万端のクロが座っている。
 しかし私の視線はクロよりも机に並ぶ朝食に釘付けになっていた。
「ふぁぁ……!美味しそうですね!流石ジェードさんのお料理ですっ」
「ありがとうございます、フェリ様」
 そう言うとにっこりと嬉しそうに微笑む。
「フェリ、涎垂らすなよ」
「垂らしませんよ!!」
 失礼な……。
 クロにムスっと顔をふくれさせつつも、あまりにも美味しそうなので涎が出そうなのは心の底で認めた。認めざるを得まい……こんな美味しそうなんだもの。寧ろこんなにいい匂いなのに美味しくない筈がない。
 ゴクリ、と唾を飲み込む。
 これでは私が食いしん坊キャラに思われてしまうかもしれないけれどこの際気にしないでおこう。
「──それにしても本当お料理上手なのです……うぅ、私もこれくらい作れるようになりたいです……」
 私は決して料理が上手い方だとは思ってない。よく失敗するし、塩と砂糖を間違えるというベタな失敗だってするし……うん。自分の事ながらお馬鹿かと思います。無念。
「じゃあ私が教えてあげるわよ!」
 肩にポンッと手を置き、ふっふっふーと自信溢れる笑顔で私の顔を覗き込んで来る。
 シオンさんだ。家庭的でスタイルも抜群。まさに完璧としか言いようのないその人はいつにも増して笑顔が眩しい。一瞬見えた怪しい笑顔は気のせいだと思う。
 ──……って、今シオンさん、教えてくれるって言いましたよね?
「お、教えてあげるって…お、お料理をですか?良いのですか!?」
「えぇもちろん!このシオンさんにまっかせなさい!」
 自信満々に胸を張って言うシオンさんがいつにも増して頼もしく見える。確かにシオンさんはお料理もお上手でなにより美味しい……こんな機会を逃すわけにはいかないだろう。まさに願ったり叶ったりだ。
「ありがとうございます!!よろしくお願いします!!」
「よろしい!!──で?やっぱフェリちゃん的には上手くなればやっぱり…?」
「?」
 ニヤニヤと楽しそうに微笑むシオンさんを不思議そうに見つめる。なんのことだろう……料理が上手くなったら……うーん。皆にお菓子をプレゼントとか?お料理作ってあげたりとかかな。
 そんな事を考えていたら、シオンさんは意外そうな顔をした。
「あら?てっきり料理の腕を上げてライズさんにご馳走するのかと思ったんだけど」
「ら、ライズさんにですか!!?」
 思わず声が裏返る。そ、そりゃちょっとは思うけれど、「美味しいよ」って言ってくれたらいいなぁとか思いますけど。
 しかし、よくよく考えてみれば確かに、料理が上手くなればライズさんに料理を作ってあげることくらい可能だろう。お弁当を作ってあげたり、差し入れとかだって。
 ライズさんはお料理が得意な子とか好きなのでしょうか。どちらにしても料理が上手くなる事に損はない。
「えへへ...私、頑張ります!」
 そう意気込むとシオンさんは「うんうんよろしい!!」と満足そうに頷いた。「なんなら夜にでも付きっきりでで教えてあげようか」と手をわきわきさせながら言っていたけれど、ジェードさんが「シオン様!」と怒ったので頬を膨らませて何やら残念そうにしていだ。なるほど……さっきの怪しい笑顔は何か企んでいた顔のかもしれない。

