雪が降る日に

雪が降る日に

何もない日々。そんな日がずっと続いてくってただ思ってた。きっとこのまま何もなくて、高校へいって大学へいって就職して適当な人と結婚して子供を産んて老いて死んでいく。ただそれだけの人生だと思ってた。

何もない日

私は夢を見た。誰かに頭を撫でられ私は笑っている。そんな正体不明のやつに好きだなんて口走っている夢を。
「…き、ゆき!ゆき!何時だと思ってんのあんた!」
私を呼ぶ甲高い声がする。このうるさい声で私は毎日起こされる。
うるさいなという悪たれは心の中にしまっておく。
「今行くから!」
遅刻ギリギリの毎朝7:40、私、入江優姫のつまらない日々は始まる。
「あんたは毎回ギリギリすぎよ、受験生なんだし毎朝しゃっきり7時には起きなさい」
そんな母の忠告も耳に入れず空返事で適当に流し
「あれ、今日お姉ちゃんは?」
などと話をそらしてみる
「あぁ美姫?今日は大学ないからまだ寝てるよ」
なんてまともに返しちゃうあたり、ちょろいなぁなんて思いながら
時刻は7:58、家を出ないと完璧遅刻だ。
ださい制服を身にまといと重いバックを背負って、髪を束ねたら
ちょっと急いで家を出る。


20分、早歩きをしてやっとついた学校、いつも通り遅刻の2分前。ギリギリセーフだ。南藤沢中学校3年3組2番 入江優姫 いつも通り教室に入っておはよーとかねむそーとか大丈夫だった?とかなんだかんだ声をかけられやっと席に座る。自分で言うのもなんだがクラスの中心な方だ。友達だって多い。頭だって悪くない。でも毎日何か足りない。そう何かわからないものが足りないのだ。

「おはよ、ゆき今日も来るの遅いから置いてった」
と、中1から同じクラスのあっぴーこと相原明日香に毎朝のように言われる。
だってぇ寝坊しちゃったんだもんごめんね?と毎朝同じ言い訳を同じ調子で言ってみせる。そうするとあっぴーはもうーしょうがないなぁなんて言っていつも私を甘やかしてくれる。そう、末っ子で学校でもこんな感じの私は甘やかされて育っている自覚がある。その上変な虫がつきやすい。だから彼氏という名のボディーガードと2年も付き合っている。でも、好きという感情は浮かばない。ただ、変な虫がつかないための道具だとしか思っていないのだ。私は本当の恋を知らない。人を真剣に好きになったことがない。それも何か足りないものの原因かもしれないと最近かんがえつつある。
友達だって、心から信じられるのは4人だ。そんな薄っぺらい中学3年間を私は送っている。自分が最低だということも自覚している。

なんて考えているとチャイムがなった。
朝からめんどくさいHRの開始だ。
担任は25歳の新米、前原。こんなんで受験生任せて大丈夫か?というのがもっぱら母たちの評価だ。
受験生の私たちは進路をこいつと一緒に考えないといけないと思うと頭が痛い。
それでも私は笑顔でこいつに接してあげている。
理由は?って聞かれてもそういうキャラだから仕方がないとしか言いようがない。
そんな担任は毎朝呪文のように受験受験受験受験とぬかすもんだから朝から気が滅入る思いだ。とそこでやっとチャイムがなりHR終了。
隣の席の天才伊藤くんにやっと終わったねなどと軽く話して席を立った。



今日の朝の不思議な夢の話をあっぴーにしてみることにした。
イケメンが好き♡こんな出会い方がいい♡などと最低な女の私からは想像もできないだろうけど私は運命の出会いというものを信じている。でもきっとこれも信じているふりをしているだけなのであろう。そんな出会いがないとは頭ではわかっているのだ。それでも現実と向き合えず、どうしてもそういう考えに至ってしまう。
だからその夢にも少し脚色を加えあっぴーに話すことにした。

