竜神さまに乗って

 地域の伝承を調べて発表する。これが僕の案だった。
賃貸アパートの近くにある△神社の神主さんに事情を説明するとすんなり時間を割いてくれた。資料集めの手間が省けた。あとは、聞いた話を適当にまとめてそれらしく体裁を整えるだけて単位はいただきだ。
 「、、、そして、農民たちの祈りを聞いた竜神さまは空高く舞い上がり、その血を雨に、肉を豊かな地にかえたのです。こうして飢饉に苦しんでいた農民たちは救われ、その身を捧げて人々を救った竜神さまを祭るために神社を建立しました。それがこの△神社です」
神主さんの話は右往左往、まるで蛇のようにあっちこっちに逸れた。念のため録音機能を使っていたスマホは電池が切れ、一週間分の講義を上回るほど手を動かし、ノートを埋めるはめに陥った。
しかし、資料は十分すぎるほど手に入った。まとめるのは骨が折れそうだが、根を詰めれば、明日の午後の講義までの提出に間に合うだろう。
 丁寧に礼を述べ、神社の敷地内にある神主さんのお宅を出た頃にはすでにあたりは真っ暗になっていた。
 さむ。背をまるめて早足で歩く。
 △神社には境内に至るまでに長い石段があり、手すりが最近つけられたことを除けば、至るところが苔むしているなど歴史を感じさせる。
ただ、ほんとうに長い。神主さんの話ではこの石段は竜神さまを模しているとのことだが、そうなると△神社に参るためには竜神さまの背を踏んでいくことになる。それでいいのか。まあ、模して、いるだけだからいいのか。
そのあたりも聞けばよかった。考え事をしながら石段をくだる。
 家に帰って晩御飯をつくって。食材あったかな。いや、レポートつくらないとだから簡単に済ますか。
 ふいに地面がぐらりと揺れた。
地震か。手すりをつかもうと伸ばした腕が空をつかむ。
驚き、横を向くとそこあったはずの手すりが消えていた。
 揺れは立っていられないほど激しくなる。耐えきれずに石段に手をついた。そこには、石のざらついた感触、、ではなく大理石のようなつるりとしたものがあった。例えるなら、魚の鱗のような。
 その間も揺れは止まらない。だが、揺れというよりはうねっているようだ。波のように、一定のリズムをもっていることにも気づいた。
 もはやなりふり構ってはいられず腹ばいになって、その鱗のようなものにしがみつく。
 テープをはがすように、ふいにぐんっ、と目の前が反り上がる。ジェットコースターの上りの部分のようにぐんぐん空に登っていく。
 視線を思わず下に向けると、見慣れた町は姿をかえ、そこにはどこまでも広がる森、そして山。
 怖くなって顔をあげる。
 あ。
 息がつまる。そこには、視線の先には狼のようにとがった口先と、猫のように怪しく光る瞳をもつナニかの顔が。
 竜神さま、、?




 気づくと僕は元通り石段の上にへたりこんで、手すりをガッチリつかんでいた。足元にあるのは間違えようもない石で、もううねることはなかった。
 その後、僕の周りではちょっとした幸運が続いた。人気アーティストのチケットがとれたとか、なくしものが出てきたとか、そんな感じの。
 怖がらせてごめんね。
そんなことを神さまも思ったりするのだろうか。

竜神さまに乗って

竜神さまに乗って

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-26

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