ENDLESS MYTH第2話ー4
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鳥居は朱に塗り固められ、梵字が細かく刻まれている。その大きさは太古よりの大樹よりも太く、たくましく、見上げたとて頂点を拝むこともかなわないほどに、巨大であった。
その太い鳥居の間には幾十にも、蜘蛛の巣のように編み込まれた標縄が奥へと通じる参道を封じる結界のように、外界よりの者を拒んでいた。
周囲は漆黒に覆われ、視界は皆無である。ただそこに朱色が鮮やかに存在感を主張し、鳥居の全面に刻まれた梵字が黄色く発光しては、蛍のように明滅していた。
その鳥居の足下に陽炎のように突如として2つの影が、ぼうっと蝋燭の火を灯したように現出した。
やがて2つの影の輪郭はくっきりと鮮やかになった。
2人は女性である。
1人は朱色の袴を穿き、白い着物に身を包む、日本の巫女のような格好をしているが、身体に革の鎧を身につけ、巫女と言うよりは戦士の風貌を呈し、長く伸びたまっすぐな黒髪が印象的だ。
もう1人は韓国の民族衣装チマチョゴリに似た服装をしているがやはり、革の鎧をまとい戦士という印象を与える、長身の女性である。
2人の顔立ちはアジア系であった。
長身の女性は黒髪の女性をじっと見つめる。瞳には怪訝に近い印象の光が灯っていた。
「この場から幾人もの人物を見送ってきました。ですが帰った者は1人としていませんでした。【JYUスペース】の出入り口である大鳥居。ここをくぐって帰ってこそ、真に総師カイナー様の意を体現することとなるのです。それを胸に刻み、外界へ赴きなさい、ポリオン・タリー」
ポリオンと呼ばれた黒髪の女性の顔は無表情であった。が、心中には自らの上司であるミヒス・モナルが心から言葉を発していない事は理解できていた。
2人の出会いは地球時間で十数年前である。まだ小さな子供だったポリオンに、術を教え、【KESYA】の組織としてのあり方、デヴィルに対する戦闘術を教え込んだ。けれども人間の考え方とは、相容れぬことがしばしばある。2人の間にも師弟の関係と上司と部下の関係がありながら、どこか距離がある。長年の考えの違い、小さな積み重ねが、女性2人の間に大きな溝を形成していた。
「そうですね。カイナー様の意を受け、私はデヴィルを殲滅すべく、外の世界へ赴きます。また私の使命をまっとうすべく、戦いに身を投じます」
ポリオンの言葉が鳥居の間に蜘蛛の巣のように張り巡らされた標縄の奥へ反響した。
ミヒスもまた、自らの部下で弟子が、口先だけで言葉を吐いているのを知っていた。子供の頃より何を考えているのか結局、今日まで理解できないまま、前線へ、巨大な運命の流れへ送り出すのは、師匠として、上司として自らをふがいないと感じていた。
「では行ってまいります」
ポリオンが振り向き、中空へ指先で円を描く。すると漆黒に青白い光の輪が現れると、トンネル状に中が空洞化した。
彼女は振り向きもせず、無表情のままに和装に不似合いなヒールを進めた。
弟子の後ろ姿に何か声を掛けようと考えるも、結局、ミヒスの口から出る言葉はなく、ポリオンが描いた術のトンネルが消失し、漆黒に彼女が消失するまで、師匠はその場から動かず、逆に部下の姿が無くなると、ホッとした表情で再びJYUスペースへと、我が家へ帰るようにその場から姿を消した。
今度は蝋燭の火を吹き消すように。
『ENDLESS MYTH』第2話-5へ続く
ENDLESS MYTH第2話ー4