幽霊発見体

私は力を持っている

 小さい頃から他人よりは敏感だったと思う。でもそれをはっきりと意識したのは小学6年生の時。近くの空き地に遊びに行ったとき、私はおじいちゃんの幽霊と話した。
 友達はそんな私を気味悪がっていたけれど、私は確かにそこに人がいるのをみて、そして話かけ、彼は言葉を返してくれた。友達がそこには誰もいないというので私はおじいちゃんに尋ねた。あなたは何ですか? 誰ですか?
 私はずっとここに漂っている魂です。
 要するに、幽霊ってこと。
 私は幽霊とお話しが出来る。幽霊の姿を見ることが出来る。でもそこらへんにいる全部の幽霊が見えるわけじゃない。ふとした拍子に見える。どんな条件が重なったらそうなるのか、いまだに自分でもわからない。
「ゆな、行くよ」
「うん」
 ゆな、と呼びかけてくれる。とても優しい声で呼びかけてくれる。この人は亜麻さん。高校の先輩で探偵所の助手をしている。ある事件をきっかけに私も探偵所を手伝うことになったのだ。もうかれこれ1年くらいたつのか。
「ねえ、知ってる? 余市の話」
「例の神隠しのやつですか?」
「そうそう。また2人くらいいなくなったらしいよ」
 余市と言う地区にとても大きな廃墟がある。そこは小さい男の子たちの遊び場になっている。しかし最近そこで相次いで行方不明者が出ているのだ。
「なんか潜んでいるとか?」
 私が言うと亜麻さんは「サイコキラーとか?」
「廃墟で暮らすサイコキラーって、なんか雰囲気ありますね。映画みたい」
「なんか想像したら怖くなってきたわ」
 亜麻さんと並んで歩く。もう15分ほど歩いただろうか。探偵所に着いた。
「よお、二人とも」
 出迎えてくれたのは東条さんだ。ここの主任探偵だ。
「連絡した通り、仕事が入っているからね」
 
 東条さんによると仕事というのはさっき噂をしていた余市のことだという。
「あそこで息子さんが行方不明になった親御さんから依頼を受けたんだ」
「でもどうやって調査するんですか?」
 亜麻さんの問いに東条さんはうなずく。
「それだ。まずはゆなを連れて行く」
「ゆなを?」
「誰か幽霊がいないか見てみて、もしいたら話を聞いてみよう」
「幽霊がいたとしても、私見ることが出来るかどうかわかりません」
「まあ、その時はその時だよ。取りあえず行ってみよう」
 東条さんはもさもさの髭をなでながら言った。


 余市の廃墟は外より冷たい感じがする。もとはリゾートがあったというが今は大きな建物の廃墟が二つあるだけだ。足元が崩れそうになっているところもあるので用心しながら歩く。
「ゆな、最近調子はどうだ?」
「何ですか、いきなり?」
「いや、なんか大丈夫かなと思って」
「なんですか、それ。大丈夫ですよ」
 東条さんはまだ例の事件を引きずっているのだ。もう心配ないのに。
 廃墟の床には椅子やら何かの布きれやらが乱雑に散らばっていて、尖った破片などもたくさん落ちている。こんなところで遊ぶなんて。
 しばらく中を歩いていると、私は頬に何か冷たい空気が当たるのを感じだ。
 はっとしてそっちの方向を見てみると、そこには。

「きゃあああああああああああああああああああ」
「どうした! ゆな!」
 思わず悲鳴を上げてしまったが、よくみると普通の青年だ。ただとても痩せているし、やつれていて目がくぼんでいる。
「東条さん、この人が見えますか?」
「この人? 人がいるのか? どこに?」
 やっぱり東条さんには見えないんだ。じゃあこの人は幽霊だ。
「ここに幽霊がいます」
「本当か!?」
 私は青年をじっとみつめた。何日も何も食べないでどこかをさまよっていたような、そんな風貌である。
「あなたに、聞きたいことがあります。ここで何人もの少年が行方不明になっているのだけれど、あなたは何か知りませんか?」
 青年の幽霊は首を右、左、右、左、とゆっくり傾けたあと、こういった。
「知りたい? 知りたければね」
 幽霊は口をがばっと開けた。

 ゆなと東条は青年の口へと吸いこまれていった。

幽霊発見体

幽霊発見体

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-26

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