「今日ね、イケメンが私の頭を撫でて私すごく幸せだったの。好きだって連呼してた。もちろん夢だけど…」
なんて馬鹿っぽくちょっと脚色した夢をあっぴーに伝えた。
そうすると案の定
「あんたね…。そろそろ、そういうのやめて現実見なさい」
あっぴーは現実主義である。これでもかと
「ゆき、彼氏のこと好きじゃないの?あ、好きじゃないよね。聞いたこっちが馬鹿でした。いい加減別れなさいよ?ばかゆきは変なところ計算高いんだから」
と今の私の現状に対しての意見を並べてきた。そうくると思っていた。
「わかってるよー。でもね可哀想なんだもん。卒業までには別れるよ。でもどうしようー!振り方わかんない!助けてあっぴー」
と予定通りの言葉を甘えた調子で言ってみる。
知らないよ、きちんとけじめつけなさいとかなんとか
困った顔で怒られ、私はよしきたと思った。
なんでかって?こういう顔をして私を怒る彼女は
なにか手立てを考えてくれているときだ。
えぇーと叫んでみるが本当はわかっている。だからこそ気づかないふりをする。
タイミングよくチャイムなり授業開始だ。
12月に入ったばっかりの今は受験用の成績は既に出ているので
安心して適当に授業を受けることが出来る。

そしてこんな様子で6時間授業を受け
部活も引退後なのでそのまま、家に直行し塾へ行ったり
家で寝たりして私の1日は終わるのだ。
実につまらないつまらない、何かが足りない1日である。

何かが起こりそうな日

そんなこんなで何も無いまま私達の卒業の日となった。
受験にはなんとか合格しあっぴーと同じ高校へ通えることとなった。
彼氏という名のボディーガードとは、あっぴーがあの後言い訳を考えてくれたので、それをそっくりそのまま伝え、1月半ばお別れとなった。
別に寂しくない。当たり前だ。私の無駄な恋愛ごっこが終わりを告げただけだから。
そして晴れてなんの負い目もなく無事に卒業というわけだ。
私は卒業式でちゃんと泣いた。なぜかって?そういうキャラだからだ。クラスでは委員長、団長、指揮者、実行委員長まで真剣に務め冷めていたつもりでもきちんと気づかないうちにこの学校がすきであった。そういうキャラを自分で確立していた。でもその涙に一つ嘘をついた。この涙は思い入れのある学校を離れることに対しての涙だと。真意は違った。頑張ってきた自分への涙だったのだと私は思った。きっとそれを口に出さず友達との別れを惜しむ私のことを計算高いと言うのだろう。



そして桜が舞い落ちる、その日。
入学式の日を迎えた。私は新しい生活に向けて楽しみで楽しみで仕方がなかった。足りない何かの答えをここで知ろうと意気込んで高校へ向かう電車の中であっぴーの横で1人お気に入りの曲を聴いて心を弾ませている。



あんなことが起こるとは知らずに…。

何かが起こる日

電車から降りて学校へ徒歩で向かうとき、なにか懐かしい匂いがした。
それとともに切なく寂しい思いが心を支配した。
私はこの感情の意味を全く理解できなかった。もう一度確認しようと思ったときには、その匂いは消え、どんな匂いだったかも忘れてしまった。残ったのはこのどうしようもない感情だけだった。

会場につき、クラスが発表されていた。運のいいことに4年連続、あっぴーと同じクラスとなりそうだ。私は当然のように
「今年もよろしくね!イケメンいるかなぁ。一目惚れしーてーみーたーい」
なんて呑気なことを今は言っていた。
あっぴーも
「また、ゆきの面倒?あーあ。」
なんていいながら、顔は笑っていて私は迷わずハグをした。

ふと何かを思い出した。今日、母が実にるんるんして私の準備と自分の準備を同時進行でやってくれたもんだから、そんなに娘の成長が嬉しいのかと思って、制服似合ってる?可愛いでしょなどと調子乗ったことを聞いてしまったが、その質問に対しての回答は予想とは違い。から返事であったことにより私の成長を喜んでいるわけではないらしかった。

入学式というものはいつでも緊張する。相原、入江の私とあっぴーは席が隣で、なにかあるたびに小声でクスクス笑ったりして緊張しながらも入学式を大いに楽しんでいた。
長い校長の話と生徒会長の固そうな話が終わったところで、新入生代表の言葉だ。毎年この学校は入試でトップだった人がするらしい。まあ私には無縁の話だ。