「なぁ、食っていいか?腹へったんだが」
「あ、少しお待ちくださいクロ様。お父様がまだ……」
 待ちきれないのか「ほっといて先に食おうぜ」と言うクロをなだめるジェードさん。
「ライズさん、まだ起きていないのですか?」
「そうなのよー、珍しいわよねぇ」
確かに珍しい事もあるものだ。普段のライズさんならば誰よりも早く起きててもおかしくない。
「うーん……昨日遅くまで起きてらっしゃったのでしょうか?」
「さぁねぇ……あ、もしかしてフェリちゃん。昨日ライズさんとお楽しみだったり?」
「ふぇ?お楽しみ?」
ニヤニヤとするシオンさんを見て不思議そうに首を傾げる。何がお楽しみなのだろう?昨日楽しかった事と言う意味だろうか?……うーん。
「……あ!」
「お?やっぱり心当たりが?」
「えっとですね……昨日ライズさんが和菓子を買ってきてくれました!それで食べたらすっごく美味しくて……」
「そぉー、よかったわねー……ってそっち!?」
「え?」
なにがそっちなんだろうとジッとシオンさんを見つめているとか「ほんとピュアねぇ」とうんうん頷いた。
「まぁいいわ、フェリちゃんがライズさん起こしてきてあげたら?ライズさん喜ぶわよ!それにこれ以上はクロちゃんが待てないと思うし、ね?」
はっと思いチラッとクロの方を見る。……なるほど、確かにこれ以上は危険だ。
「え、えと……はい、わかりました!起こしてきます!」
「よろしくおねかいしますねフェリ様」
「はーいっ」
こうして、私がライズさんを起こしに行く事になった。

02

 好きな人の部屋に行く……のは、やはり誰しも緊張してしまうものだと思います。
例え同じ家に住む住人だとしても、多分それはあまり変わらないのではないでしょうか……実際、私は緊張してしまいますし、寧ろ緊張せずにはいられません。だから私は入る前、部屋の前に立つと大きく深呼吸し、心を落ち着かせる。まぁそれでも結局ドキドキしてしまうのだけれど……。

 「……よしっ」
 コンコンっと部屋のドアを叩き、彼の名前を呼ぶ。
 「ライズさーん、朝ですよー」
 ──だが返事はない。ももう一度同じ事を繰り返すもやはり返事は返ってこないので、こうなれば部屋に入って直接起こすしかありませんね……。

 「…し、失礼します…」

 おそるおそる緊張しながらもドアを開け部屋のなかにおじゃまする。掃除が行き届き、ものが散らかってない綺麗な部屋はいつ見ても凄いなぁと感心しつつ、キョロキョロと部屋を見回すと、お布団の中でスヤスヤと寝息を立てながら眠るライズさんを見つけた。
 そのままお布団のそばまで近寄ると、顔を近づけ、のぞき込むようにライズさんの顔を見る。普段なら気配を感じとり、寧ろ部屋に入った時点で起きてしまうようなくらいなのだが……ぐっすりだ。ここまで熟睡するライズさんは滅多に見ないから本当珍しいと思う。
  「……なにか私にお手伝い出来る事があれば言ってくれればいいのに」
 そうすれば少しでも負担を減らせてあげられるかもしれないから。そうすればこの人の助けに少しでもなれるかもしれないから。

 そっと頬に手を添えて軽くひと撫でする。
 ──にしても、カッコイイなぁ。
 自分でもどんだけベタ惚れしてるんだって話だけど、でも好きになっちゃったんだもの。仕方ないと思う。
 普段はキリッとしてるけど笑うと優しい目、シュッとした鼻筋、そして唇……。

 ……今ならキス、できちゃうな。
 いや、その、ほ、ほら、お目覚めのキスとかなんかそんなことあるじゃないですか、白雪姫や眠り姫が王子様とキスして目覚めるような……うん。それですよ。それのことです。
 そもそも口づけなんて恋人同士になったのに滅多に…いやほぼないに等しいくらいやらないし、なにより別に普段は気にしてないからいいものの、やっぱりしてほしい……なんて思ったりしちゃう事もあるわけですよ。たまには、たまにはですよ!
 まぁ私としては一緒にいれたら満足なのですけど……今ライズさんはぐっすり。お起きてる間は目が合って恥ずかしくてできないけれど、眠っている相手なら大丈夫かもしれない。
 ドキドキと高鳴る鼓動を抑え、目をつむり、顔をゆっくり近づけていく。
 ……後数センチ、後数センチで……

