ずいぶんと昔の話 3

 僕が高校生の頃の話。
 当時すごく好きだった後輩の女の子と一緒に帰ったときの話。
 思い出話。

 高校生の頃の話。と言っても、その日は卒業式。
 そんな日。

「おめでとうございます」
「ありがとうございます」でいいのかどうか分からないまま、返事をした。
 その日はなんとなく肌寒くて、僕は自販機を見つけると「何か飲む?」と彼女に聞いた。
「わかりましたよ。奢りますよ」と彼女は財布を出す。
「いいよ、僕が奢るよ」「卒業式を迎えた日の先輩に奢ってもらえるほどずうずうしく無いんですよ、わたし」
 ま、いいか。と素直に奢ってもらう事にした。
「コーヒーでいいですか?」「ブラックで」
「大人ですね、先輩は」と彼女は笑う。
「大げさな」と僕は笑う。
 本当は、大げさでも無いんだけど。大人ぶってみたんだけど。
 でもね、と彼女は言う。「私も今日は大人なんですよ」
「誕生日はまだだよね?」
「チークを変えました。ジルスチュアートですよ」
「化粧に憧れる。ってのは子供っぽくてかわいいと思うよ」と僕は笑った。
「じゃ、大人の女性が化粧をするのは?」彼女はふくれながら言う。
「あれは、化粧に必要性を感じてるんだよ」
 そうですね、そうだよ。と僕らは笑う。いつも通りの帰り道。

 彼女は紅茶を飲みながら、僕はコーヒーを飲みながら、歩く。道ばたに黄色い花が咲いていた。かわいいな、と思った。
「菜の花好きなんですか?」
「菜の花なんだ、これ」
「はい。好きなんですか?」
「嫌いだよ。まずいじゃない」
「そうですね」と彼女は笑った。「子供ですね、先輩は」と笑った。

「第2ボタン。残ってるんですね」
「いる?」と聞くと、彼女は手を出した。
 まさか。ね。
「空き缶。捨てといてあげますよ」
 ま、そんな所だろう。

ずいぶんと昔の話 3

昔書いた三題噺です。
お題は「菜の花」「空き缶」「チーク」でした。

ずいぶんと昔の話 3

僕が高校生の頃の話。 当時すごく好きだった後輩の女の子と一緒に帰ったときの話。 思い出話。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-21

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