なんてったってここの学校は進学校だ。私の頭はさほど悪くないしどちらかといえばいい方であって中の上、もしくは、上の下くらい。でもこの学校は進学校というだけあって上の上が集まる学校であり本来、私なんかが入れる高校ではない。なぜ入れたかと問えば愛の力だ。もちろん色恋ではなく友情の方だ。中学で本当の友達は4人しかいなかったがあっぴー以外の3人はまあレベルで言ったら自分より下、中の下から下の上の子たちだったのでそんな高校へは行きたくないという、私なりのプライドがあった。とはいっても自分のレベルに合った高校にはその4人の誰も入らない。私だって一応女子なのである。一人ぼっちになるくらいだったらバカ高校へ行った方がマシだ。と真っ先に思った。でもやはりプライドが邪魔をした。そのため、中学で常にトップクラスにいたあっぴーと同じ高校に行くことを選んだ。それはもう今までにないくらい勉強した。精神が崩壊したと言っても過言ではないと自分では思っている。その甲斐あってあっぴーと私は晴れて同じ学校に合格できた、というわけだ。入れたからと言って頭のレベルがこの学校の生徒と同じになるわけではなく、合格といえど私の場合はほとんど愛想で入ったようなもんだ。中学の成績は先生受けの良い生徒だったのでなかなかいい方だし、面接は常に仮面を被ってる私としては御茶の子さいさいである。ペーパーテストは思ったよりも出来が悪く学校の底辺となること間違いないような点数であった。

無縁といえど、この学年の実質トップであるやつに興味が無いわけではなかった。プログラムには"樹里"と書いてあったので多分女だろう。私は何の確証もなく眼鏡の三つ編みちゃんが出てくるものだと思っていた。だが、その予想は大きく裏切られることになる。
出てきたのは黒髪、短髪、いかにも勉強ができそうな切れ長な目、身長は180センチくらいあるだろうか。顔は小さく整っている。俗に言う"イケメン"だった。
あっぴーの顔を伺うと小声で
「あんたのタイプでしょ」
と興味なさそうに言ってきた。あっぴーの隣の女の子の顔を見てみると目を輝かせ、頬を赤らめている。そんな様子をみたあっぴーは私に
「あら、ライバルが多そうねぇ」
とからかってきた。実際あのルックスにクラっときていない女子はあっぴーだけだ。私だって、あんなお高くとまったようなやつやだわと言おうとしたが、心がそれを制した。低い温かい声を聞きそれどころではなかった。恋に落ちる音がしてしまった。どこかほっとするような落ち着く声に完璧にやられたと思った。それとともに、聞き覚えのある声。と一瞬思ったが気のせいだという結論に至った。

その後も私はあの人から目を離すことができなかった。

何かが始まる日

入学式から1週間たった今。私の恋はなんの進展をするわけもなくただ、初めての1週間を過ごしただけだった。と思われた。が、母の入学式でのるんるん加減を覚えているだろうか。