 「!!!」
 ごちんっとリップ音とは程遠い鈍い音が部屋に響き、同時におでこに何かとぶつかったような痛みが走る。
 「っ……いた……た……」
 おでこを抑え目を開く…と、同じようにおでこを抑え「っつー…」と痛がるライズさんと目が合う。……その距離わずか5cm。
 「あ、あ、あわわ……!」
 「ーん?フェリ……か?」
 「!!!!」
 ばっと後ろに勢いよくさがる。いやさがるというよりほぼ飛び上がり、そしてその勢いのまま今度は部屋の棚の角にぶつかる。
 「いっ……いったぁい!!!」
 「す、すまん、大丈夫か?」
 心配そうにこちらへ駆け寄り、打ったところを見て怪我をしていないかを確認すると「今のは痛かったな」と優しく頭を撫でてくれた。
 痛みをぐっと噛み締め、泣きそうになるのをなんとかこらえつつ笑顔で「大丈夫です」とこたえる……なんて私にできるはずもなく。
 「ふ、ふぇぇぇん!!」
 このように泣いてしまうのでした。

         *

 「そういえば……俺の部屋に来てどうしたんだ?」
 私がだいぶ落ち着いたのを見計らい質問をかけてきた。さっきのことを思い出し、恥ずかしさで顔が爆発しそうな感覚に襲われる。
 「こ、コホン…あの!えっと…朝ごはんできてるから……起こしに……」
 「ーそうか、ありがとな。フェリ」 
 そしてもう一度、今度はくしゃくしゃっと頭を撫でると軽く微笑みかける。
 その微笑みを見てさっきまで痛くて泣いていたと言うのにありがとうと言われたのが嬉しくって顔からは笑みがこぼれてしまっていた。
 幸せだなぁ。いいつまでもこんな幸せな日々が続けばいいな。
 平和ボケしてるって言われるかもしれないけれど、平和なのはいい事だし、誰も傷つかない方が良いに越したことはないに決まっている。
……こうやって、ライズさんに頭を撫でて貰えるのだって、皆と一緒にご飯を食べれるのだって、平和のおかげだと思うから。
 ──例えそれがつかの間の休息だとしても。

 「皆はもう起きてるのか?」
 「はい、今日はライズさんが最後ですよ」
 「そうか……悪い、待たせたな。すぐ行くよ」
 「無理して急がなくても大丈夫ですよ!……あ、でもご飯が冷める前に早く来てくださいね!」

ジェードさんのお料理今日もとても美味しそうですから!と言うと「そりゃ楽しみだ」
と返して洗面所へと部屋から出ていった。
まだ寝ぼけているのか足取りがふらついて危ない感じがして心配になったが、ライズさんの事だ、すぐにシャキッとしちゃうのだろうと思い、皆の所へと部屋をあとにした。

03

 私が戻り、ライズさんが来ると食卓にやっと全員の姿が揃い、少し出遅れたが両手を合わせ「いただきます」と言うと真っ先に私は目玉焼きに手を付けた。黄身を軽く破くとと中からトロッと中身が出てくる。
 「ー!!半熟です……!!」
 「フェリ様はこのくらいの焼き加減が好きだと思いまして」
 目を輝かせて喜ぶフェリを見てにこやかに笑う。
 ──神だ、この中身の感じは神だ。文句のつけようがない。
 「最高です。ジェードさん!最高です!!!」
 私の好みがよくわかってらっしゃる……美味しい、物凄く美味しい、不味いはずが無い。この黄身のトロッて感じがたまらなさすぎて……
 「ふふ、喜んでもらえてなによりです」
 にっこりと嬉しそうに笑うジェードさん。この人実は天使ではなかろうか、うぅ、幸せだ。幸せすぎる。この家に来てよかった。

短編

短編

小説について知識があまりない作者のオリジナル小説。 この話の主人公は少し変わった能力を持つ『フェリース』という名前の女の子が、好きな人の為に頑張るお話です。 じわじわ更新してく式です

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-07

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