寄ル辺
これまで
・10ペェジめくれば終わる青春書 青き田流れゆくなかを
・同居人の去りし空き部屋に残さるる鏡一枚木のごとくあり
・居酒屋にポスターを貼るわれの背で今社会は動いていたり
・レエス越しに猫歩み寄りわれに気付かずベランダに眠りたるらし
・寝にもどるのみの妹の部屋ではピアノのみが思い出となり
・家もまた壊れゆくものと告げたり猟友会の弾丸の跡
・両翼のごとく腕をひろげたり子は母の名を呼び走りゆく
・地下鉄は今われの直下掘りたるかキンキンと鉄鼓動のごとく
・かの映写技師は老齢ものともせじ裸眼は蝶をみるためにあると
・走れども周回遅れの児の背には哀しき過去の焼け跡ありし
・喫茶店まで漏れ入るは真向いのライブハウスの青年の歌
・岸に立つ巨木のコブに蜘蛛居たり 苔の芽食いて巣は張らぬなり
・蟹這いに入りし塀と塀の間に光そそぎし猫の骨あり
・たんぽぽの根をおろさんと車内飛ぶ今はわれとて次には彼方
・赤々と焼けたガラスに吹き込みて息はわれより強しと思う
・告白をせし夜はまま自惚れて帰る道すら覚えておらず
・電燈や雷鳴なども気にとめず浅蜊は停電すとも潮を吐き
(2015/11/25)
転居記
・夜も更けて照らすものなき街燈の灯りの下に一匹の猫
・そばにいておなじものを見ものを食べふたりで語るときこそ貴き
・ひっそりと柵のむこうでさびてゆく公園遊具の声きしみたる
・ひとがみな働きしときに起き出してかじるトーストかたく冷えたり
・暗き坂のぼりし先の異人館さびしき瞳の風見鶏かな
・遠き日の新宿のママらの声が二百三百浮かんでは消え
・窓外のそぼ降る雨をながめては腹が減りとて筆をすすめる
・どこでまた寝覚めようとも哀しみの荒野はだれのまえにもある
・隣人のプログレロックもありがたしひとり寝の夜も寂しさ紛れ
・古都の昼つと月の庭眺むれば人のざわめきも遠き世のごとし
・道行きの人の別れも世なるならわれも六道の井戸を覗かむ
・たがためにトロンボーンをかきならす航空公園の少年よ
・胃病みて床臥したればなにもせず高速道路を眺めていたり
(2015/11/25)
寄ル辺
「これまで」
過去に書き溜めた短歌に手を加えたものです。
いま見てみると気取りすぎていたり、あからさまに調子を崩しているのが恥ずかしくもありますが、
なるべく当時のままにしてあります。新しいものと見比べてゆけたらと思います。
「転居記」
ここからは現在の積み重ねです。
訳あって東京から大阪へ引越しました。
その思いを上手く込めてゆけたらと思います。