入学式が終わり母と合流し、あっぴーと写真を撮ってもらうことにした。でもなかなか母を探せないのだ。さっきまであの窓側の左から2番目で小太りのエンジ色のネクタイをしたおじさんの横に座っていたはずなのにいないのである。外へ流されてしまったのかと思い外に出てみると、なんとまあ母はあの樹里という私がたった今恋に落ちた相手とそのお母さまと思われるミニサイズの上品な女性と話しているではないか。私はとりあえず使えない頭をフルに回転させてみた。答えは見つからなかったけど。私は急いで3人の元へいき、とりあえずいつもの笑顔で
「こんにちは!」
と軽く頭を下げた。そうするとお母さまと思われる女性が
「まあ、ゆきちゃん。こんにちはだなんて、ずいぶんお行儀が良くなったのね。それとすごく可愛く女の子らしくなったわね♡」
と予想通りの可愛らしい声と予想外の言葉が返ってきた。
私のことをなぜ知っている?そしてなぜ幼少期のお転婆具合を知られている?この人に会ったことがある?と頭の中の引き出しをできるかぎり引っ張り出してみたが、その答えはなかった。その代わりに 私の母 が
「やだ。ゆき覚えてないの?じゅんちゃんごめんねえ、うちの子馬鹿だから昔のこと全然覚えてなくて…。ほらあんた、お母さんの大親友の松井潤ちゃんだよ?覚えてない?よく昔、樹里くんと樹里くんのお兄ちゃんの光樹くんと美姫とゆきで遊んでたでしょ!樹里くんもこんなに大きくなってとってもイケメンじゃない♡」
と母は私の理解の範囲を超えるギリギリのところを一気に何食わぬ顔で言ってきたので私はおおいに混乱したが、たった一つ昔の記憶をどっかからか見つけた。それは雪の夜、クリスマスツリーに誰かといるとその頃信じていたサンタクロースとやらにお願いごとをしていた。というだけの記憶だったが、それがもしかしたらそこにいる彼との記憶なのではないかと小さい脳みそで考え、やっと
「あぁ!昔クリスマスパーティとかしたよね。懐かしいな。あのときのこと全然覚えてないや。でも楽しかった雰囲気は覚えています。さっき樹里ママみて懐かしい!ってなんか思ったんですよ」
と、松井樹里のことを勝手に呼び捨てにし、推測で私が昔呼んでいた彼のお母さまの呼び名を出してみた。外れたらそうとうまずい。でもこういうことは大抵外したことは無い。昔から状況を覚えるのと空気を読むのと相手の求めていることを推測したりするのは得意だったから。
「樹里ママなんて懐かしい♡ゆきちゃんとみきちゃん両方可愛いらしくて、家には女の子がいないから2人とも自分の子供だと思って見てたのよ」
と、とってもキュートに言われ素直に嬉しかった。
母も
「家も女しかいないからこうきくんもじゅりくんも、自分の子と同じように遊ばせてたわ」
とかなんとか便乗して言ってやがる。
そうすると初めて彼が口を開いた。
「ありがとうございます。僕も実はあまり覚えていなくて。でも遊んだことはぼんやり覚えていますよ。」
と、愛想よく爽やかに答えた。私は運命だと思った。彼は私の運命の人だ。と
でも一瞬にしてこれは打ち砕かれることになる。
その瞬間は5分もたたないうちにやってきた。
母たちがおしゃべりに夢中になっているときに不意に腕を引かれた。
一瞬何がなんだかわからなかったが、その2秒後には淡い期待を胸にときめかせていたというのに彼は
「俺、頭の悪い女嫌いなんだ。幼馴染だってこと絶対誰にも言うなよ。」
とそう。松井樹里はそう私に言い放ったのだ。淡い期待は散るだけでなく見るも無残な形に切り刻まれたようだった。
「そんな事言われなくったって樹里。…くん、のことなんて気にしてないからさ。」
なんて言ってしまったじゃないか。こういうときに気が強く負けず嫌いでプライドが無駄に高い自分がとても嫌いだ。やばいっと思ったときにはもう遅かった。
「ふーん。別にいいけど。だったらお前、俺に関わんなよ」
と声の主はすごく冷静に冷たい目で私を見下し、暴言を吐き出してきた。言葉を失いすぐ泣きそうになる私は涙目になるのを堪えているところで母たちのおしゃべりが終わったようだ。助かった。と思いながら。ああ私の恋は始まって2時間で終了か。と思い母たちの元へ駆け寄り校舎内にいるはずのあっぴーを探してくると言い残しそのままあっぴーを見つけ無言で家に帰った。


あんなことを言われ言い返したのに、その次の日からもあいつのことが頭からはなれなくなった。

何かを求める日

「あんたバカじゃないの?!」
このあっぴーの一言で今日という日が始まった。
なぜ叱られてるかというと例のあいつにあんな発言をしてしまったからだ。
「だってさ、あんな事言われたら言っちゃうじゃん!?」
「んで、あんた松井くんのこと好きなわけ?」
「好きじゃない………。って思いたい。」
「あんたって本当にばかだね。そういうのを好きっていうの。」
なんて言いながら私より背は小さいくせにでかい態度で私の頭をくしゃくしゃと撫でてきた。私も
「頭をくしゃくしゃになったじゃん!せっかく可愛くしてきたのにぃ。」
なんていいながらあっぴーに抱きついた。私にとって最大限の愛情表現だ。

