うさぎに捧げる恋のうた

ゆう

月にはいろんな生き物がすんでいる。餅をつくうさぎとか、蟹とか、女性の横顔とか。最後だけは住んでいるわけではないだろうが、とにかく月にはいろんな生き物がすんでいる。

 月子が月に行くことになった。
 20xx年、深刻化する環境汚染への対処から政府は月を地球化する計画を推し進めた。というのも月の内部から地球に相当する資源が発見されたからだそうだ。それにより、月子は他の人類に先駆けて月に移住することになった。これは人類の発展に寄与する重大で尊い事である。 
 と、いうのが建前だ。よーするに、人間が月で暮らせるかを確かめる実験台に月子は選ばれたのだ。
 発射は明日で、今まで黙っていたのは騒ぎにならないようにするためだと月子は言った。
 寂しい。すげぇな。月ってメール届くの。向こうではなにするの。
 質問攻めにあった月子はそれにいちいち親切に答えていた。
ありがとう。お父さんとお母さんについていくだけだから。基地局がないからたぶん無理じゃないかな。いちおう学校があるんだって。
 放課後になってようやく騒ぎは落ち着いた。
 月子は急遽作られた色紙や、花束を抱えて校門を出てきた。
「ごめんね、待たせて」
ぺこりと頭をさげる。すると、ばさばさと手紙やら花やらがこぼれた。
あわあわと分かりやすく慌てる月子と一緒にこぼれたものをひろいあげる。
「明日出発ってことは、もう家を出るわけ?」
「うん。発射場までちょっと遠いから、帰ったらすぐ出発しないとなんだ」
「そう」月子に拾ったものを渡す。
ありがと。その言葉とは裏腹に月子はまだ困り顔をしていた。
「あの、、、怒ってる?」
「なんで。いいことじゃん。移住計画の第一号おめでとう」
「わたしが黙ってたから?」
「だから怒ってないってば」
思いがけず声が大きくなる。月子が顔をくしゃりとゆがめる。
「だって、だって、わたしだって言いたかったよ。でも、言えなかった。秘密の計画だってお父さんとかから言われてたし、、それに、それに、なんて打ち明ければいいのかわかんなかったし」
せっかくの花束をぎゅっと抱き締めて、月子が言った。感情が高ぶるとだだっ子みたくなるは昔からだ。
「別にわざわざ打ち明けてもらわなくてもいいよ。かんけーないし」
「関係ないの?」
「うん」なるべく月子の顔をみないようにそっぽを向く。
「そうなの?どうでも、いいの?」
「まあね」
突っぱねてそのまま早足で進む。
 さっきまで肩を並べて歩いていた月子がいない。振り返るとポツンとうなだれて立ちすくんでいた。
急いで引き返す。
「ごめん、ガキっぽいこと言って。ほんとは相談とかしてほしかった」
「ほんと?」うつむいたままの月子が言う。
「今朝、月子が月に行くってみんなの前で言ってたとき、なんでってずっと思ってた。どうしてって。それで、みんなと同じタイミングてってのがイヤだった。そういうことは一番先に知りたかった」
全部言い切ったあとで恥ずかしくなった。でも、月子がいつもみたいににっこり笑ったのをみて、ま、いっかと思えた。
「よかった。ケンカしたまま月に行くなんて絶対いやだったんだ」
無邪気に月子は言う。こっちの気持ちも知らないで、ほんとにどこまでもこどもっぽいやつだ。
「月から帰ってくるときは連絡してな」
「うん。迎えの来てくれるの?」
「あぁ。一番に迎えに行くよ」

 ロケットの発射は全国ネットで放送され、学校でも中継された。
 屋上でひとり仰向けに寝転がって空を見上げる。どこまでも澄んだ青空。
 わぁっと歓声が校舎からあがった。どうやら無事にうち上がったらしい。
「遠いなあ」
いまさらだけどやっぱりさみしい。
 帰ってきたらそう伝えてみようか。月子はどんな顔をするだろう。

うさぎに捧げる恋のうた

うさぎに捧げる恋のうた

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-07

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