可能、不可能
俺は走った。さっきの話をしたくて秀坂の家へ走る。
家に着く。窓を叩く。秀坂が顔を出す。
「おう、どうしたんだ? こんな時間に」
「ちょっと話したい事があってな」
「い、いや、その前にお前……」
「後で良いだろ、そんな事。それよりさ、俺の話を聞いてくれよ」
返事も待たずに俺は話し始める。
「さっき、自転車で、野球しに河原に行ったのな。それで、日も暮れて来たし、そろそろ帰ろうと思って、自転車にのって、漕いだんだよ。そしたら、なんか走りにくいな~って思って。なんとなく後ろのタイヤ見たら、なんと、鍵がつけっぱなしになっててさ。驚いたよ」
「じゃあなんで走れてたの?」
「それが分かんねぇからすごいんだろ。でもよ、鍵が掛けっ放しだって気付いた途端に自転車が動かなくなって。さらに驚いたよ」
「ふーん。でさ、お前……」
「ちょっと待て、もうひとつ話すぞ」
「え? ああ、うん」
「昨日、もう夜だったんだけど、学校から帰って、風呂に入る前にテレビを見てたんだよ。でも、なんか忘れてる気がしてさ。それで、気付いたんだ。俺、朝にブレーカーを落としたまま学校に行ったんだって。」
「じゃあなんで見えてたの?」
「それが分かんねぇからすごいんだろ。でもよ、そう気が付いた途端に何にも見えなくなってさ。しかも、電気とか、今消えたって感じじゃなかったんだよ。あったかく無かったし。でも後で番組表見たら、テレビの内容当たってたし。さらに驚いたよ」
「ホントかよ。そういや俺もそんな事あったぞ」
こんどは秀坂が話し出す。
「お前が来る前、買ってきた本を読んでたんだよ。面白い話でさ。夢中になって、一気に読んじゃったんだけど。読み終わって、本を閉じたときに気付いたんだ。」
「何を?」
「本のビニールカバーを外してなかったって事」
「マジかよ。俺と同じような感じじゃねぇか」
「それで、そう気付いた途端……」
「開けなくなった?」
「そう」
「なあ、こういうことってよくあるのかな」
「いや、そうそう無いだろ」
「でも現に、こんなに身近な二人が体験してるんだぞ」
「そうだな……」
「そういや、秀坂、さっき何か話しかけてなかったか?」
「ああ、お前、ここ、五階だけど、そこにどうやって立ってんの?」
そう気付いた途端……。
可能、不可能