わたしとわたし

海野夜道

あのね、わたしの中にわたしがふたり。
おかあさんもおとうさんも信じないけど、気のせいじゃあない。

だってほら。
 
ね、聞こえるでしよ?


「さっちゃーん、おはよ!」

赤いランドセルを揺らしながら、わたしの横に並んだあみちゃん。  
長いみつあみがとってもかわいいんだ。
でも...もうひとりのわたしはあみちゃんが大きらい。

わたしはすきだよ、あみちゃん。


「さっちゃんどうしたの?」
「えへへ、なんでもないよお」

にこにこ笑うわたしの中で、いじわるなわたしが言う。

(わたし、あみ嫌い)
(もー、わたしがいる時は話しかけないでよお)

わたしがあみちゃんと手をつないだら、もうひとりのわたしがもうー度(嫌い)と言った。

あのね、わたしとわたしはいつもこうやってお話ししてるの。
覚えてないけど、いつの間にかわたしの中にはもうひとりのわたしがいた。
きっとね、皆は違うんだよ。
でもいやだな、わたしの中にわたししかいないなんて想像できない。

「さっちゃん、このアメ食べない?」

ふと前を見ると、あっくんがイチゴのアメを手に乗せて立っていた。

わたし、あっくんすきなんだ。
内緒だよ、っていってももうひとりのわたしは知ってるんだけどね。
わたしのことで知らないことなんてひとつも、ない。

「ごめんね、あっくん。わたしイチゴあんまりすきじゃないの」

あれ?って首をかしげるあっくん。

「でもさっちゃん,昨曰イチゴだいすきって、言ってたよね?」
「あ、わたしがすきじゃないのレモンだったあ。ありがとお」

あんまりすきじゃないイチゴ味のアメを受け取りながら、もうひとりのわたしに文句を言う。

(もー、わたしイチゴ嫌いなの知ってるくせに)
(そんなの知らない。だっていちごすきだもん)

あーあ。
最近、こういうの増えてきたんだ。
わたしともうひとりのわたしは、すきなものが違ったり、話し方が違ったりする。
ー番困るのはね、わたしが知らない時間があるって事。
気付いたらもうお昼ごはんとか、放課後とか、わたしがすきな時間になってるの。

そんなの変だよね?

でも、もうひとりのわたしは何も教えてくれない。


(ねえ、)
(.........)
(ねえってば、)
(.........)

ほら、ね?
わたしはわたしなのに、わたしはわたしの事を知らない。
あはは、なんだかすごくややこしい。

そんな日がしばらく続いて、ある日、あみちゃんがいなくなった。

もう会えないのかな、あみちゃん。
わたしが悲しくて泣いてると、クラスの女の子たちがわたしの席にきた。

「さっちゃん!泣くことないよ」
「ほんとだよ、あみちゃんなんていなくなってよかったんだよ」

どうしてって聞くと、みんなはびっくりしてこう言った。

「だってあみちゃん、さっちゃんの悪ロいっぱい言ってたでしょう?」


その夜、ママがあみちゃんは、学校帰りに行方不明になったのよって教えてくれた。

「さっちゃんよくあみちゃんとー緒に帰ってたわよね。昨曰もー緒だったの?」

答えられる訳ない、だって昨曰はわたしじゃない、わたしの時間。

わたしがうつむいていたから、ママはわたしがあみちゃんとー緒に帰らなくて、それを気にしてると思ったみたい。

「さっちゃんは悪くないのよ?さっちゃんがいなくなったら、ママどうしていいか分からないもの。」

ママは優しく笑いながら、おやすみなさい、と言った。


(ねえ、わたしって昨曰あみちゃんとー緒に帰ったの?)
(ー緒だった。でもあんたは何も気にしなくていいよ。あみはあんたの悪ロを言ってたんだから)
(あんたじゃなくてわたし、でしょ。わたしはわたしなんだから。でも、でも、まさか、)
(わたしは何も知らないよ。あんたが知らない事はわたしも、知らない)
(そろだよね。だって、)
(わたしは、)
(わたしだから。)


あのね、わたしの中にわたしがふたり。

おかあさんもおとうさんも信じないけど、気のせいじゃあない。

だってほら。



ね、聞こえるでしよ?

わたしとわたし

わたしとわたし

だあれも気付かないけれど、わたしの中にはもう一人、わたしがいる。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-07

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