そんなことをしながら、教室につくと
「なんだ、入江今日は一段とブサイクだな」
「うっさいな!こっちは色々あって落ち込んでんの。なに?いつもは可愛いのに今日はってこと?あーそっか励ましてくれてるの?あ、り、が、と、う!!」
「うわー、何お前、自分で言ってて恥ずかしくねーの?!はいはい。優しいケンタ様は励ましてるってことにしといてやるよ!イケメンとは俺のことだな。」
「あーうるさいうるさい!きーこーえーなーいー!」
いきなり私と言い合いしているコイツは仲西健太。顔はいい方モテる方。ゆきとけんたは似てるよね。なんてあっぴーに言われたことがあったけ?中学は同じで去年は同じクラスだった。
学級委員だったし、頭は私よりもよかったけど成績が悪く毎回ふざけてるようなコイツがこんな進学校にくるとは思いもしなかった。クラスに入ったらびっくり仰天。いるのだ、コイツが。私達は中学のときから言い合いばかりで、なんと表せばいいのか。仲が悪いわけじゃないし、周りからは仲いいねぇなんて言われたもんだが、顔を合わせば言い合いばかり。某ネコとネズミのようなものだ。背は私より小さかったのに今はもう頭1個分くらい違う。私だって160cmはあるのに生意気だ。でもこういうとき、いつも私を元気にしてくれるのはこいつだ。悔しいけどね。そういえばケンタとは1回いい雰囲気になったことがあるが、お互いこういう感じなので流れて終わったからあっちだってそう思ってたのか今思えば疑問だ。

なんだかんだで朝から落ち込んだり怒ったり笑ったりしながら、なんとか樹里くんへの不安な思いは軽くなったような気がした。
しかしそんなときも、つかの間であった。
騒がしくなったなーと周りを見渡せば女子たちの浮かれているような声が聞こえたかと思えば、その子達の顔は紅潮してるように見えた。その女子たちの視線を辿ると、そこには
「おい、入江優姫いる?」
と私を呼ぶ、松井樹里の姿があった。
え?なに?なんで?私の頭の中は既に混乱状態。はてなで頭がいっぱいだ。
そんな中、あっぴーが私を呼びに来た。
「入江優姫さんお呼びよ。」
「あっぴー助けてー。むりー。お願いついてきてよ」
と小声で訴えたが問答無用で却下された。その代わりに
「ほーら。行っておいで。後悔するよ?」
といって背中をポンっと押し出してくれた。その甲斐もあり、私は女子達の痛い視線をうけ、まだ痛い心と高鳴る胸を押さえつけながら樹里くんの元へ向かった。
樹里くんのところに着いたときにはもう痛い心は収まっていたように思えたが胸の高鳴りは高くなる一方だ。そんな思いをしったか知らないのかわからないが樹里くんは私の手を強引に引っ張って人目のつかないところへ連れていった。

え?私何されちゃうの?やだ。と思いながら樹里くんにならとか馬鹿みたいなこと考えてる自分がいたかどうかは自分でもわからない。

何もわからない日

「ちょっ、なによ!ねえ!」
と、私は我にかえって樹里に言った。
「は?お前になんて何もしねーよ。」
「これ、おふくろがお前に渡せって。お前になんて何もしねーよ。じゃあな。」
と言ってまるで嵐のように彼は去っていった。
私はひどく傷ついたようだった。それを隠すように私は
「期待なんかしてねーよ。」
と自分でもびっくりするくらい弱々しい声でつぶやいた。

教室に戻ると予想通り女子の視線が痛い。
ようやく席に座るとあっぴーが心配そうにこちらにやってきた。
「んで、そんな落ち込んだ顔して何されたの?」
「何もされなかった。なんでわたし落ち込んでるんだろうね。」
「んーそれは自分で気づきなさいよ。てか気づいてるんでしょ?本当は。てか、何の用だったの?」
「あっそうだ!」
渡されたものをついうっかり忘れていた。そういえば樹里ママからだって言ってたっけ。無造作に袋を開けてみる。そうすると出てきたのは1通の手紙と1枚の写真であった。

雪が降る日に

雪が降る日に

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-06

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 何もない日
  2. 何かが起こりそうな日
  3. 何かが起こる日
  4. 何かが始まる日
  5. 何かを求める日
  6. 何もわからない日