秘密結社MKK

 目隠しをされたまま、車でグルグルと移動させられたので、浜田にはここがどの辺りなのか見当もつかなかった。車から降ろされ、手を引かれながら階段を下って行く。やがて、案内役の男が立ち止まった。
「さあ、着いた。中に入ったら、目隠しを取ってもいいぞ」
 扉を開ける音がし、浜田が中に入ると、後ろで閉まる音がした。
一瞬の静寂の後、部屋の奥の方からシャリシャリと何かを削るような音が聞こえてきた。
(やけに音が響くのは、地下室のせいか)
 真冬だというのに暖房も入っていないようで、肌寒かった。
「どうした。もう、外していいんだぞ」
 浜田は、おそるおそる目隠しを外した。
 やはり地下室のようだ。
 室内には、浜田を案内した男以外に三人の男がいた。全員、黒い頭巾のようなものを被っているが、目と口の部分は開いている。
「おまえも頭巾をするのだ」
 浜田に同じ黒い頭巾を渡すと、案内役の男も同じものを被った。そのまま、大きな丸いテーブルの手前の席に座らされ、残りの全員も同じテーブルを囲むようにそれぞれの席に着いた。
 すると、浜田の向かい側の男がしゃべり始めた。
「今日はわたしがファーストスピーカーなので、最初に説明させてもらいます。このMKK会には身分の上下はありません。今日から加入しようとしているあなたも、一旦会員になれば、我々と同格です。この丸いテーブルは、その象徴でもあるのです」
 男の説明を聞きながら、浜田はちょっと後悔していた。好奇心から秘密結社への入会を希望したが、思った以上に本格的なようだ。会費が一番安いところをネットで探し、一回三百円という値段を見て、即決してしまったのだ。
「あのう、すみません」
 浜田が話そうとすると、最初に話した男の隣の老人から止められた。
「まあ、待ちなされ。身分は平等だが、話す順番は事前にくじ引きで決められておる。おまえさんは未加入だから、まだしゃべってはいかん。セカンドスピーカーはわしじゃよ」
「でも」
 すると、浜田の左隣の若い男が浜田の肩をポンとたたいた。
「まあ、まあ。入会の儀式が済んだらフリートークの時間だから、それまで辛抱しなよ。ぼくがいろいろ教えてあげるよ。一応、今はサードスピーカーだけどね」
 浜田が返事をする間もなく、右隣に座っていた案内役の男が「シッ」と言った。
「静かに。もう儀式の時間になった。準備はフォーススピーカーの役目なのだ。ちょっと待っていろ」
 案内役の男は立ち上がり、部屋の奥から何かを持って来た。
 それは大きな深皿に山盛りにされたカキ氷だった。イチゴシロップと練乳がたっぷりかかっている。
 案内役の男はそれをテーブルの真ん中に置くと、各自の前に大きめのスプーンを配った。
 それを見届けて、最初にしゃべった男がスプーンを持ち上げた。
「さあ、それでは始めましょう。MKK会に栄光を」
 そう言うと、カキ氷をスプーンに大盛りにすくって食べ、すぐに痛そうに頭を押さえた。
「次はわしじゃな。MKK会に栄光を」
 カキ氷を食べて、「ウーム」と眉間にシワを寄せた。
「ぼくだね。MKK会に栄光を。ひーっ、頭イテッ」
「MKK会に栄光を。次はおまえだぞ」
 浜田は震えていたが、怖いからなのか寒いからなのか、自分でもわからなくなっていた。
「どうした。一口食べるんだ」
「は、はい」
 ヤケクソでパクリと口に放り込んだ。味はごく普通だが、さすがに冷たい。たちまち頭がキーンとなる。
「イテテテッ」
 ファーストスピーカーと名乗った男が、大きくうなずいた。
「よろしいでしょう。これであなたの入会が認められました。おめでとうございます」
「はあ。それで、今後の活動って、どんなことをするんですか。やっぱり、世界征服的なことですか」
 セカンドスピーカーという老人がかぶりを振った。
「何をわけのわからんことを言っておるのかね。これから冬の間中、毎週ここに集まって同じ事をやるんじゃよ。MKK会、すなわち、『真冬にカキ氷を食う会』ということじゃからね」
「そんな、バカな」
「あれあれ。きみは知らなかったのか。でもね、ここで見たり聞いたりしたことを、よそでしゃべっちゃダメだよ。やせても枯れても、ここは秘密結社だからね。恐ろしい結果が待っているよ」
「ええっ、どんな結果ですか?」
 すると、案内役の男が苦々しい顔で答えた。
「ふん、決まっているだろう。世間の笑いものになるのだ」
(おわり)

秘密結社MKK

秘密結社MKK

目隠しをされたまま、車でグルグルと移動させられたので、浜田にはここがどの辺りなのか見当もつかなかった。車から降ろされ、手を引かれながら階段を下って行く。やがて、案内役の男が立ち止まった。「さあ、着いた。中に入ったら、目隠しを取ってもいいぞ...

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-07

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